【新刊】『透明人間 Invisible Mom』発売です
(2023/12/8)
山本美里『透明人間 Invisible Mom』本日発売です。
本書は、フリーランス編集者綾女欣伸さんから企画を提案いただき、制作しました。
編集担当綾女さんから、刊行までの経緯を寄せていただきました!
*
編集を担当した、編集者の綾女欣伸と申します。
『シルバーアート 老人芸術』(2015年)という本をに一緒に作ったアウトサイダーキュレーターの櫛野展正さんから久しぶりに連絡があったのは、僕が編集者として独立した年、今からちょうど1年ほど前のことでした。
最近知り合った人ですごく面白い人がいる、写真集を自費出版してもう800部くらい売っている、ご興味ありませんか?とのこと。
櫛野さんがそこまで言うならと、すぐにその「透明人間 Invisible Mom」というサイトで写真集を注文。「医療的ケア児」と呼ばれる重度の障害を持つ息子さんを母親が撮った、ということで、福祉・教育・医療の現状をテーマにした内容なのかな?と勝手に思っていたのですが、届いた本を開くと想像をはるかに超えていました。
そこに写っているのは息子さんというより母親の山本美里さん自身。しかも「医療的ケア」という主題に不釣り合いなほど、おどけたりふざけてみたりしていて、それで書名は「透明人間」。皮肉に見えて批評性のある文章も添えられて、展開は1本の短編映画を見ているよう。重いけれど、明るい。存在したり、消えたり。
折よく開催中だった国立駅旧駅舎の展示で写真にあらためて胸打たれ、調布のサイゼリヤで会った山本美里さんは本の中から出てきたような溌剌さで、写真集と医ケアのこと(本が売れたらここに写っている保護者控室は「聖地巡礼」の対象になりますと言って特別支援学校の校長にプレゼンしたなど)、いま取り組んでいる新作についても楽しそうに語ってくださいました(家族写真ということで深瀬昌久についても盛り上がりました)。
さっそく、そのころ通い始めてもいた出版社の社内会議にかけたのですが、なかなかうまく通すことができず、櫛野さんによる山本さんについての記事もウェブ版「美術手帖」に掲載されたまま「このまま何もできずに終わってしまうのか……」と焦っていたところ、親交のあったタバブックスの宮川さんに企画を持っていくと――
「出しましょう!」「えっ、だ、出せるんですか!?」(あいだの経緯はやや省略してます笑)
となってめでたく出版の運びとなりました。
今回の書籍化にあたり、山本さんがどうしても撮りたかったという写真2点を追加、写真と文章の流れは自費出版版が完璧に近い形だったのでほぼそのままなのですが1箇所だけ順番を入れ替え(自費出版版をお持ちの方はぜひ比べてみてください)、山本さんの今の心境を綴った「あとがき」を加え、さらに山崎ナオコーラさんと櫛野展正さんの寄稿も収めています。
山崎ナオコーラさんが家族で展示を見に来てくださった、と山本さんから聞いてから文章をお願いしたいと思っていたのですが、なんと依頼直後にBunkamuraドゥマゴ文学賞を『ミライの源氏物語』でご受賞!(あらためておめでとうございます) 寄せてくださった文章「お母さんは、自由だ」は山崎さんが目標とされている、「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書く」ことそのものでした。
櫛野展正さんの寄稿「隠された母親たち」は上の記事を加筆・修正したものですが、解題「山本美里 人と作品」といった内容で、山本さんの半生と人となり、作品のモチーフなどが、障害のある人たちのアートに長く携わってきた櫛野さんの目線で語られています。
装幀は、井戸川射子著『この世の喜びよ』(講談社)のデザインも素敵で、その前からずっとお仕事してみたいと思っていた六月さんに依頼。当然のように文字組みは美しく、写真の流れにはメリハリがついてさらなるストーリー性が生まれ、カバーには山本さんの作品に通じる明るさが灯りました(表紙はカバーを取ってのお楽しみ)。
本のサイズもA4からA5になったことで、「これで展示のときも販売用の本を持ち運びしやすくなってうれしいです」と山本さんはお喜びでした。
“見えないもの”とされている、すべての母親たちへ――
「Invisible Mom」という副題にも、「医療的ケア児」の母親だけでなく、さまざまな「ケア」に従事して透明になって(されて)いる母親たちへの思いが込められていますが、と同時に、そうした当事者性の「外」へどうやって出るのか、そのための“明るい”表現の仕方がこの山本さんの写真と言葉なのだと気づかされました。
最後に、本書刊行にあたって山本さんから寄せられたメッセージを。
- – - – - – - – - -
特別支援学校の保護者控室でただ1日が過ぎていくのを待っているだけの毎日に辟易していた頃、私は写真に出会いました。家事、育児に追われ、徐々にぼやけていく自分自身の輪郭。そんななか、カメラのファインダーをのぞいている間だけは、自分自身の姿がはっきりとそこにはありました。私が日々何を見て、何を感じ、何を思っているのか。1日の終わりに、その日に撮った写真を眺めていると、私の毎日は私が思っているよりもずっと豊かなものかもしれないと写真は私に気づかせてくれました。
この写真集には、私が子どもの学校に付き添いながら、見てきたこと、感じてきたことがつまっています。私は学校の中では透明人間でした。でも、写真は見事なまでに「透明人間」である私自身の姿を写し出してくれました。私にとって写真は今もこれからもこの先もずっと一番の友達であり、一番の共犯者です。
「まずは知ってもらうことから始めよう」を合言葉にこれからも進んでいきますので、今後とも見守っていただけたら幸いです。
- – - – - – - – - -
本書出版の行方が不透明になりかけたころ山本さんからメールで頂いた、ある決めゼリフが制作中もずっと僕の頭の中にありました。
「もう私の姿を見てしまったからには、綾女さんももう見て見ぬふりはできませんからね(笑)」
山本さん、見えている者として、少しは応えることができたでしょうか?
この本と作品が今後どんな旅路を辿っていくのか、楽しみですね!
*
★来年(2024年)2月には東京にて出版記念トーク(配信あり)を開催予定!
★来週から長野県塩尻市にて山本さんの展示があります!
山本美里写真展「透明人間 -Invisible Mom-」
2023年12月15日(金)~12月28日(木) ※最終日は16時まで
塩尻市市民交流センター えんぱーく(図書館内森のコート)
山本さん出演のトークは12月24日(土)14時、同5階イベントホールにて
https://enpark.info/wp-content/uploads/2023/11/f9d4a1b035f90743c326f29c2045de7c.pdf
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