お知らせ

『失われた賃金を求めて』訳者からのメッセージです 

(2021/2/16)

『失われた賃金を求めて』の翻訳を担当してくれた小山内園子さん、すんみさんからメッセージが届きました。

 小山内園子さんより

本書が刊行される直前に、また、信じられないような女性蔑視発言がありました。当然怒りに震え、何か行動したいと思っていたとき、あるフェミニストからこんな言葉をかけられました。

「もちろん許せない発言だよ。いまどき、よくもまああんな認識だと思う。ただああいうのは絶滅危惧種かもね。特に今の労働現場の性差別ってもっと巧妙で、見えにくいから。そのぶん連帯もしづらくなっている気がする」

確かに、以前にくらべれば労働の現場で目に見えた性差別は減ったかもしれません。体力のある企業であればあるほど能力主義を標榜し、性別を理由にした不利益はとっくに解消したかのようなふるまいです。実際に女性役員がどれくらいいるかは別として、表向きは「差別していません、だってこんなにシステムもチャンスも用意しているんですよ」と言われてしまう社会。生き残れないのは個人の能力の問題にされてしまう社会。そこだけに反論しようとするとなかなかことばが見つからない。つながれない。

本書で、イ・ミンギョンさんはふたたび<ことば>を武器にしています。さまざまなデータや事例を駆使しながら(多くはその気になれば誰もがアクセスできるもので、実は身近なところにこんなにも考えるべき事例があったんだと、翻訳中著者のアンテナ感覚に舌を巻きました)問いを投げかけ、ことばを集め、そしてもう一度私たちに見せてくれます。この社会にひそむ、巧妙な差別を。思い込まされていることを。

どうぞ赤いシートをかざしながら、今まで気付かなかった現実を一つでも多く見つけてください。

小山内園子

 

 すんみさんより

 大学を卒業するまであまり男女差別を感じずに生きてきました。高校までずっと女子校だったからだったからかもしれませんし、学校ではずっと男女は平等だと教えられていたからかもしれません。自分がそういうものに無頓着だったからかもしれません。

しかし、韓国フェミニズム・リブート以降、多くの女性たちと同じく、私も自分の置かれてきた状況を振り返ってみることになりました。それから勉強の日々が続いています。

本書を翻訳しながら、これまで自分が聞かされてきた言葉を思い浮かべてみました。「女の子だから無理してソウルにある大学に行く必要はない」「女の子はもともと数学ができないから大丈夫」「人と会うときは化粧をちゃんとした方がいい」「みんなに愛されるためには愛想よく振る舞わなければいけない」……ときには私を勇気づけ、慰めようとした言葉に、実はいろんな可能性を奪われてきたのではないか。自分でも気付かないうちにさまざまなチャンスが奪われてきたのではないか。そう思うようになりました。本書に紹介されている80年代の話に驚き、というよりも「信じられない」という思いを抱き、資料を調べてみて、男女差別を禁ずるさまざまな制度ができた今もなお状況がさほど変わっていないことにふたたび驚きました。そして自分の中で抱いていたいくつかの違和感は、女性の「失われた賃金」の問題と関係があることに気付き、納得できました。

もうわかってしまった以上、以前の無頓着な自分には戻れません。何が問題なのか。どうすればよいのか。どのような道があるのか。なにができるのか。これからも勉強を続けて、考えていくつもりです。みなさんもどうか、この本を読んで感じるところがあったならば、ともに学び、行動していきましょう。

 すんみ

実は、『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』発売日のブログにお二人からコメントをもらったので今回も、と気軽にお願いしたら…ブログの一部ではなく改めて読んでいただければと思い、こちらにまとめました。
翻訳は言語を訳すだけでなく、作者とその環境、社会まで理解し自分に落とし込みことばにすることを、お二人の仕事で実感しています。本書と併せてお読みいただければ幸いです!

 

トップへ戻る