25歳、本と私#8 返品了解がめんどくさい問題。
(2023/3/24)
こんにちは。先日、バイト先の書店に推し(作家)がサイン本を書きに来てくださって、緊張してめちゃくちゃ汗をかいたげじまです。
今日は、3月18日にあった安堂ホセさん×竹田ダニエルさんのトークイベントがとても良かった!という話を書こうと思っていたのですが、今週、職場の本屋で若干イラっとすることがあったので、やっぱりそれについて書きながら自分の頭を整理しようと思います。
イラッとしたのは、雑誌の「返品了解」というものについてです。
チェーン書店に並んでいる雑誌の多くは、出版社から「取次」という本の問屋を介して、書店に届いています。取次は実績などから入荷数を決めて、各書店に配本してくれています。そのため基本的に書店側から発注をしなくても毎号入荷するようになっていて、悪く言えば書店側が「要らない・売れない」と思う雑誌も、取次が決めた分は勝手に入ってきます(書店の意思はどこ)。
逆に、書店で売れ残った雑誌を出版社に返品したいときも、この取次を介して返品します。たとえば週刊誌や月刊誌は、決まった間隔で次の号が刊行されるため、次号発売のタイミングで前の号は返品しています。雑誌には返品期限があり、期限内なら取次が出版社に返してくれるのですが、問題は期限切れの返品です。
期限切れの雑誌は、取次に返品しても「逆送」といって書店に返ってきてしまうんです。逆送が増えればそれだけ配送料がかかり、しかも何ヶ月も前の売れ残った雑誌の在庫が溜まっていく……という悪夢のようなことが起きます。
その悪夢が積み重なった事務所の一角をなんとかしようと一念発起したのが、今週火曜日の祝日でした。祝日は取次が休みのため入荷がない、つまり品出しするものがないので暇だったのです。いつも品出しと発注に追われて1日が終わっていく日々なので、この溜まりに溜まった逆送の山を切り崩せるチャンスは今日しかない!と思い、さっそく立ち向かうことにしました。
逆送で返ってきてしまった雑誌は、出版社に電話やFAX(えっ、FAX?と思われるかもしれませんが、出版業界はFAXバリ現役です)で「返品了解」を取り、「この商品はちゃんと出版社にお伺いを立てて返品していいですよとお許しいただいてますよ〜」という紙を貼っつけて送り直さなければなりません。
祝日、取次はもちろん出版社も休みで電話がつながらない中、FAXといういにしえの方法(しかもうちの店舗にはFAXの機械がないのでネットで送れるウェブFAXという矛盾した手段)を駆使して「返品了解ください!」と送りまくりました。
そして翌日、いろんな出版社から「はい、返していいですよ」というお返事が届いていました。
しかし、その中に「了解してあげますよ。でも返品期限が大幅に過ぎているので次回からは気をつけてほしいですね」みたいな嫌味とも取れるコメントが手書きで書かれた返事があったんです。
そのコメントを見た瞬間、私はイラッとしました。書店側の気持ちを声を大にして言うと、
じゃあ売れるもの作れよ!!!!
っていうか、こっちは発注してねえよ!!!!
でした。自動配本で勝手に取次から送られてきた雑誌が売れなくて、広い店のどこかの棚に紛れてそのうち返品期限を過ぎて、返そうと思ったら逆送で返ってきて(てか取次も逆送してくんなよ!)、仕方がないから出版社も取次も休んでいる祝日にやっと、返品了解くださいFAXを送って、それで嫌味言われるって、何?という感じでした。
このとき気づいたのは、雑誌を作っている出版社も、雑誌を振り分けて配本している取次も、書店という存在をずいぶん下に見ているんだなということです。
書店側が頼んでない商品を勝手に送りつけておいて「そっちの自己責任で返品してね」「期限過ぎてるからちゃんとやってよね」とコメントできるその傲慢さに腹が立ちました。
出版社や取次の社員と比べて、書店員はかなり薄給です。私は東京都の最低賃金で働いています。でも書店がなければ本は街に並びません。本がリアルで売れるのは、書店員が毎日毎日入荷するダンボールをさばいて、売れるように並べているからです。当たり前のことですが、本は作って終わりではなく、お客さんの手に届いて初めて読まれます。
あのコメントを書いた出版社の人は、自分に決められた仕事を流れ作業でしていて、期限過ぎた雑誌が戻ってくるのが自分にとって面倒くさくて、だからとりあえず書店に一言文句を書いてやろうという感じだったのかもしれません。
その人たちにとっては、返品了解を求められたその一冊の雑誌が、自分の会社が作って出しているもので、売れることなく残ってしまっていて、ついに返されるということの意味が空っぽなんだなと思いました。
私がもし作る側の人間だったら、(というか私も実際にZINEを作って書店さんに卸させてもらっているのですが)「売れなかったらどうしよう」と「売れなくてごめん」が先にくると思います。「ちっ、めんどくせーな」の前に。
出版社も、逆送で送ってくる取次も同じことです。自分が毎日やっている流れ作業が、どこと繋がっているのか、背後に誰の仕事があるのか知ったほうがいいと思います。出版社の人間と取次の人間は、文字通り全員、書店で数ヶ月働く経験をしたほうがいいと思います。
私は出版社とチェーンの書店で1年働いて、だんだん出版業界のなかの権力構造や歪みが見えてきました。
私は私が並べる本の内容で社会を変えるのと同時に、本の流通システムにも異議申し立てをしながら本屋をやりたいです。
(げじま)
(怒りの文章になったので、読後感を中和する通勤中の花の写真です)
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