たかが映画なんだけれども 第19回「愛がなんだ」
(2019/6/28)
誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第19回は「愛がなんだ」。評判いいしヒットしてそうだし、でも恋愛映画なーと手を伸ばさなかったもののいろいろあってみてみたらよかった…そして映画のようにだらだらと話し続けてしまった。もしや私たち恋愛好きなのか、みたいな!
STORY
猫背でひょろひょろのマモちゃんに出会い、恋に落ちた。その時から、テルコの世界はマモちゃん一色に染まり始める。会社の電話はとらないのに、マモちゃんからの着信には秒速で対応、呼び出されると残業もせずにさっさと退社。友達の助言も聞き流し、どこにいようと電話一本で駆け付け(あくまでさりげなく)、平日デートに誘われれば余裕で会社をぶっちぎり、クビ寸前。大好きだし、超幸せ。マモちゃん優しいし。だけど。マモちゃんは、テルコのことが好きじゃない・・・。
「俯瞰してみると一人称じゃないからそれぞれみんなに説得力ある」
「テルコの異常性みたいなのは、映画はあんまりないかも」
み 自分が見ないからかもしれないけど、恋愛だけがテーマの映画ってなくない?
か 途中から急に面白くなったけども、それまでやっぱ私には恋愛恋愛の映画は無理だな、つらいなって…。最後まで見た感想としては、最初のほうがあの長さあったからあとに生きてくるっていうのがあってしょうがないなと思ったんですけど。
み あの二人の恋愛、恋愛なのかな?まあテルコの方は恋愛だけど。パーティーでなかよくなって抜け出してキスして期待大って感じだったのに、最初テルちゃんて呼ばれたのに田中さんて言われて、料理作りに行って張り切って風呂掃除までして。
か うーん、あのホラー感はうまいなと思いました。
み 追い出されて喉乾いて、300円くらいしかなくてタクシー乗れないけど発泡酒なら買えるかもってロング缶買って。
か それ小説だとおもしろいんでしょうねえ。
み おもしろい、笑える。タクシーで葉子の家に行ってナカハラが迎えにきてっていうのも原作と同じ。雰囲気も違和感ない。けど、ナカハラが旅行に行くのはなかった。あれは意味があったよね。スミレさんに葉子さんはひどい女だって罵倒されて「そんなことないっす!」って。
か あそこよかったですよねえ。4人で行ってあの会話があることで物語が動くし、説得力あるし。私も本が出た2003年頃に読んだはずなんですよ。全然覚えてないんだけど、スミレさんていう第三者の女性が現れて、ってことだけ覚えてた。なんかそっちに気を取られて、スミレさん行けー行けーって思った記憶が。
み もうどうすんだよってところでスミレさん出てきたからね。
か 小説、なんだこりゃーって部分が多かった気がする。でも映画ではそうでもなくないですか?
み あーそうだね。
か 俯瞰してみてしまうと、一人称じゃないからそれぞれみんなに説得力あるっていうか。
み テルコの異常性みたいなのは、映画はあんまりないかもしれない。だってあんなに優しくされたらやっぱり恋人だって思うでしょ。毎日一緒にいてごはん食べて。
か かつそれが重くなるとか怖くなるっていうのもわかる。誰のこともそうだそうだって思えるかんじ。
み 引き出しの靴下がぐちゃぐちゃで、それをテルコがしょうがないなーみたいにきれいにたたんでたの見てマモちゃんがげってなって「もう帰って」とかね。小説ではテルコ目線だから、急に怒ったのがなぜかわからない。もっといやな男だった。
か 映画はあんまりその感じはなかったですよねー。
み それは、かっこいいから。成田凌だよ!
か そうか、映像はずるいよ! あの自分はかっこわるい部類だからって言うシーン、いや、かっこいいじゃん! なに言ってんだよ! って思いましたよ。
「自分もそうかもしれないしとか。だから共感して泣いてるの?」
「もっとわけわからない感情ぶつけられると思いきやおおむね腑に落ちる作りになっていて」
か そういえば宮川さん、恋愛映画を見ないって。いや見たじゃないか、「寝ても覚めても」をって思い出しました。
み 恋愛だけど、あっちは失踪したり、瓜二つの男が出てきたり。
か いろいろすごい! 「愛がなんだ」はトリッキーな感じはないですよね。なんかこういうこともあるかもしれないなっていう面が強いような。
み 同じような人が周りにいそうだもんね。自分もそうかもしれないしとか。だから共感して泣いてるんじゃないの?
か あー、そうだ。どこで泣くのか問題ですよ、私が聞きたいのは。私としては、もっとわけわからない感情とかぶつけられると思いきや、なんとなくこういうことなんだろうなっておおむね腑に落ちる作りになっていて。だからこそ逆にどこで泣くんだろうって…。共感なのかなあ。
み 泣くところ…どこだろう…あ、ナカハラ?
か ナカハラが恋を諦めるところ?
み そうそう「正直辛いんすよ!」みたいなところ。
か あー。あれは恋とかじゃなくて、辛い状態にいる人間の感情の発露に共感するって感じですよねえ?
み あれは恋の辛さでしょ!それはわかるよ、使いっぱみたいだけどそばにいられるだけでいいんすって言いながら、1対1になりたいけどかなわないから身を引くって。ストレートだよね。でも他の人たちは好きって言わない。なんで言わないんだろう。
か とりあえず会いたいってことにはブレがないわけですよねえ。
み でも会いたいとは言わないじゃない。「まだ会社にいるなら何か買ってきてくれる?」って言われて「ちょうど会社出るところだったんだよ」って嘘ついたり。
か 付き合ってるかどうかもわからないから自信もなくて不安になるとか?
み ずーっと連絡待ってるわけでしょ、金曜は来るかもって。そんなことやってて会社クビになって。それがちょっと景気いい時代な感じがして、そんなこと今できる?
か 会社もこじゃれてるし。全体は現代にトランスレートされてるけど、バブル感は残ってる感じしますよね。マモちゃんもすぐタクシー止めるでしょ、なんなんすかあれは。しかも相手が無職なのにそんな高そうな遊びに誘うなよ、とか。
み 「無職いいなー、1年くらいもらえるんでしょ」って言ってたよね。無職って言ってもずっとじゃなくて、失業保険もらえるくらいの感覚なんじゃない?
か でもテルコもわりといい部屋に一人暮らししてるんですよ、そんなほいほい遊びに行けるのだろうかとか。そういうことばっか気になって、私は。
「本人になりたいっていう気持ちは何なんですか」
「成就できないってわかっても、何らかの形でつながってたいって」
み でも結婚みたいなことを誰も言ってなかったのはよかったかな。テルちゃんも養ってもらいたいとか結婚したいとかじゃなくて、ひたすら恋愛だよね。恋愛って意味では自由恋愛だからいいんだけど。
か 基本的要素としてフェミニズム的にイラっとするところはない。
み 逆にマモちゃんに尽くしちゃって、なんでそんなことするんだ、って怒るフェミがいる?
か いないんじゃないですかねえ。好きでしたいって感じだし。内面化してるんだろうなあって。
み 内面化だろうけど、テルちゃんの家庭環境とか全く出てこないんだよね。
か そういわれてみれば! でもああいう感じになることあるんだろうなって人物描写としても嫌じゃなかった。かつ、逆パターンみたいなスミレさんもいるし、意外と目配りがきいている感じ。そういうのでいらいらすることがないっていうのはいいですよねえ。
み 「33歳で象の飼育員になりたい」ってマモちゃんが言って、それ聞いたテルコがその先も一緒にいられると思ったら泣けてきた、っていうのがちょっと結婚意識してた?
か そういえば仕事辞めた時も結婚するかもしれないしって言ってたけど、それはフワーっとなってるだけかなって思いました。私、象のシーンの時、「この人は私のこと考えてないんだな」って泣いてるのかなと思ったんですよね。そしたらそうじゃないってわかって、新鮮ていうか、わーってなってる人間はそう考えるのかって。でもまさかあれでその先の一生を想像して泣くとは。そこまでは思い至りませんでしたって、いいシーンだった…。最後のテルちゃんの像の飼育員シーン、あれは色々解釈できると思うけど、どうですか。
み うーん、あれはテルちゃんが田中守になりたいっていって、なったということかと。
か そういう感覚が得られたのかもっていう?
み かもしれないし、本当になったのかも、それくらいいっちゃってたのかもしれない。最後まで未練タラタラで終わるし、もう成就できないってわかっても、何らかの形でマモちゃんとつながってたいって。
か そっかー。私はあれはテルコの白昼夢かなって見てた。でも私思ったのは、ああいう関係で10年くらい遊んでたら、意外と仲良くなるような気がするんだけど。
み いやそれはないんでしょ。だから像の飼育員になっちゃうんじゃん。一緒になったってうまくいかないから田中守になるしかないって。
か えー、その本人になりたいっていう気持ちは何なんですか。取り入れたいってことー? 恋。わからねえ。
み 会社辞めた時点で、マモちゃんと一緒になっちゃってるからね、自分の中で。「勝手にふるえてろ」も妄想全開の話だけど、妄想だけだよね。でもこっちは微妙っていうか、その人の気持ちがどこまで本当か妄想なのかが、逆にリアルなのかも。部屋に来てもう会うのやめようって言われて「マモちゃん思い上がってるんじゃない?好きなわけないじゃん」ていうのが、精一杯の虚栄心だよね。
か あれ、すごい機転が利きますよねえ。自分だったらちょ、ちょ、ってなりそう。
み それが辛くて、ううって泣いちゃうのかもね。
か あの時ああ言われて「ああよかった」って思うか?って。
み マモちゃん?だから鈍感なんでしょ?
か ええーっ、そこまで? あれ本気で言ってるんすか。本当にそれ以外の余地なし?って結構動揺した。
み アホなやつなんでしょ。なんであんなやつ好きになるんだって本当その通りのダメ男なんだけど、映画だとちょっとかっこよすぎて誤解しちゃう。
「この恋だけにスポット当ててるから共感を得られる」
「ずっと迷ってていいんだ、恋愛うまくいかなくてもいいんだ、とか」
か この映画見て思ったのは、あまりにも過剰に好かれると、不均衡状態にいるのって結構ストレスになるから、引いちゃうってことがままあるんだろうなーって。
み 好きが高じてお母さんになってるじゃん、テルちゃんが。いきなり風呂掃除とか。
か その支配欲も恐怖ですよね。同じことをマモちゃんも、スミレさんの灰皿変えてあげたり、しがちじゃないですか。あれを見たらやっぱり引くよなってことを思いました。
み 原作で以前の恋愛が出てくるんだけど、彼の負担にならないようにってことばかりしてて、浮気相手との旅行にお金使われたりしても繋ぎ止めておきたいって。
か そうなんだ。映画だと、あんまり恋をしたことない人間がこれぞって恋しちゃってわーってなった、みたいに見えませんか。
み 地味な子に見えるからね。
か そんなにたくさんダメな恋愛してる感じには見えなくて。この恋だけにスポット当ててるから共感を得られる。もうちょっとぶっ飛んだりダメだったりすると受け入れられないとかもあるのかなあ。
み 好きか嫌いか、ずっとこのままでいいのか、とりあえずもうちょっと先延ばしみたいな。ずっと迷ってていいんだ、恋愛うまくいかなくてもいいんだ、とか。あの二人は30歳近く?スミレさんが34,5歳だよね。それくらいで結婚してないのは普通だし、焦ってもいないけど、ずっとこのままなのかな、あー共感みたいに思うのかな。人ごと!
か 恋愛じゃなくてシンパシー感じて、ちょっと仲良くなるみたいな。でもテルコとナカハラ君がストーカー同盟解散だねってなってもう会わないって、別に二人で会ってもいいのになー。淡いですよね。
み 淡い?
か 淡い! 同盟を組んだり、年越しでちょっとだけ心を通わせて、よそよそしいながらもいい会話を交わしたところに私は一番グッときました。
み テルコとマモちゃんは自分のことしか考えてない。そういう感覚に共感するのかな。ゆとり教育、個人を大切にするとか。
か いや、個人主義を突き詰めたら絶対あんなことしないですよ。パンツたたまないよ。たたみたいならたたんでいいか確認しろよって思うよ。
み お互いそうだよね。マモちゃんが「5周くらい先回りしてやるのが嫌だ」っていってたけど、お前もそうだよ。
か そういう入れ子構造みたいなのがおもしろいですね。あっちでもこっちでも。自分が好きと思ってる人間が他の人を見てると注目しちゃうみたいな、最後の視線の応酬とかもよかったですよね。うまくできてる。ヒットするだろうよーって。かつての自分が見たら、こんな風に人を好きになってみたいって思うのかなー。
み でも好きになっても、伝えないわけじゃない?
か 今だったらはっきりしろよって言えるけど、言えずにあんな空回っちゃうくらい人を好きになってみたいって、20代だったら思った可能性あるなあって。こういうのがつまり恋なの!?って。私だって「愛はなんだ」を読だ時はまだ20代前半で、結構あの頃角田光代さんの小説を読んでて、たぶん熱い感じに憧れがあったんだと思うんですよ。
み 熱い恋愛ではないんじゃない?
か なんかわかんなくなっちゃうみたいな。すごく好きになってどうしようもなくなるってことに憧れる時期っていうか。今の私にはないけど。そういう自分の現在地の再確認っていう意味で面白かった。恋ってものへの刷り込みが大きかったのかなあとか。
み 少女漫画とかってこと?刷り込みはあったかもしれないけど、自分が恋愛したらこれだってわかるんじゃない?
か ありますかねー、刷り込みなくてなる?もうその人だけみたいな?
み その時ああ、これは刷り込みだ、とか思わないでしょ!(延々と続く…)
夜中環七沿いを金麦ロング缶飲みながら歩く。リアルすぎ〜 イラスト み
愛がなんだ
監督 今泉力哉
製作年 2019年
製作国 日本
上映時間 123
http://aigananda.com
み=宮川真紀(タバブックス)
好きなジャンルは、ホラー、SF、社会派ドラマ。今月は「マルリナの明日」「ウィーアーリトルゾンビーズ」といい映画続きでよかったなー。しかし気づくと終わってるの多くて、上映期間短すぎませんか…
か=かとうちあき(野宿野郎) 苦手なジャンルは、ホラー、アクション。最近だと、モダンスイマーズ の「ビューティフルワールド」が面白かったです。って演劇だー! ぜんぜん映画観てないです……。
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