やっぱり映画なんだけれども

たかが映画なんだけれども 第11回「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」 

(2018/8/31)

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誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第11回は「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」 。いっつも、どんな映画でも必ず女性の描き方に文句をつけるかとうが、なんと手放しにほめた!フェミニズム的にこれが正解なのか!突っ込むところはないのか、探しながら語るというレアな回となりました。

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女対男感あふれるビジュアルだけど、そんな単純な話じゃなかった…

 

「当時〈キング夫人〉がトップ選手だったっていうのは覚えてるけど」
「なぜに〈夫人〉!」

 

み 女対男の、テニスの試合対決の映画だと思ってたけど、恋愛要素もすごくあったよね。

か 途中、大丈夫かなって思った。こんなに恋愛ばっかで、テニスどうなるんだろうって。

み 当時「キング夫人」がトップ選手だったっていうのはよく覚えてる。その時は全然疑問に思わなかったけど、なんだキング夫人って(笑)。

か なぜに夫人!

み 『エースをねらえ』のお蝶夫人みたいだよね(笑)。もしかしてお蝶夫人はキング夫人からとってたのかな?

か 凄いですね。どっちが先だろう?リアルタイムで読んでいたんですか?

み 読んでたかな?アニメもやってたんだよね。それは、めちゃめちゃ人気あった。

か よく考えたらお蝶夫人って高校生なんですよね。それで夫人って……。映画ではマーガレット・コートさんが「コート夫人」って言われてて、呼ばれるたびに、夫人かーって思ってました。

み 試合シーンが結構長くて、だんだん本気になっていくところが面白かった。けどたぶん今のプレースタイルとは違うよね。おそらく。

か のかあ。わたしはただあんまり上手くやれないから、テロテロやってるのかなあとかところどころ思っちゃったんですけど、あれは昔のプレースタイルを忠実にやってるんですか。

み 男性が手を抜いてるみたいな?

か いえ、両方が。もうちょい迫力くれよ!って思ったんですけど(笑)。昔はあんな感じだったんですか?

み うーん。マッケンローのプレイスタイルとかは、今にちょっと近い気がしたけど、むかしはねぇ。

か 技術もラケットも違いますもんね。

み そうそう。デカラケじゃなくて、木の枠のちっちゃいやつ。

か なんかもうちょっとスピード感が欲しいなって。

み あれって自分でやってるのかな?

か それも気になった。見入っちゃうので、すごいなあ。

 

「こういう映画ばっかり見ていたい。なんのいやな感じのないつくり」
「男性対女性だけじゃなくて、自分のなかでの性差の戦いみたいなことも」

 

み いつも、ジェンダー視点で文句を言うかとうさん的に、これはどうですか?

か よかった。

み よかった!語らない!(笑)。なにか、ここが気に食わないとかないの?

か こういう映画ばっかり見ていたいです。時代を踏まえてとか物語上のいやな描写はあるけど、それ以外の余計なところでなんのいやな感じのないつくりっていうか。とりあえず出てくる人が基本みんないい人で、見ていてストレスがない!

み ビリー・ジーンの旦那のラリーが、ホテルに行って、洗面所でブラジャーを見付けて、すぐにあれ?って気づいてすごいよね。

か ブラジャーを見て、妻が女性となにかあったって確信するわけですもんね。察する力プラス、女の人同士だから恋愛はないって固定観念がないし、夫にとっては浮気されたって事実をそのまま受け止めて。できた人だー、理想の夫ーって思いました。

み その時代ってそういうのはないものだったのかな?

か 今よりももっとないって思う人が多そうですよねえ。すごいいい人だと思います、彼。

み なんで別れちゃったんだろう?

か ビリー・ジーンは、その後、彼女とお付き合いしてたんですか? 結婚した?

み 当時はそういう報道はなかった気がする。最近は女子サッカーで、チーム内結婚したことが、バーッて報道されてたよね。チームの中心選手で、すごい祝福されてた。

か ニュースで見た気がします。映画の中で、ビリーがマリリンに惹かれていくところの映像の撮り方!そりゃもう好きになるだろって思って(笑)。もう、見てるこっちもきゅううん!みたいな。めっちゃ上手い。

み 撮影監督は「ラ・ラ・ランド」の人?自然だったもんね。内容もだけど、映像も。なんかこう後ろめたいところとかはなんとなく……。

か 過不足なく補足してくれる! 去っていくときの片身を映すかんじだとか。

か 説得力がすごかった。この「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」は、男性対女性だけじゃなくて、自分のなかでの性差の戦いみたいなこともかけてるんじゃないのかなって思った。

か あー、そうかあ。

み 最後、試合が終わってビリーがひとりでロッカールームで号泣して、みんなの前に出ていくのに「まだ心の準備が出来てないの」って言ったのは、もちろん試合に勝って緊張が解けたこともあるんだろうけど、自分のなかの恋愛のこともあるってことだよね。そこに寄り添ったのが、あの衣装担当のゲイの人。

か いいですよね。若干プロトタイプなゲイのキャラターって感じもしましたけど。

み それがまたね。ちょうどいいバランスだよね。女子の集団に、ゲイの衣装担当ってさ、最高じゃない?

か ですよねえ。みんな連帯してて、立ち向かって、楽しそうで。あとはライバルのコート夫人、あの人だけ物語の都合上使われた感があって、そこだけなにかもうちょっとあってもいいのになーって気持ちになりました。そういえば最初の導入のところからすぐに物語が進むじゃないですか。そこのもうわかってるよねって潔く進んでいく感じとか、好きでした。

み 賞金をもっと寄こせ、みたいなのも、分かりやすくていいよね。「権利を!」とかより、そういうところから入るのはよかった。

か たしかに。

み 平等ももちろんそうなんだけれど、お金だから。集客数もチケットの販売額も同じなのに「男子の方がスピードがあって迫力あるから試合が面白い」とか説得力ない。

か ですよねえ。男性の賞金が8倍っておかしすぎる。

み あと、タバコが大スポンサーになるとか時代っぽいよね。全米中吸って周れとかさ(笑)。

か テニスプレーヤーに吸わせようっていうのがすごいですよね。

み うまいなぁ。安心してみてられる。

か あ、ビリー・ジーン・キングのインタビュー記事が載ってますよ。

み 今いくつくらい?

か 43年生まれだって!1943年!

み 今2018年だから、70歳くらい?

か まだまだお元気だ。「ボビー・リックスは私のヒーローの一人」って書いてある。

み そっか。一世を風靡したのは、彼の方が先か。

か 私最初の想像では、ビリーはもっと女性たちに理解があって、試合とかセッティングするのか思ったら、もっとずーっと道化だった。

み 「男性至上主義者のブタ対フェミニスト!」とかぶちあげてたけど、そんなに差別主義者みたいには見えないよね。

か サービス精神過剰な人、みたいな。

み ヌードになったりビタミン剤飲んでいるところとかね、準備不足すぎだろってね。

か もうちょっと準備したうえで負けてくれよ!って気にはなりますよね……。ビリーとの対決のとき、もう50代くらいですね。第二次世界大戦があって、全盛期に試合ができなかったんだ。

み もしかしたら、そういうストレスがあったからギャンブルに走ったのかもね。

か 妻が、もう別れるっていうところとか、二人の対話とか、よかったですよね。

み あなたはおもしろいけど、私は夫が欲しいって。

か 追い出されて、せめてパンツと歯ブラシをって言ったら窓から投げる(笑)

み こっちの夫婦は元の鞘に収まったんだよね。

か でもまたギャンブルに戻ったというのが、リアリティがあっていいですよね。

 

「虐げられていたとか、差別されていた感とかがあまりなかった」
「辛いの観たくない。エンターテインメント系だったら、こういうのがいい」

 

み とにかく安心して観てられた。技術ってことなのかな。映画観てると、ちょっと気になるときとかあるもんね。それが全くなかった。

か あ、ビリー・ジーンがサーブの練習してて恋人が見守るシーンとか、すごくきれいで、あまりに絵になり過ぎてて、逆にちょっと気になりました。ホテルのシーンとかも。

み でも、いい映画だなっていうのはあるんだけど、スーッと忘れちゃいそう。がんばって、いろんなものを勝ち取っていってるっていうのはわかるんだけど、差別で苦労して戦ってるとか、そういうのは感じないよね。賞金が安いし酷いとは思うけど、基本演じる人たちが楽しそうだし、男性優位主義とか言ってるけど、虐げられている感じはそこまでしない。

か 周りが優しい?

み 「女は台所と寝室だけにいればいい」みたいなセリフがあるけど、そういうシーンはほぼないじゃん。虐げられていたとか、差別されていた感とかがあまりなかったから。

か そうかあ。でもわたし、そういう辛いの観たくない。エンターテインメント系だったら、こういうのがいいです。

み 映画や漫画の物語だとさ、始めに辛いのがきてから段々上がるみたいな、カタルシスがあるけど、これはそんなになかったかなって。

か わりと最近の流れなのかなー。辛いのいや、っていう。

み 意外とテニスって、貴族のスポーツみたいなイメージがあって、昔から女性もプレイしてたよね。サッカーとかと比べると、男女両方やっていて女性も尊重されているイメージがあったから、というのもあるのかな。とにかく、平等を求めて!みたいな印象は、観た人はあんまり受けないと思う。

か たしかに。ひっかかりなく楽しく観られて、ちょっとスカッとする映画、だった。

 

「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」

監督   ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス
製作年 2017年
製作国 アメリカ
上映時間 122分
http://www.foxmovies-jp.com/battleofthesexes/

 

STORY

全米女子テニスチャンピオンのビリー・ジーン・キングは怒りに燃えていた。全米テニス協会が発表した次期大会の女子の優勝賞金が、男子の1/8だったのだ。仲間の選手たちと“女子テニス協会”を立ち上げるビリー・ジーン。資金もなく不安だらけの船出だったが、著名なジャーナリストで友人のグラディス・ヘルドマンがすぐにスポンサーを見つけ出し、女子だけの選手権の開催が決まる。時は1973年、男女平等を訴える運動があちこちで起こっていた。女子テニス協会もその機運に乗り、自分たちでチケットを売り、宣伝活動に励む。
トーナメントの初日を快勝で飾ったビリー・ジーンに、かつての世界王者のボビー・リッグスから電話が入り、「対決だ! 男性至上主義のブタ対フェミニスト!」と一方的にまくしたてられる。55歳になって表舞台から遠ざかったボビーは、妻に隠れて賭け事に溺れていたのがバレ、夫婦仲が危機を迎えていた。再び脚光を浴びて、妻の愛も取り戻したいと考えたボビーの“名案”が、男対女の戦いだった。
ビリー・ジーンに断られたボビーは、彼女の一番のライバルであるマーガレット・コートに戦いを申し込む。マーガレットは挑戦を受けるが結果は完敗、ボビーは男が女より優秀だと証明したと息巻くのだった。逃げられない運命だと知ったビリー・ジーンは、挑戦を受ける。その瞬間から、世界中の男女を巻き込む、途方もない戦いが始まった──!

 

み=宮川真紀(タバブックス) 好きなジャンルは、ホラー、SF、社会派ドラマ。「カメラを止めるな!」苦労してチケット取って観たら翌日から上映館バーンと増えててショック。「菊とギロチン」3回目。「沖縄スパイ戦史」に打ちのめされた8月でした。

か=かとうちあき(野宿野郎) 苦手なジャンルは、ホラー、アクション。きゃー、8月なーんも観てないです。最後に観たのは「菊とギロチン」……。

 

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