やっぱり映画なんだけれども

たかが映画なんだけれども 第27回 「はちどり」 

(2020/9/9)

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誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第27回は「はちどり」。まわりの女性がだいたい見に行ってたこの映画、女性監督の長編デビュー作で世界各国50を超える賞を受賞、フェミニズムの視点もあり、と(か)がいかにも好きそうなのに乗り切れなかったのはなぜか…

STORY

1994 年、ソウル。家族と集合団地で暮らす14歳のウニは、学校に馴染めず、 別の学校に通う親友と遊んだり、男子学生や後輩女子とデートをしたりして過ごしていた。 両親は小さな店を必死に切り盛りし、 子供達の心の動きと向き合う余裕がない。ウニは、自分に無関心な大人に囲まれ、孤独な思いを抱えていた。(公式サイトより)

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お母さんのチヂミをむっしゃむしゃ手づかみで食べてた思春期のウニ

 

誰のメインにもならない、注目されなくて、自分でもがいてる
葛藤とかもわかるんだけど、どうしても美しすぎて

か 前評判すごいよかったですよね。私フェミニズム映画っぽいっていう知識だけがあって、もっとエンタメ感あるやつを想像してたら、そういう映画じゃなかったから、見ながらびっくりした。

み 日本映画でもこういうのありそうな気もするけど、思い出してみるとないかなって。

か ちょっと昔の日本映画であった感じかなーって最初思ったんですけど、でもそれは男の人がとったやつで。これ見てると、完全に女の人がとっただろうってわかるじゃないですか。そこはやっぱり違う感じがした。

み うんうん。思春期の女の子の揺れ動く感情みたいなのはあったけど。

か それを淡々と撮るみたいなのは昔からあったような、岩井俊二とか? でもあの時期の少女の美しさを撮るぜ、みたいな感じをどうしても感じてしまい。

み そうだよね。ウニは、誰のメインにもならない、注目されなくて、自分でもがいてる。そういうのみんなあるよね、私たち、みたいな。

か て、思いました?

み 私はそうかなって。目立つ存在でもなく、半端、自信もなく、みたいな。

か すごい傑作だしすごい監督だろうというのはわかったんだけど、若干そこまで乗り切れなくて。思春期の揺れみたいなもの、何者でもなく誰からも見られてない葛藤とかもわかるんだけど、どうしても美しすぎて。

み そりゃしょうがない。

か しょうがないのかー。誰からも認められてないけど、才気がちゃんとあるし。あの環境の中で反発したりとか、恋愛したり、ディスコで踊るとか、イケてるんですよー。

み やー、そのイケ方が半端で面白い、あのダサい感じ、そうだよなーって。

か いや、そういうのがあった人はそう思うかもしれないけど、その頃イケてなかった人間としてはあれめっちゃイケてるんですけどって。

み そういう方がどっちかというと映画になるじゃん、もうほんとにダメとかオタクとか。あの妄想する「勝手にふるえてろ」みたいなのがエンタメになる。

か そっかあ。でもわたしはイケてない人を見たいんだって。しみじみ思って。ちょっとイケてる、才気のある子が美しくとられてることにもうすでにお腹いっぱいっす、て。彼氏とあんなニコニコイチャイチャできる、どういうことだって。

み ダメになるじゃん、下級生にも振られるし。

か だとしたらもっと美しくなくならないのかなあ。結局出てる人みんななんだかんだ美しいしさあ。最後のシーンは、ちょっとだけ希望が見えるんですよね。学校に集合してて。その時のバックできゃっきゃしてる女の子がイケてない感じでとってもよくって。

み え、あの子たちの方がイケてるんじゃない?すごい楽しそうにしてていいなーって。

か みんないろんな顔して、ウニのバックで楽しそうにしてるんですよね。あそこだけ美関係なくって、ただただいろんな人がいる感じ。

み そんなことないでしょう。親友も、後輩も、そんなことなかったじゃん。今のKPOPアイドルみたいのとは全然違うし、誰一人化粧してないし。郊外のティーンエイジャーの、もさーっとしてるかんじ。あの漢文の先生も、かっこいいけどすごい美人てわけじゃないし。

か そういわれたらそうなのかあ。でも私は最後に後ろでモブとして談笑してる人たちに共感して終わりましたよー。あの子たちにも人知れず思春期でいろいろ悩みがあるんだよって。

み そこまで2時間あったからね。2時間なんかないの!もうちょっと!

 

よかったのは、どこかで共感させることをぶった切ってくるシーン
「パラサイト」はみんなを好きになっちゃうけどね

み なんか、みんなちょいちょいひどいじゃん。お母さんが娘に「クソアマ」って言ったり。

か 言ってた!あれってそれだけ男尊女卑がひどいってことですかね。

み お母さん強い感じで、お父さんにめちゃキレたりするけど、従ってる。長男が合格するように料理に気を使え、とか。

か あの歪みある中でも、母は、ウニに少しは託すみたいなところもあるじゃないですか。勉強した方がいいとか、そういう気持ちもある。

み でも「お兄さんに殴られました」って言っても、なんで喧嘩するのって言われる。それに何も言えないし、殴られて耳が聞こえなくなってお医者さんが診断書書こうかって言われても頼まないとか。

か 辛い。

み お母さんが作ったチヂミをがっついて食べたり。演歌みたいなのを大音量で聞いて発散したり。

か あそこ、いいシーンだったなー。

み 毒親みたいな描かれ方はしない。お姉ちゃんもなんでうちの家族仲が悪いんだろうって彼氏連れ込んだりしてるけど、出て行こうとはしない。餅屋が忙しいってなったら家族総出で手伝ったりとか。家族の話っちゃ言えるけど。

か うん。しかしこの映画、難しいですよ。賢い人が読み解こうとしたらいろいろ読み解いたり解釈できると思うんだけど、できないからどうしたらいいの。よい映画ってのはわかるけど、そこまで好きじゃなかったのはなんでなんだろう。別の時に見たらわーってなるかもしれないけど。

み 淡々としてるんだけど、すごいじーっと見ちゃう。「ハッピーアワー」的なものに近いかな。でもあれも淡々としてると思ったけど、もっと事件起きてるよね。

か これだって、しこりもできちゃうし、万引きで捕まるし、先生死んじゃうしさ。私としてはめちゃくちゃいろんな出来事あるなって思ったけど。それを淡々と描いてるだけで、こんなに出来事ねえって。さすが映画の主人公って思って見てたけど。

み まあまあね。でも先生とか誰か死んだとか、友達の親が逮捕されたとか、なんかそれくらいはあったけど。

か えー、ないよ。ほかにも、彼氏ができました、年下の彼女ができましたとか、このキュッとした期間に盛りだくさんじゃないですか。わりと生き急いでいるというか。

み 中2でしょ? その頃の付き合うって1、2ヶ月とかもありそうだし。郊外の中流家庭の、すごい不良じゃないけどちょっと抵抗してみるのは、これくらいだろうなって。塾行きつつ、遊び行っちゃうとか。

か 興味深い。私はそういうのすら無縁で、もっとうつうつとしてたからわかんないですけど。境遇として見たらああいう心情はわからんでもないが、自分に置き換えたら全くない要素であって、うーむってイケてるって見てた。どっちかっていうとよかったと思うのは、他の人たち、母とか、姉にしても、どこかで共感させることをぶった切ってくるシーンがあって。人なんてそうそうわかんないぞって。距離の遠い感じがこの映画を見てすごいいいなと思った。それがわりと好きだなって。

み そうね、「パラサイト」はみんなを好きになっちゃうけどね。

か そうそう、好きにならされる。けどこっちは簡単には好きにさせないぞっていう強固な意思がありそうで、意外と主人公にすらそれを感じる。

み あー親友にも「ウニときどき自分勝手」って言わせたりね。

か いいすよね!あそこよかった。

み でもそれで離れるわけでもないしね。全部自分の思い通りになるわけじゃない。

 

家父長制プラス高度成長になると、わけわかんない状況になる
弱さを描くことで免罪符になるんじゃないかってモヤモヤしたけど

み 舞台が1994年でそのころの韓国はどうなのかちょっと調べて、ソンス大橋崩落っていうのは知らなかったけど、翌年百貨店が一瞬で崩壊したっていうのはすごい覚えてる。高度成長の欠陥工事だったのかな、とか。 その前は民主化運動があって、そのあとオリンピックでしょ。リアルタイムではよくわかってなかったけど、そうやってみると、すごい変化の時だったんじゃない。日本の60年代末、全共闘があって万博があって、そのあと景気が良くなる、みたいな時期とちょっと近いのかなって。それで強固な家父長制はある。

か そうなんですね。見てて歴史が気になりました。学生運動があったらしいってのと、家父長制と変化が激しそうってのは、わかったけど。

み 昔ながらの家父長制プラス高度成長になると、わけわかんない状況になるってことかな?お父さんだってあんなにいばってるのに、ウニが手術することになったらうえーんて泣いて、それを醒めて見るウニ。

か ちょっとずれてるのが最高なんですよね、そういうところ好きです。

み もう一つ泣くシーンで、パンフレットの監督インタビューで「あの中で一番弱い人が泣くだろうと考えた」って書いてあって。

か それならお兄ちゃんだ。そりゃそうだわってなる。

み あれなんで泣いてるのかわかんなかった、まさかお姉ちゃんが無事だったからとは。だってそれまで暴力振るっていばってたのに。

か あそこは弱さみたいなものを、お父さんにしてもお兄ちゃんにしても描いてるとは思ったんだけど、それによって納得とか共感を得るっていうか、免罪符になるんじゃないかって見てる時はモヤモヤしたんですよ。あれが入ることでああやっぱり家族のこと想ってる気持ちもあるし、みんな辛いんだって。そうなるのは嫌だなって。

み わかる。最後の食卓のシーンで、ウニが楽しそうにしてるじゃない、それまでむすっとしてたのに。お姉ちゃんも「これ美味しい、もっとある?」とか、ちょっといいシーンになってる。父と兄の弱さを見せた後でそうなってたからやっぱり家族っていいな、ってちょっとなってるかなとは思ったんだけど、でも最後のシーンがそれで終わらなかったからよかったと思った。まあ家族は憎み合ってても家族っていうところは、まあしょうがないかなー。

か 家族、おそるべしですねえ。パンフレット読んだら、家父長制の中で「抑圧している側が勝者かといえば、実はそうではない」って書いてある。父が泣くのも、えらそうにふるまってても「とてもひ弱な存在に過ぎないということを見せたかった」って。「過ぎない」って言われっぷりにモヤモヤが晴れました…。いきなり泣くのはシーンとして面白かったし。父も兄も、このタイミングかよ、みたいな。

み みんな、しらーみたいな。

か それでみんな感動しないというのが大事だと思った。はいはい、みたいな。

み 誰も何も言わない。ちょ、ちょっと、みたいな。

か やっぱバランスが取れてるいい映画なんだろうな。仲よかったり心が通ってる家族だったらわーってなるかもしれないけど、こいつめって思ってる人が急に泣いても、え?ってなるしね。

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誰もいないリビングで演歌を大音量でかけて発散。思春期…  イラスト・み

はちどり

原題 벌새
監督・脚本:キム・ボラ
製作年 2018年
製作国 韓国、アメリカ
上映時間 138分
https://animoproduce.co.jp/hachidori/

か=かとうちあき(野宿野郎) 
苦手なジャンルは、ホラー、アクション。最近「サイコだけど大丈夫」にはまっていました。あと、8時間越えの「死霊魂」を観たのであります。ワンビンすごいなー。

み=宮川真紀(タバブックス) 
好きなジャンルは、SF、ファンンタジー、社会派ドラマ。これ見て「応答せよ1994」見始めました。「賢い医師生活」が同じ制作陣と知り再開して…こうして見るもの増えるんじゃ。映画は見逃してた「さよならテレビ」を見たけどさよならでいいんじゃないか、と思った。

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