たかが映画なんだけれども 第16回「アイ・フィール・プリティ!」
(2019/2/20)
誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第16回は「アイ・フィール プリティ! 人生最高のハプニング」 。アメリカのラブコメって珍しいかとうセレクト。「ものすごい自己肯定感万歳のエンパワメント映画かと勝手に思ってた」んだって。んーまあそうなんだけど、そこにはルッキズムが常にあるし、だけど派手にやらかしても魅力と捉えてくれるのはいい世界なのかも、とかわりと語りがいありました。終盤かとうのBL脳が発揮されてしまいましたが…
「結局さ、求めてるのは美な訳じゃん」
「コンプレックスが解消されて自由になる話かと思ったら違ってた」
か まず、友だちに恵まれて楽しくやってるところにホッとするというか、安心感がある。
み 仲良し3人でお見合いパーティーみたいなののために写真撮ったりね。でも、主人公のレネーがジムのマシンで転んできれいになったって勘違いしてからの「自分に自信を持つ」ことに共感してほしいっていう感じだよね、映画の作りとしては。見た目がどうであれ、自分に自信があればって。それはそうなんだけど、結局さ、求めてるのは美な訳じゃん。
か そうそう、それが最後に払拭されたのかと思ったら若干弱くて。
み 相当弱いよね。あの化粧品会社の新製品発表のシーン、セカンドラインのモデルにジムで会った超細くてきれいな子がオーディションに行くって聞いて「そうじゃない、私がモデルになればいいんだわ」って思うのはいいんだけど、その仕事いったんドタキャンしたわけじゃん。ボストンまで連れて行ってもらってプレゼンの直前に。
か 宮川さんがそここだわるのがやっぱりおもしろいなって。
み なんで!? だってそんな受付係から大抜擢されたのに。
か あの声の高い社長がめちゃくちゃいい人ですよね。なんてお人好しなんだって。
み 食堂でレネーを見つけて「お肉の匂いがしたからわかったわ」って失礼だけど、頭がいいしおもしろい。それで覚えめでたくいいポジション得てボストン行ったけど、頭ゴツンと打って流血して、元に戻っちゃったって自信なくしてボロボロのていで帰るって。あんたはそりゃショックでしょうよ、でもその能力をあてにして連れてきた方は、なんなのって。
か ほんとだよ。
み 社長、なんども電話してるのに!
か そこで怒るのが宮川さんが仕事人たるやって思っておもしろいなって。
み 当たり前だよ、調子よすぎるよ。それで最後の発表に突然出てきて「これが私たちです〜」とかって。
か まー、あそこはいい話じゃないですか。
み それもゲリラ的に、同僚使って映像とか勝手に用意して。
か 同僚もまたいい人ですよね。
み あの裏切った友達も結局わーって感動してて。単純すぎるぜ。その動機が全部、見た目、ルッキズムなわけでしょ。
か そう、それで笑いをとるでしょ。結構笑ってる人いたんですよ。
み ああーいたいた。
か 結局、あんなに太ってるのにいい女ぶるとか、そういうギャップみたいなのが笑いになるのか。
み そうなんじゃない? その勘違いがおもしろいんでしょ。
か でも、見ててそこで笑う気にはならない。そこ笑うとこ?って…。
み ビキニコンテストに、服をたくし上げて出て大暴れ、とかそういうのが笑えるってことじゃない?普通に共感して応援しよう、みたいには思わないでしょ。
か そっか。でもそれが笑いになるっていうので、複雑な気持ちになる。
み 複雑な気分になるし、結局見た目じゃんってなる。
か まあでも最終的にはイエーイってなって、めちゃくちゃ楽しそうにやってたじゃないですか、あそこでデート相手は「この子いいな」って、惚れちゃったわけですよね。
み 主催者にもいいって言われてね。
か あれは確かに、あそこまで弾けたらすげえって思うかもしれない。
み でもあれも結局自分がいい女になってるって思ってできたってことでしょ。
か そうなんですよね。常にルッキズムから離れられない。もうちょっと違う感じだと思ったんですよ。見る前は。なんか「ちょうどいいブス」ってドラマのタイトルが炎上したじゃないですか。あの文脈で、アメリカで同じかんじで話が作られたらこんな風になるんじゃないかって言う話でどっかで出てきて知ったんですよね。きれいになったって思ったことで堂々として、もうルッキズムから離れられて生き生きとしてたらいい感じになったぜって話かと思ったら、常に美が絡むから。
み 鏡に見えてる自分が超スレンダーなんでしょ。だから友だちにもごめん、て。
か ごめんていう価値観じゃなくて、コンプレックスが解消されて自由になる話かと思ったら違ってた。あと考えたんですけど、やっぱり英語圏か、ハリウッド映画独特なのかわかんないけど、あれだけバシバシなんかしでかす女性が魅力的って文法があるのかな。ユーモアに富んでることこそが魅力、みたいな。頭の回転がいいとか、気が利いたこというとか、わかるんだけど。
み いつの段階?
か きれいになったって思い込んでから。私いい女って思い始めてから、いろんなことをわーって言い始めたわけでしょ。それは元からあの人にあったものだけど出してなかったって設定だろうけど、大前提として、その気の利いた感じが、デリカシーがないのと紙一重だなっておもって。そういう映画とかドラマはある気がするけど、でもやっぱりああいうのが魅力的という文法がないとああはならないような気がした。
み それは日本とは違うかもね。
か あれぐらいやっちゃっても魅力とも捉えてくれるんなら、いい世界だなって。
み 怖いなって思われつつね。
か そう、でもいいなって思ってもらえるなら。その加減というのがどういうものか、インド映画を見てわからなかったように、これもよくわからなかった。
み そうだね、何をテーマとしてみるか、試される。でも映画見に来てたのは、多分大体女子だよね。勘違いでも自分に自信を持ったらなんでもできるよっていうメッセージを女の子たちが受け取ってみてるとしたら、それはそれでいいのかも。
か いいと思うけど、ちょっと方法論がダメかなって。
み 美にあまりにも行き過ぎちゃうと友達もなくしたりするから、
か 反面教師!
み 最後も上から目線だよね。色々あったけどもあなたちのことも尊重してるのよ、私の友達はこれでーすって、なんなのって。おじいさんみたいな服着てるとかさ。
か あの友達の二人がほんといい人。
み あの合コンみたいなので、せっかく歴史とか文化の話で盛り上がってたのに、レネーはもっとエロがとか言いはじめて。
か あそこやばかったですよね。でも最終的には男性たちと仲良く脱出ゲームに行くことになっててよかった。
み レネーは脱出ゲームの仲間に入れてもらえなくてううって泣く。
か あの状態で約束取り付けてるんだから、あの友達たちもしっかりしてるなって。
み 友達も「は?」とか言って、笑いながら拒絶っていうか。日本だったら絶交とかいったらすごい陰湿になりそうだけど、笑いながら「ごめん、無理」って。
か 要求ははっきり言う。いいですよね。
「実はあの二人がってBL脳が稼働されて、そのほうが絶対面白いと思った」
「じゃ、じゃあ主人公のハッピーはどこにあるわけ?」
か まあでも卑屈なより、おいおいってぐらいでも自信に満ちあふれてる方が見ててきもちいですよね。
み レネー以外がみんなコンプレックス持ってるんだよね。CNNに勤めてる彼、イーサンはマッチョなのが苦手とか。あと、社長は声が劣等感で上手く喋れない。
か 友達が安定してたいい人たちなんだってことが最終的にわかり、目指すはあの二人なんじゃないかって。あんまり周りを気にしないで好きに楽しく生きてるし。
み 脱出ゲームデートも行ったしね。レネーは受付になったらすごい気を利かしてジュース出したりしてて、そういうできるところを仕事に活かせばいいんじゃない?
か すごいできる人っていうのはわかったんです。でも人によってめちゃくちゃ態度変えるじゃないですか。それが、ええ?みたいな。そこで全て台無しっていうか。パッドマンでもそうだけど、堂々としてる奴にはそういう風に扱うけど、そうじゃない人には違うって。
み パッドマンは、そういう自信に溢れてる女性に会ったことないわけでしょ。
か そうなんだけどー。レネーも変わったのかな。
み それは最終的なところで気づいたってことにしましょうよ。でも最後彼氏の家にピンポンした時、鼻ほじってたの見られて焦ったり、やっぱりジムで自転車漕いで終わるから、まああんまり気づいてないのかな。
か あとは、レネーが彼氏のイサーンと一緒に食事会に行ったときに、社長の弟のグラントがイサーンに目線合わせてて、実はゲイなんじゃないかって。BL読みすぎですか?
み ええ、取り合いでしょ!グラントは受付でレネーにいい対応されて気になってたのに彼氏連れてきたからバチバチってなってたんでしょ。
か 私は実はあの二人がってBL脳が稼働されて、そのほうが絶対面白いと思ったんですよ。
み そんな!じゃあどう展開すればいいの。
か つまり、レネーの自信に満ち満ちた態度に感化されて、自分も正直に生きようって思うんですよ、イーサンが。
み それじゃ収拾つかないじゃん。主人公誰よ!
か グラントも、僕も好きなように生きる、ボンボンだけど。しがらみなんか知るか、ってふたりがうまくいくわけですよ。
み それで?(苦笑)
か レネーもそれをよかったって思うような人間だっていう、お花畑ストーリーで見てて。
み それ、面白い?誰が面白いと思うの?
か 面白いですよ、えー、そっちくっついちゃったのって。
み じゃ、じゃあ主人公のハッピーはどこにあるわけ?
か 主人公はやったーって思ってるからいいんですよ。
み やったーって思ってないじゃん!最後まで。最後の最後で、彼に鼻ほじってたの取ってくれてよかったかもしれないけど。
か そんな話だと思わなかったんだよう。
み そんな複雑なの、ヒットしないよ。だから、そのルックスでも二人に言い寄られるってところがドリームな訳でしょ?それで見にいくわけでしょ、女子が。
か でも結局あの映画って、見た目がこうなのにこんなに自信持ててなんなのすごいっていうところに惹かれるんでしょ。とっかかりは。それもどうなの!って。
み だからそれで、じゃあ僕もうじうじしてちゃダメなんだって思うわけでしょ。
か 結局美醜なんだよ。ちっ。
み それは美醜なんだって思ったけど、見てた子たちの反応見てると、あー面白かったってスッキリしてて、まあいいよねって。そこまで深く考えなくても、自信持てばいいのかなって。
か それはまあ、自信大事っていうのはわかった。それさえわかればいいのか!
「アイ・フィール プリティ! 人生最高のハプニング」
監督・脚本 アビー・コーン、マーク・シルヴァースタイン
製作年 2018年
製作国 アメリカ
上映時間 110分
http://ifeelpretty.jp
STORY
レネー・ベネット(エイミー・シューマー)は、ぽっちゃりでサエない容姿を気にして、自分に自信が持てない。高級コスメ会社リリー・ルクレアのオンライン部門に勤めているが、美しい社員たちが勤める華やかな本社ではなく、チャイナタウンの地下の小部屋においやられ、サエない毎日を送っていた。
ある日、レネーは一念発起し、痩せるためジムに通い始める。しかし、トレーニング中にバイクから転落!その勢いで頭を強打し、失神してしまう。目が覚めたとき、レネーは自分の異変に気づく。なんと絶世の美女に変身していたのだ。しかし、それはレネーの思い込みであり、実際は何一つ変わっていなかった―。(公式サイトより)
み=宮川真紀(タバブックス) 好きなジャンルは、ホラー、SF、社会派ドラマ。なんつってもヨルゴス・ランティモス監督の「女王陛下のお気に入り」が楽しみすぎるようなこわいような。ちゃんと後味悪いのかな〜。
か=かとうちあき(野宿野郎) 苦手なジャンルは、ホラー、アクション。試写で「盆唄」をみせてもらいました。わーい! 丁寧なつくりの、盆唄・盆踊り好きに楽しい映画でしたよ~。
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