たかが映画なんだけれども

たかが映画なんだけれども 第6回「パターソン」 

(2017/11/16)

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誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第6回は「パターソン」。ジム・ジャームッシュ作品の“何も起こらないけどいとおしい日々”というものに心奪われていた時期がありましたよね。今回もきっとキュンとなるはずと思ったのに「脳内彼女」とか「才能ない(主人公が)」とかひどい言いよう。私たちが汚れてしまったのでしょうか…

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1日の終わりにバーで1杯のビールを飲むパターソンにちなんで(犬は待たせていません)

 

「不穏な映画としか思えなくて。ずっと脳内彼女として処理してたんだけど」
「パターソンは詩は書いてるけど、でも才能はないんだろうなって思った」

み ジム・ジャームッシュっていくつ?1953年生まれ。もう60代半ばなのかー。これ最近の写真?

か ずっとこんなかんじですね。

み サングラスで、こういう髪型だとあんまり変わらなく見えるのかな。

か 髪型ボサボサでサングラスは大事だと。

み 体型さえ変わらなければ。で、ストーリーをパンフレットで読み返したんだけど、同じだよね。見たとおりだった。

か いや、私は寝たのでおさらいしないと。

み どこで寝たの?

か いや、結構……

み (苦笑)。そうそう、この前20人くらいが集まる会で、最近見た映画はって聞かれて半分くらいの人が「パターソン」をあげてたんだよね。それで今回これにしようと思った。

か 私見たとき5人くらいしか入ってなかったけど。横浜だからか。

み ほんとに!横浜!それでそのときみんなよかったって言ってたし、出版人のダンディなおじさまは「さすが、文句の付けどころがなかったですね」って。

か どういうことなの!

み 主人公のパターソンが朝出勤して、仕事して、帰ってごはん食べて、の繰り返しの話だけど。最初、いちいち彼女に「ディナーをありがとう」とか言ってるから、居候か、せいぜい恋人同士だと思ってたら、結婚してるのよね。なんかよそよそしくない?

か そう、だから不穏な映画としか思えなくて。ずっと脳内彼女として処理してたんだけど。どうなんですか、これは。

み 私は、パターソンは詩は書いてるけど、でも才能はないんだろうなって思った。

か 詩の才能?

み そう。書いてる詩が出てくるんだけどどれもピンとこないな、と思って。最初マッチの詩を書いてたじゃない。「今マッチの詩を書いてるんだ」って奥さんのローラにいったら、「ああ、あのメガホン型の?」って言われて。ぎくっ、俺が発見したと思ったのにもう気がつかれてるんだ、みたいな表情をしていて。

か オリジナリティに欠けてる、俺みたいな。

み ローラの方が一枚上手でショックみたいな。そのあと詩を書いてる少女と街で出会って、その子が自作の詩を朗読してたんだけど、それはすごいいい詩だった。だから劣等感の物語だな、という気がすごくして。

か はあ。寝ていた人間としてはそうか、と言うしか。

み ローラが彼の詩が好きで、詩を書き溜めているノートを「コピーしてね」ってずっと言ってて「週末には」ってずっとぐずぐずしてたのに、犬のマーヴィンが噛んで破いたらすっごいショックを受けちゃって。未練タラタラで、マーヴィンに「お前なんか嫌いだ」って言ったり、すごいムカつく。パターソンが自意識過剰で、モヤモヤしてる話だと思った。

か よかった。全然イケてる話じゃないってことですよね。

み 何も起こらない、美しい日常みたいな話じゃないなって。

か 私も詩をコピーしろっていうところはしっかり見てたんだけど、こんなダメそうなやつの詩をコピーしろなんて熱心に言ってくれる人はいないだろう、だから脳内彼女なんだと思って。

み ほめてくれてちょっとうれしいけど、俺なんか、って思ってる。

か でも、ほめてほしい。

み そうそう、ほめてくれないと、あんなやさしくしてないでしょ。夕食がおいしくなくても文句を言わずがんばって食べる。その辺の遠慮してる感じが、打ち解けてないのかと。

か とはいえそういうのを困ったなと思いながら愛してる俺、みたいなタイプなのかと。すべてが男の人の都合にマッチするような女の人だから、これは脳内彼女だって。

み でも、映画レビューとか見てたら彼女のこと「困った不思議ちゃん」とか書かれてたよ。確かに部屋にペンキ塗って模様替えしたり、変なケーキ作ったりして、男性から見たら「なんじゃ?」とか思うんじゃない?

か そうか。でもあんな都合いい加減でのなんじゃ、って描かれてるのが気に食わない。

み 最初は不思議ちゃんかなと思ったけど、カップケーキ作ったら市場ですごい売れちゃって。遊んでるようで、一生懸命やって結構現実的。あ、どっちが現実的かって見るとわかってくるかもね。「ダンナの稼ぎで好きなことやって」って思う人もいるんじゃない?

か いや、ローラの方がずっとしっかりしてる。

み だけどレビューでそういうのが出るっていうのはわかる。地道に淡々と働いて、浮気もしないし暴力もふるわない、そんないい夫なのに、勝手なことやってって。

か でもなー、淡々と働いて詩を書く俺、家にまっすぐ帰って妻をやさしく見守る俺、ていうのが充満しててなんかやだ。

み でも俺俺感はまったくなくて、すごく紳士的で「いつもありがとう」といい、朝も起きなくていいよってそーっと起きて一人でシリアル食べていくわけでしょ。いい夫って思うんじゃないの、普通。だけど、心の中は劣等感の塊、詩の才能ない、っていうのを、要所要所でブッ込まれて、最後詩のノート破かれてガーンとなった、それはそれでよかったな、というのはあるかな。

か そうなのかー。才能ないってことがポイントなのか。

み 私はね、そう思った。自分が劣等感すごいあるから、ピンとくるのよそういうの。人の才能にすごい敏感。

か そうなの!ほんとですか。

み 最初のマッチの詩のところでそう思ったから、もうその目になっちゃって。毎朝会うバス会社の同僚も、昨日は何してた、嫁がどうの子どもがどうの、とか愚痴みたいなこと言ってるんだけど、韻を踏んでたりして結構面白いんだよね。

か へええ。見てますねー。

み だんだんおもしろくなってくのよ、それが。たぶんその人は、自分の表現とか全然そんなこと考えてないだろうけど、それが面白い。そこにパターソンはちょっとグサッときてるみたいな。黒人も結構出てくるけど、なんかいいかんじにラップしてたり。

か みんなことばのセンスがありすぎるのに、俺は。

み そうそう。私はそう感じたんだよね。詩っていちばんことばが大事じゃない。

か 私も劇中で出てくる詩は何一つピンとこなくて、自分は詩を解せないんだなーと思ったけど。

み やっぱりいいことばだったら心に残るじゃない。あ、この人は詩人として成功するんじゃないかって見てて想像するかもしれない。でもそうじゃないもん。


「バスの運転手さんひとりで働いて、いい家に住んで犬飼えるもんなんですか」

「歩いて弁当持って出勤して、全くお金使ってなさそう」

 み まあ、おしゃれはおしゃれだよね、出てくるものがどれもこれも。あと双子がよく出てくるのはなんのメタファーなの、とか深いところもあり。そんなに小難しくないからさらーっと気持ちよく、寝てても観れる。

か 気持ちいいのかなー、寝たけど。

み ちょっと面白いのも出てくるし。黒人カップルのケンカとか、かわいい。

か あれはいい、あそこくらいですよワクワクしたのが。でもあんなバスの運転手さんひとりで働いて、あんないい家に住んで犬とか飼えるもんなんですかね。一応ワーキングクラスっていう設定なんですよね。

み 家の広さとかは、日本とは違うでしょう。田舎そうだったし。歩いて弁当持って出勤して、全くお金使ってなさそうだよね。

か 家具とかすごいよさそうだった。

み 家具付きなんだよきっと。単なる平屋のちっちゃい家でしょ。1階にリビングとキッチン、地下に書斎とベッドルームとか。

か それは美化されてないんだ。

み そりゃおしゃれっぽくは見えたけど、サブプライムローンとかで売ってるくらいのクラスの家なんじゃないかな。もしくはバスの運転手だから公団かもしれない。

か でもローラは家にずっといて鬱屈抱えないのかな。

み え、だから好きにやってるじゃん、家改装したり、ギター買ったり。

か じゃ家にいるのが好きなのかな。

み そうなんじゃない?カップケーキ用意したり、楽しそうだよ。

か やることないからカップケーキ作ってるんじゃないのー?

み えー楽しそうだって、カントリーシンガーになりたいとかさ。

か だって、あの人パターソンくらいしか話し相手いなくてつまんなそう。

み でもわかんないよ、市場に行って仲間もいるかもしれないし。

か パターソン主観しかないから、どういう人間関係があるかわからない。

み でも意外とパターソンのことばっかり考えてるかんじじゃないなと思ったけどね。車もあるからペンキ買いに行ったり、カップケーキ売る会合とか出てるんじゃないの?

「自分の中の変わらない領域が、そうじゃないって気づいた」
「とうとう脳内から脱出した!」

み この映画「何もおこらない、変わらない美しい日常」って言われてるけど、実はただ単に何もなかったからそうだったわけで、ちょっと何かがあったらもろいものなんだよって、そういうことじゃない?彼にしたら、ローラがカップケーキで成功しない方がよかったのかもしれない。

か でも一応喜んでた。君が喜んでたら僕がうれしいって、あれはよかった。

み 「これからは毎週映画行こう」っていったりね。でもそれで浮き足立って、大切にしてる詩のノートをソファに置きっ放して、マーヴィンの散歩もブッチした。それで怒ってノートをめちゃくちゃにしちゃった。散歩行ってバーの前で1時間くらい待たされてもお利口にしてたのに、そりゃ怒るよ。かわいそう、もういつキレてマーヴィンにひどいことするんじゃないかと、気が気じゃなかった。

か でもさー、それもキレる前にうまく奥さんが先回りしてなだめてくれるじゃないですか、あれがなんていうのか平穏さが作られてるのが気に食わない。それを美しいというのはどうなのか。

み 詩のノートをぼろぼろにされたって、ほんとに自信があったらまた書けばいいじゃん、ことばなんだから。そうなるかなと思ったんだよね、彼の感じだと。「いいよいいよ別に、また作れば」って。

か 自信がなかったらもっといいの書こう、がんばろうってなるんじゃない?

み 自信、ていうか愛着はあったんだよ。なのに奥さんがコピーとればっていっても、いやいや俺なんかって。でも大事に思ってた。

か 大事に思ってたのはわかった。そんなショック受けるもんなんだって。

み そんなねえ、毎日書いてるんだからまた書けばいいのに、犬に噛まれたぐらいであんなわかりやすい落ち込み方して。

か 自信がないようで、ある。自信問題。じゃあなんで、最後永瀬正敏さんが出てきて、急に世界が開けたみたいになったの。

み あのときはショックを受けて一人になって、考え直してたんじゃないの? そしたら変な日本人が現れてノートくれたから、またがんばろうって。

か そうなの?もうだからすべてが脳内の物語のように思えちゃうんですけど。どういうことなんだろうって。

み ただ詩を書いて、ときどきローラにほめられてそのままの生活でいきたかったけど、世の中に才能があふれているのを目にしてショックを受けたけど、でもそれでも書き続けようって思った話。

か ぼくはぼくでがんばるしかないってこと?

み あれでまたすごく詩をがんばろう、っていう感じでもないし。そういう意味では何かが起こるわけではなく、日々の小さないろいろをやりすごして生きていくっていう…あ、結局それか。

か そういうことなんですか!

み だって彼にとっては、詩っていうのは相当大きなことなんでしょ?だけどそれがいつまでも自分の中の変わらない領域としてあるかと思ったら、いろんなことが起きてそうじゃないって気づいたんじゃない?

か あ、とうとう脳内から脱出した!

 

作品データ

「パターソン」(原題 PATERSON )

監督 ジム・ジャームッシュ
製作年   2016年
製作国   アメリカ
配給 ロングライト

 STORY
ニュージャージー州パターソンに住むバス運転手のパターソン(アダム・ドライバー)。彼の1日は朝、隣に眠る妻ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)にキスをして始まる。いつものように仕事に向かい、乗務をこなす中で、心に芽生える詩を秘密のノートに書きとめていく。帰宅して妻と夕食を取り、愛犬マーヴィンと夜の散歩。バーへ立ち寄り、1杯だけ飲んで帰宅しローラの隣で眠りにつく。そんな一見変わりのない毎日。パターソンの日々を、ユニークな人々との交流と、思いがけない出会いと共に描く、ユーモアと優しさに溢れた7日間の物語。(公式サイトより)
http://paterson-movie.com

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イラスト か

か=かとうちあき(野宿野郎) 苦手なジャンルは、ホラー、アクション。最近観たのは「米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー」。横浜でも満席でしたよ~。

み=宮川真紀(タバブックス) 好きなジャンルは、ホラー、SF、社会派ドラマ。「シンクロナイズドモンスター」最高でした!共感してくれる人がいません!「ブレードランナー2049」疲れた…。「最後のジェダイ」でスカッと締めくくりたい2017年。

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