たかが映画なんだけれども 第14回「search/サーチ」
(2018/12/11)
誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第14回は「search/サーチ」 。全編PC画面だけ、斬新って触れ込みだったけど、みてみたらそこよりもむしろストーリーにめちゃひきこまれました。文字を打って消したりの間とか、いろんなSNSとか動画とか、伏線とか、うますぎる。親子愛ものが嫌いなかとうも楽しめる仕掛けもまたニクい作品でした。
「あの形でしかできなかったかっていうと、そんなことないよね」
「プロットがしっかりしてるのを、超新しいのに落とし込んで」
み PC画面だけ、新しい、って確かにそうなんだけど、途中からそんなに気にならなくなってくる。監督がグーグルグラスだけで撮った作品がTouTubeで話題になって、グーグルに招かれてCM制作してたんだってね。
か そうなんですね。短い映像を撮っただけなのに、いきなり長編を、というのだけどっかで知った。
み 技術的にもすごいのかもしれないけど、映画としてよかった。あの形でしかできなかったかっていうと、そんなことないよね。
か プロットがしっかりしてるのを、超新しいああいうのに落とし込んで。映像も、隠しカメラを仕込んだりとかよく考えたなーって。これもありか、あれもありかって。
み ニュース映像とかも、ネットニュースをやってる体で。
か うまいうまい。
み 本当にチャットだけとか、SNSだけみたいなイメージがあったけど、確かに今動画の時代だからねえ。
か あと、あんなに検索できるのかって。怖い!
み あのお父さんもIT系だから、慣れてるのかも。実況するサービス「You Cast Now」だけ架空なんだって。
か そうなんですか。なんかありそうだけどね、実況しながらコメントするのとかあるし。
み 映画でやってたのはすごい個人的っぽいよね。コメントもエロいのが来てブロックしたり。お父さんがその実況をやってみたところで、ちょっと笑いが起きた。実況ボタン押したけど固まっちゃって。導入のところはすごいうまいと思ったなー、生まれてからの記録をためていって…
か それは…説明してください!
み え?見てないの?
か 映画館間違えて…
み アホ!そこがよかったのに!最初Windowsがポーンと立ち上がるのよ、古い画面、Xp?なんでだろうなと思うとマーゴットが生まれた16年前だから。それで成長を追っていって、写真をフォルダに入れたり、カレンダーが出てきたり。
か それは誰が動かしてるんですか?
み お父さんじゃない?で、娘が小学生くらいになったらFacebookのアカウント作ったり、お母さん病気になったけど、回復してランニングしてる動画撮ったりとか、時代が進むにつれいろんな機能が出てきたり、画面がきれいになったりとかうまく見せてる。カレンダーでママが退院する予定を消して、別の日にしてそれも消して、メモリアルのアルバムを作る。高校の入学式の写真はパパと2人だけ。これで背景が全部わかるわけよ。
か そっかー。お父さんが娘とのチャットで「お前を誇りに思うよ」って送ったあとに「ママもきっとそうだろう」って書きかけて消してたところから見たから、なんで消したのかな、と思ったところから始まりました。
み その辺が伏線になってて、習ってたピアノをやめてたのが発覚するけど、それはママを思い出してつらいからとか、実況してるとき「今日はきれいな人の誕生日なの」って言い始めたところにパパがやってきて、何か言うのかなと思ったら一緒にテレビ見よう、としか言わなくてがっかりみたいな。
か うまいですねー、すべて回収されちゃって。
み 最後の最後のメールで「ママも誇りに思うだろう」って打って。
か きたーって。よかったよかった。
み そしてあの家族プラス、マーゴット失踪事件の担当ヴィッグ刑事の母子関係も出てくる。
か 私唯一引っかかったのが、刑事の息子がチャリティだと騙して近所の人からお金を集めてたって話してたとき、パパが「それでどうしたんですか」って聞いたら刑事が「本当に募金をやっているんですって説明しました」と言ったら、「あなたに頼んでよかった」と。そんなはずないだろう!とそこだけモヤモヤしてた。
み あの時点ではお互いのことよくわかってなかったし、子どもの話をしたのもあのとき初めてでしょ。優秀な鬼刑事みたいな人だと思ってたら、親の心もあるっていう。
か 自分のことわかってくれると。
み 娘がいなくなってお父さん必死で暴走しちゃって、刑事に「あなたは捜査に入らないで」というのも、親だから気持ちがわかる、みたいなのもまあ自然。でもお父さんが娘が好きな場所を探しあてて、キーホルダーを見つけて興奮して夜中に刑事に電話したら、やけに焦ってすぐ行くって言ってたのは、後からそういうことだったのか、というのがわかる。あのときも息子がちらっと映ってたんだよね。
か うまい。あそこで終わるはずはない、とは思ったけど、全く想像できなかった。
み そこから急展開だよね。
「ヤバいのかと思いきや×××、それを警察が×××」
「完全にネタバレでしか話しようがない!」
み 予告編見たときは、あんまりピンとこなかったんだよね。娘が失踪して、意外な面が見えてきたっていうから「ツインピークス」みたいなのかな、と思って。最初ちょっとそんな感じもしたけど、全然違った。新たな手法っていうと実験的みたいに聞こえるけど、洗練されてた。ミステリーの半端なやつよりも全然いい。手法が功を奏しているともいえるのかな。余計なもの映さなくていいし。
か 確かに。あれを全部撮る形でやったら意外と平凡に見えるかもですよね。
み でも撮影はめっちゃしてるわけじゃない、空撮もしてるし。
か お金かけてますよね。
み 彼女の学校生活がわかっていく中で、あんまり友達いなかったとか、それもありがちかなと思ったけど、そうとだけでもなかったり。お金をこっそりどこかに振り込んでいて、ヤバいのかと思いきや×××、それを警察が×××
か 警察ひでえ。なんでもできちゃう。お父さんがあそこまで粘らなかったら×××。いやあ、よくできてる。
み ちょっとわからなかったのが、お父さんが刑事に電話したらつながらなくて×××、それで疑う?
か 捜査したって言ってたのに聞いてないことがわかり、×××、あれ?って。
み 疑問がダブルになっちゃったから、疑惑に。
か ちょっと展開早すぎますけどね、×××。完全にネタバレでしか話しようがない!
「親のダメさ加減みたいのが出てきたのはよかった」
「ごめんなさい、バカなことをしてしまって、とかならなくて淡々として」
み 親子ものだからどうかなとちょっと思ったんだよね。嫌いそうだから(笑)。
か でもそこまでいい話じゃないでもなかったから。愛情はビンビンに感じましたが。
み お互い素直になれなくて。
か なんでそんなにしゃべらなかったんだ?妻のことを。
み 彼自身も相当ショックだったんでしょうね。弟が「彼女の気持ちわかってるのか!」って言ってたけど。
か 自分のことでいっぱいいっぱい。
み 自分のこともそうだし、俺がしっかり育てなきゃって。
か 時間が解決してくれると。
み いつまでもメソメソしてちゃいけないって思ったんじゃないの?娘もすごく頭がいいんでしょ、お父さん困らせちゃいけないって。でも実はさみしいし、ピアノも辞めたかったけど、パパが悲しむから言えないとか。
か わかった。あんまりその辺を想像しなくてもストーリーを追えるから、楽しめたんじゃないでしょうか、私は。家族愛嫌いだから。家族愛が好きな人は、そういうのをいっぱい想像していい話だって思えるし。
み そういうのを、文を打って、迷って消して、っていうタイミングとかで逡巡を表してて。でもまあお父さんはお父さんでがんばってたよ。その対比として刑事親子。あの息子がまたボンボンぽい顔してて、わーっと泣いてて。
か いそうだよー、いかにも。
み しかしあの息子、募金詐欺やるわ、ネットでも偽アカウント作ってお金だますわ、ずる賢いやつだよね。
か でもお母さんは「あの子は違うんです、弱いんです」って。全然違うじゃねーか!
み そうだよ、めちゃしたたかじゃんね。だから子どもは親の見る目と違うと。
か 自分が言ってたことですね、刑事が。
み でも親はやっちゃうのよ、みたいな。親のダメさ加減みたいのが出てきたのはよかった。しかも女性じゃない。なかなか今、母親が悪役になるのは難しいよね。
か ああー、だいたい女性はがんばって最後まで生き残りますもんね。でもそんなに悪い感じにも見えないけどな。
み いや見えないけど、取り調べの時に言ってた話とか最低じゃん。単なる親バカで。
か いやー、とは言え「あああごめんなさい、バカなことをしてしまって」とかならなくて淡々としてるのはいいな。
み それは、息子のためを思って、っていうだけでしょ。
か でも日本の映画とかだと、やっちゃった後にわああってなるじゃん。
み えー、ならなかったじゃん、「万引き家族」の安藤サクラとか。
か そっかー、でもあれは作家物で、そんな大作ってつくりじゃないし。
み わーっとならなかったのは、ただただ息子のためっていう、狂ってる感を出してるんじゃない。そのどうしようもなさはよかったけどね。
イラスト か
「search/サーチ」
監督 アニーシュ・チャガンティ
製作年 2018年
製作国 アメリカ
上映時間102分
http://www.search-movie.jp
STORY
忽然と姿を消した16歳の女子高生マーゴット。行方不明事件として捜査が始まる。家出なのか、誘拐なのかわからないまま37時間が経過。娘の無事を信じる父デビッドは、彼女のPCにログインしSNSにアクセスを試みる。インスタグラム、フェイスブック、ツイッター…そこに映し出されたのは、いつも明るく活発だったはずのマーゴットとはまるで別人の、自分の知らない娘の姿があった。(公式サイトより)
み=宮川真紀(タバブックス) 好きなジャンルは、ホラー、SF、社会派ドラマ。新刊続きで映画みる余裕なかった…「ボヘミアン・ラプソディ」はみたほうがいいの?どうなの?
か=かとうちあき(野宿野郎) 苦手なジャンルは、ホラー、アクション。いまみたいのは「ギャングース」です。あとは「ハード・コア」とか、どうなんだろ…。
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