たかが映画なんだけれども 第20回「新聞記者」
(2019/7/18)
誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第20回は「新聞記者」。わりとひっそり公開始まっててとりあえず見たら、え、これ参院選投票日前の今見るやつではと急きょ実施。暗い部屋で一斉にPCでカタカター…ヤバいです。
STORY
東都新聞記者・吉岡(シム・ウンギョン)のもとに、大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届いた。日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、ある思いを秘めて日本の新聞社で働いている彼女は、真相を究明すべく調査をはじめる。一方、内閣情報調査室官僚・杉原(松坂桃李)は葛藤していた。 「国民に尽くす」という信念とは裏腹に、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロール。愛する妻の出産が迫ったある日彼は、久々に尊敬する昔の上司・神崎と再会するのだが、その数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。真実に迫ろうともがく若き新聞記者。「闇」の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚。二人の人生が交差するとき、衝撃の事実が明らかになる!(公式サイトより)
「やっててもおかしくない、って気がしちゃうよね」
「現実はもっとひどい、とか、知ってる人は言いそう」
み 私はわりと早く、公開翌日くらいにみた。予告編とかあんまりやってなかったよね。
か ツイッター広告はいっぱい見ました。そういったメディアの方に絞ってやってるのかなーとか。舞台挨拶とか、取り上げられた記事とかも全然見なかった。でもこれ、私には話すの難しいと思いましたよ…。宮川さん語ってください!
み えー。私は単に今週末参院選だから、選挙前に見るといいかなと。映画見たあと老後2000万円報告書担当局長が退任っていうニュースがあって、内調のしわざか!とかすぐ思った。
か 内閣情報調査室! ああいうことやってるんだろうと思うけど、あんな一斉にツイッターに書き込んだりとかを、エリート官僚の人がやってるんでしょうか。時給いくらかでバイトの人が悲しくやらされてるのかと思っていました。
み あれをやってるかどうかはわかんないけど、やっててもおかしくない、って気がしちゃうよね。
か 現実はもっとひどい、とか、知ってる人は言いそう。
み ネットがあるから、政権におもねるような情報を出さなきゃいけなくなってるってことだよね。なけりゃ、文句言う人も可視化されないし。いわゆるネトウヨみたいなのって、最近なのか、ネットがあるからなのか、わかんないよね。
か 今まではもっと別のところでやってたのかもしれないけど、今はやっぱりネット、ツイッターなんですかねえ。書き込みまくれるし。
み あのPCでカタカターって一斉に書き込んでる部屋すっごい暗いじゃない。暗すぎない?
か 映像的効果はわかるんですけど、ちょっとへんてこでおかしかったですよね。
み 青白〜い、くら〜い、あんな部屋であんなことずっとやってたら病気になりそうだよ。
「エンタメ映画としてうまくできてて、現実とのリンクのさせっぷりがすごい」
「そう思わない人もいるんじゃないの、芸術に政治を持ち込んで、とか」
み 内調の杉原はバリバリのエリート官僚で、最初記者の吉岡に「君はそっち側の人間だろ」って、いかにも体制側のオレはこっちって言うのがはっきりしてた。それが子どもが生まれたり、内部事情を知って危険を感じたりしてこっち側そっち側というのが崩れていく。それは当然なんだけど、そんなことすら言っちゃいけないみたいになってる。
か 現実では。
み 個人がとか言ってるんじゃねえって感じじゃない。それが素直に葛藤しているのがわかりやすくなっててよかった。
か 確かに。詩織さん事件にモヤモヤしてて、吉岡が他の記者のセカンドレイプ発言に怒ってるの見たり、家帰ったら妻がその事件について話してて、また葛藤する。その積み重ねがうまい。
み 本田翼ちゃんの役どころがよかったな。官僚の妻で、天真爛漫としてるけど。
か そういう人も、詩織さんの事件はいやだって思うし、言うってことですね。
み そうそう。単純に信じられないって思ってる。なのに必死に個人情報あぶり出してスキャンダル作ろうとしてる俺って、と。
か エンタメ映画としてうまくできているのがまずあって、かつ現実とのリンクのさせっぷりがすごいなあって思ったし、こういう映画がどんどんでてきてほしいと思うから、これは応援せねばって気持ちにはなった。
み 日本映画ってこう言う政治エンタメみたいなのってあったっけ。
か あってももうちょっと政府の内部の人間ががんばってるような。ゴジラも政府万歳ですもんね。こんなに真正面から政権とか現実を批判するのは、あんまりない気がする。ちゃんとエンターテイメントで筋もわかるし、みててハラハラするし。
み 海外だと結構あるかな。ウォーターゲート事件とかいっぱい映画になってる気がするし。
か 「ペンタゴンペーパーズ」とか。新聞対政府ってかなり作品化されやすい感じがしますけどね。韓国だと「タクシー運転手」とか「1987」とか、すごいよなー。エンタメ感バリバリであんなにおもしろくて。カーチェイスまでやっちゃうし。
み そう、ちょっとそれを思い出した。
か 「新聞記者」みたいな映画がヒットしていったら、日本でもカーチェイスやってくれるかなー。
み 韓国も、光州事件とか民主化運動について作れるようになったのは最近なんだよね。でも日本は別に民主化を勝ち取ったわけではないし。
か 激しさがないからドラマにしづらいんですかねえ。
み ずっと現状に甘んじてきたし。文化とか芸術とかの分野だと、内面とか精神みたいなものがいちばんえらくて、社会とか政治を表立って語るのは下に見る、みたいなのをすごく感じるよね。
か 芸術性が高くてもよい作品と失敗してる作品が、エンタメだってよい作品とダメな作品があるんであって、どっちが偉いとかはないはずなのになー。「新聞記者」は気骨ある内容をエンタメに作ってて、よい作品ってことですよね。
み そうそう。だけど、そう思わない人もいるんじゃないの、芸術に政治を持ち込んで、とか。
か あー、アーティストが政治発言しちゃダメとか。
み そういう人多いでしょまだ。
か えー。そしたらこの映画出た役者さんはすごい。っていうのもどうかと思うけど、やっぱりえらいですねえ。
み 力のある役者さんいっぱい出てたしね。松坂桃李くん、だんだん顔がやつれていくのがやばかった。
「自殺するくらいなら仕事やめればいいのに、ってどうしても思ってしまう」
「やめようとしたら殺されちゃうかもしれないじゃん」
か だからいい作品だなーとは思ったんですけど。1点、新聞記者の父の娘っていうのが…。「父の娘」って構造がきらい。
み 出た!家族ぎらい!
か わかるよ、物語的には大事な要素になってるし、でもそこなくてよくね?とちょっと思いました。一番わかりやすいとは思うけど、ほかで説得力は作れないのかと。
み まあね。日本語話者ではない人で、異端というふうに作り込んでるんだよね。
か でも考えたんですけど、あれ以上説得力のある設定はなさそうなんだよなー。それはこの日本社会が悪い。別の国だったら、新聞記者が母親でもありだったかもしれないし。でもいまの日本ではない。
み ちょっとでも違う人への、異常なほどの排他感をわかりやすく表してた。まあ家族が出てくるとわかりやすいよね。杉原も神崎さんも家族。あ、悪者の方は家族出てこないね。内調の多田とか。
か すごい強靭な精神力ですよね。でもさ、自殺しちゃった神崎さん、思ってもみない改ざんをさせられるわけでしょ。自殺するくらいなら仕事やめればいいのに、ってどうしても思ってしまう…。
み やめようとしたら殺されちゃうかもしれないじゃん。今までもいっぱいある、秘書が自殺とか、不慮の死とか。
か 吉岡のお父さんも自殺なのかどうなのか、謎の死ですもんね。でも殺されると思います?
み やるときゃやるでしょ。「娘が生まれたんだってな」とか脅してたし。
か でもさ、改ざんに手を貸す前に辞めればいいのに。
み だから責任感なんでしょ。家族もいるし。あの人たち東大出てエリートコースなんでしょ。
か そんな人がツイッターであんな書き込みずっとさせられて、もうやだ辞めようってなんないの。
み それが国のためだって思ってるんでしょ、それで「この国の民主主義は形だけでいい」って決めゼリフが。
か あれはよかったですね。
み 本当に思ってるんじゃないの?「民主主義があるからいけない」とか「人権とか言ってるのがおかしい」とか国会議員が言ってるじゃん。その前段階が内調のあの暗い部屋。
か カタカタカターッ!
み ヒットしてるんだよね。ずっとランキング8位くらい。あんまり宣伝してないのに結構すごいんじゃない?これ配給がイオンエンーテイメントで、え、そんな大企業がってちょっとびっくりした。
か そうなんだ。でもよくよく考えると、そんなんですごいと思うのがダメなんですけどね。
み そうなんだけど、最初からイオン系のところでバンバンやってるわけでしょ。それでもメインのメディアで取り上げられないって、なんなんですかね。
か まず新聞は飛びつきそうなのに。「新聞記者」って映画なんだから。
み 飛びつけないのが気味悪い。イオンみたいなところが配給してるんだから、恐れることなく載せたらいいのに。私みたとき年配の人も多かったけど、若いカップルとかもいた気がする。情報戦みたいのを面白く描いているから、確かにあの変なツイッターはそういうことかも、とか思うんじゃない?
か いちいちツイッターのコメントをチェックするシーンとかリアルでしたね。ネトウヨが書いてることにも地味に削られるんだろうな、とかリアルだった。
み ぞわぞわってはなるし、ツイッターとか今っぽいことも入ってるから、選挙前に見るといいと思う。
か でも意外とみんなこんなもんだろうって、もはやぞわぞわもしない可能性もありますよ。
み あーうまいな情報操作が、みたいな。そんなー!
新聞記者
監督 藤井道人
製作年 2019年
製作国 日本
上映時間 113分
https://shimbunkisha.jp
か=かとうちあき(野宿野郎)
苦手なジャンルは、ホラー、アクション。ぜんぜん映画みてないくせに話してます。とりあえず、はやく「アラジン」みてみたい。
み=宮川真紀(タバブックス)
好きなジャンルは、ホラー、SF、社会派ドラマ。珍しく見たい映画が一致した!てことで次は「アラジン」?
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