やっぱり映画なんだけれども

たかが映画なんだけれども 第2回「はじまりへの旅」 

(2017/5/25)

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誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第2回は「はじまりへの旅」。
ヘンテコ家族の笑えて泣けるロードムービー、と思って気軽に観たら・・・予想に反して語らずにはいられない映画でした!

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ビジュアルはまさに楽しそうな家族だが


「子どもたちは優秀だし、自然の中で暮らして、なんとなくよさそうに見える」

「でもあっという間に軍隊っぽいのが出てきて、あれでもう楽しくないぞって」

み 宣伝とか見ると、森の中に住むヘンテコ家族が巻き起こす騒動、みたいなイメージだよね。

か そうそう、最初知らなくて自然のなかで仲よく暮らしてたけど街に出たらギャップに戸惑うみたいな話かと思ってたら!お父さん、虐待!

み あのお父さん絶対軍隊出身だと思ったよ。何時何分に集合!とか言って、子どもにスクワットさせたり。原題が「ファンタスティック・キャプテン」、キャプテンというのがまさにそうでしょ。でも自分は現実世界で奥さんを見つけたわけでしょ、こんな生活をする前に。自分は好きにやってるわけよ、人生の半分くらいは。

か だからさあ、羨ましい限りですよ。

み 誰が?

か 父がですよ、キャプテンが。だってあんな虐待しまくっても子どもには慕われて。洗脳ですよ、まったく。

み 途中までは子どもたちは優秀だし、自然の中で暮らして、なんとなくよさそうに見える。

か でも結構あっという間に、軍隊っぽいのが出てきて、あれでもう楽しくないぞって。自然の中にいるより、むしろ街に出た方がのびのびしてるじゃないですか、スーパー襲撃したり。だから全体的に何を言いたいのかわからない。

み 最初に焚き火をかこんでみんなに本を読ませて、何ページまで読んだかとか内容について質問したりしてたけど、でも興が乗ったら父親がギター弾いて、それにのってみんな太鼓叩いたり踊ったりして、それが楽しいってかんじに描かれてる。みんな本に集中してたのに。みんなでバスに乗ってるときも、お姉ちゃんが「ロリータ」を読んでて、お父さんが「そんなの読んでいいと言ったか」とか言って。

か 「ロリータ」のくだりは印象深かったです。

み そこでも感想言わせて、お父さん「well done」って言うんだけど、言い方がなんか軍隊っぽい。でも娘はほめられたから、すごいうれしそうにするんだよね。

か すごくまっとうなことを言うんですよね、そういうのが痛々しい。なんてかしこい子どもだ。それにお墨付きを与える父。

み 子どもだからさ、親にほめられたらうれしいし。

か 他者がほかにいなくて、絶対ですもん。あの人に否定されたらどうしょうもない。

み そこでちょっと反発持ったのが、弟。

か 反旗を翻したあの子はえらい。

み 岩登り中に骨折してるのにそのままやらせて。やっぱり痛みで反発心も芽生えたのかなって。他の子たちはそこまで反発してないもんね。あのお姉ちゃんも屋根から落っこちたのに…

か あれもひどいじゃないですか、何やらせてるんだって。

み それでお父さんをなじるとかしてないもんね。

か そう、自分の能力が足りなかったって。せつない。

み でも弟も最後はお父さんを許したよね。

か 丸め込まれたとしか思えない。

み お母さん死んだって伝えるシーンでも、みんなわって泣いてたけど、あの子だけ感情を収めようもなくて、物に当たって叫んでて、素直な感じだと思った。


「ラストはお父さんのいいなりじゃなくて、あの子たちなりの自我が出てきて」
「ついにはじまったんだ、最後に」


か 最後も、みんななかよくキラキラしてるのがやだったんだよなー。

み 私はあのラストはそんな嫌いじゃなくて。結局お父さんが折れたわけだよね、自分のやり方が正しいとは思わなくて、みんなを学校に行かせた。だけどあの子たちは身についた学習習慣があって、ごはん中もずっと本を読んでいて、でも学校に行くのを嫌がるわけじゃない。お父さんのいいなりじゃなくて、あの子たちなりの自我が出てきて、学校は学校で楽しんでるんじゃないかな。それはよかったと思って。

か そっか、私はもっと変わったところが見たかったけど。洗脳はなかなかとけないってこと。ちょうどいいってことか。

み うーん、お父さんがいいって言ったから行くんだろうから、洗脳といえばそうかもしれないけど、学校に行くことで外の世界を見るわけだから。

か これから見るんだ。ついにはじまったんだ、最後に。もうちょっと何か…って思った。いい話ってことに本当になってるのかな。

み いや、最後はまだ許せるってだけで。お母さんも精神を病んで実家戻って入院して、遺書に「仏教徒だから墓に入れるな、火葬してくれ」って、そこまで残すんだったらもうちょっと何かできなかったのか。お母さんも悩んでたんだよね、遺書は書いたものの。

か 結構病んでいて、精神状態がおかしくなっちゃったら、そのときに思ったことも本心かわからないですよ。

み お父さんが「これが本当に彼女がやりたいことだったんだ」というのも、わかんないよね。

か わからないですよ。でもシーンシーンで、きれいな映像もある。

み そう、衣装とかかわいいしね。どっから持ってきたんだよっていう。

か ほんとですよね、みんなお洒落さんになってて。ファンタジーですよ。みんなでバスに乗っていくところとか景色も美しいし、ロードムービーとしてわくわくするシーンはあるんだが、いかんせん父が虐待しすぎていて、要所要所えっ、てなる。

み それも暴力とかわかりやすいんじゃなくて、インテリ的なやなかんじの。あの子たちが将来ちゃんと育てばいいけど。

か 長男はやたら頭良さそうだから研究者とかになって幸せになりそうだけど、他の子たちは。

み クリスマスはだめで、ノーム・チョムスキーはいい、とか言ったら、ぜったいいじめられちゃうよ。

か うーん。困ったよ。

み どっちが正しいかって正論をおやじが突きつけて。大人気ないよね。

か ほんとだ、自分が子どもだ。CCF20170525_00000

イラスト か

作品データ

「はじまりへの旅」(原題 Captain Fantastic )
監督 マット・ロス
製作年 2015年 製作国 アメリカ
配給 松竹

どこを見渡しても雄大な自然が広がるアメリカ北西部。電気やガスはおろか、携帯の電波さえ届かない大森林の中で、自給自足のサバイバル生活を送る奇妙な一家がいた。高名な哲学者ノーム・チョムスキーを信奉し、現代の文明社会に背を向けた父親ベン・キャッシュと6人の子供である。18歳の長男ボウドヴァン、15歳の双子キーラーとヴェスパー、12歳の次男レリアン、9歳の三女サージ、そして7歳の末っ子ナイは学校に通わず、先生代わりのベンの熱血指導のもと、古典文学や哲学を学んで6ヵ国語をマスター。おまけにアスリート並みに体を鍛え、ナイフ1本で生き残る術まで身につけていた。子供たちにとって大森林での生活は毎日が冒険で、そこはまさにキャッシュ家の理想の楽園だった。(公式サイトより)
http://hajimari-tabi.jp

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