やっぱり映画なんだけれども

たかが映画なんだけれども 第7回「BPM」 

(2018/4/25)

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誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、ちょっと冬眠してましたがいい季節になってきたので復活です。第7回は「BPM」。1990年代のエイズの社会運動の映画を、今ねぇ…と、あまり気乗りしなかった(み)ですが、行ってみたら今みる必然性もあり語りがいがある映画だったのでした。

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パンフレットお洒落。ピンクの三角がACT UPのマーク

 

「サウンドシステムとか、スローガンとかロゴとか、今あるかっこいいデモの元かも」
「力の入れ方がすごい。自分のことだから」

 

み HIVが出始めの頃のアクティビスト団体「ACT UP-Paris」の映画ですね。

か 1990年頃だったら、まあまあ小学生ぐらいだったけど、あんまり記憶がなくて。

み やっぱりHIVでゲイカルチャーを知って、その後映画とかすごいたくさん出てきた気がする。

か 日本だとどんな感じだったんですか?

み えーと…あ、今日の映画でアクトアップに親子で参加してる子が、輸血で感染したって言ってたけど、非加熱製剤からHIVに感染した事件があって、そういう方面でも一気にエイズが注目された時代だったと思う。

か そっかー。アクトアップはボストンで始まって、今もあるんですよね。ドキュメンタリーもあるみたい。私「アクトアップ」っていうことばを知ったのが、2015年かな、安保法案反対の時。官邸前でバルーンが上がって、それが「アクトアップに触発されたもの」って聞いて、そういうのがあったんだーって。

み サウンドシステムとか、スローガンとかロゴとか、今あるかっこいいデモの元なのかもね。

か ロゴとか十分かっこいいのに、これじゃダサいとか話し合ってる。

み ポスターとかおしゃれだったよね。あと、陽性になっちゃった人が新薬の勉強とかすごいしてて「俺は4年もやってるからなんでもわかる」って難しい論文も読める。

か 力の入れ方がすごい。自分のことだから。あの時代エイズになったら職にもつけない感じなのかなあ。

み 職業何?って聞かれて「今はHIV陽性者だけ」って。社会保障は受けられたのかな。

か 医療は高額で受けられなかったというから、本当はあんなにスタイリッシュじゃなくてひどい状況だったのかも。「パレードへようこそ」観ました?

み みたみた、いい映画だった。

か よかったですよね。あの映画では最後、運動の中心だった人が亡くなるんだけど、その後しばらくしてアクトアップが結成されて、その後にパリでもって、つながってるかんじみたい。

み タイトルの「BPM」は何を表してるのかな。

か 行きの電車で慌てて調べたんだけど……脈拍?原題は「120 BPM」なんですよね。すごい早く走ってハアハアするぐらい?

み いや、走って120だと疲れない、ちょうどいいくらいじゃない?

か そうなんですね。流れてる音楽が120くらい?

み そうだね、クラブで踊ってるときの4ビートが120bpmかも。途中で「CD4数」(CD4リンパ球数)っていうのがよく出てきて、病気の進行の目安みたいになってたから、それと関係あるのかなと思った。「俺は180だ」とか。

か ああ、最後主人公がちょっと数値上がったって喜んでましたね。

み 50以下になると薬が後回しにされるとか。途中出てきた映像は「カポジ肉腫」なんだ……パンフレットの用語解説充実してる!解説併せてみないとわからないところが結構あるね。

 

「ミーティングの議事進行やり方とか洗練されてる」
「手話通訳の人まで入っていて先進的」

 

み 一般の人たちとの関わりがあんまり出てこなかったから、差別感とかはよくわからなかった。ゲイパレードのシーンも、パレードしてる彼らは映ってたけど、沿道とか写ってなくて。

か 多分ディスられたりしてるんだと思う。最初の会議のシーンで参加希望者に「ここに来たら、陽性者だと思われる」っていきなり言うのは、そういう社会なんだってまず表してたような。でも外とのあつれきをあまり描かないからこそ、成り立つ映画なのかも。

み もっと組織内での意見の食い違いとか対立とかが出てくるのかなと思ったら、そうでもなかった。そんなことよりももっと大切なことで連帯して行動していく、っていうことをちゃんとしてて。

か とはいえ、輸血の問題ばかりにフォーカスされそうになるとそれは違うって言う人がいたり、要所は押さえてて、映画のつくりがうまいなーって。

み 私はミーティングの議事進行やり方とか洗練されてるな、と思った。議論の邪魔しないように拍手じゃなくて指を鳴らすとか、話が長くなりすぎないように、とかルールが確立されてて。休憩ちゃんととるとか、廊下で議論しちゃダメとかね。

か タバコシステムもいいですよね。ちょっとカッとなったら廊下でタバコを吸う。あと手話通訳の人まで入っていたという、先進的さ!

み リーダー達にも、女子がいたしね。

か 女性の割合がどう考えても多いですよね、昔にしては。そういうのは現代に合わせて増やしているのかな。

み 女の子たちはどういうきっかけで参加してたんだろう。バイセクシャルとか?

か そのへんはわからなかった。女性の描き方は、息子と一緒に参加している母親が意見の違いで攻撃された時に、リーダーの女性が「女だからでしょ!」って言ってたり、ちょっと目配せが効いてましたよね。それにしても、今の日本でああいうことやったらどうなるんだろう。製薬会社に侵入したら、たぶん入った時点で捕まってコテンパンじゃないですか。

み だよね。入られた会社の人も「君たちの言うことはわかる」「まあ座って」とか対応してる。血糊とか投げられてるのに。

か 製薬会社の人がアクトアップの会議に一応出向いていくし。それだけですごいっていうか、ありがとう、みたいな気持ちになっちゃいそう…。ああいう活動したらネットとかで叩かれて、職を失いそうだし、日本なら。

み 最初のシーンで、講演会に忍び込んでジャックするんだけど、あれも同じようにエイズ関連団体なんだよね。同じ反対派だけど、生ぬるい!みたいなね。

か いいですよねー。あと、高校に行くシーンがよかったな。急に教室に入って啓蒙のビラまくんだけど、こっちの先生はダメって言うけどもう一人はどうぞって。

み「お話があるらしいわよ」って。校長先生が「未成年なんだぞ!」って怒るんだけど「16歳でセックスしないなんてあるかよ」ってコンドームを配ってる。教えなくて妊娠したら自分のせいになっちゃうって。

か 主人公が最初に経験したのが16歳で、数学の先生だったんですよね。それ、犯罪だろうって思うんだけど、僕も悪いっていう。今の価値観でもそうなのか、あの時代を反映してるのか気になった。恋愛に対しては、若くても自己決定みたいになってるのかな、フランス。

み うーん。やっぱり恋してたから、抗議はできなかったのかな。そもそも今この時、エイズの社会運動の話をみるって、なかなかハードル高いよね、よっぽど興味があるとかじゃないと。今日も映画館人少なかったし。でもやっぱり発見はあって、今みてよかったなと思う。

か 勉強になる!エイズのことも、社会運動も。こういう活動があって、少しずつ社会が変わってきたんだなって。

BPM

イラスト み

 作品データ

「BPM」(原題120 Battements par minute)
監督 ロバン・カンピヨ
製作年 2017年
製作国 フランス
配給 シネマスコープ

STORY
90年代初頭のパリ。HIV/エイズが発生してからほぼ10年の間に、その脅威が広がるなか、政府も製薬会社もいまだ見て見ぬ振りを決め込んでいた。仲間が次々と亡くなっていくなか、業を煮やした活動団体「ACT UP-Paris」のメンバーたちは、より過激に人々へ訴える手段に出る。彼らにとってこれは文字通り生死をかけた闘いであり、一刻の猶予もならない事態だったのだ。そんななか、新たにメンバーとなったナタンは、グループの中心的な存在であるショーンに出会い、ふたりは徐々に惹かれ合うようになる。だが、ショーンはすでにHIVに感染しており、自分の運命を自覚していた―。
http://bpm-movie.jp/#intro

か=かとうちあき(野宿野郎) 苦手なジャンルは、ホラー、アクション。最近面白かったのは「ニッポン国vs泉南石綿村」。「港町」が早くみたいです。

み=宮川真紀(タバブックス) 好きなジャンルは、ホラー、SF、社会派ドラマ。最近ではなんといっても大好きヨルゴス・ランティモス監督「聖なる鹿殺し」が最高…あれなんでこれ語らなかったんだろう…はっ、休んでたからでした。続けます!

 

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