やっぱり映画なんだけれども

たかが映画なんだけれども 第9回「万引き家族」 

(2018/6/25)

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誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第9回は「万引き家族」。祝パルムドール。連載初の邦画です。「邦画いやなんですよー」「なんかちぇって思う」とdisるかとうと珍しく意見が合って「万引き〜」に決定。見終わって無性に食べたくなるアレらを飲み食いしながら、語りました。

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安いビール、コロッケ、ラーメンで気分が上がる

 

「カップラーメンか、うどんかそうめん。やっぱり米を食べられないんだなって思った」
「長期的な何かを見れないとういう暗示的なことなのかな」

 

み 絶対見終わったあと食べたくなるよね、あの組み合わせ。

か あー、カップラーメン、コロッケ、ビール!

み 今回すごく食事のシーンが印象的だった。だいたい麺だよね。カップラーメンか、うどんかそうめん。やっぱり米を食べられないんだなって思った。

か お米を10キロとか買うという行為は、やっぱりできないものなんだ。

み お米炊くのも炊飯器いるし、電気代もかかるし、おかずがないとだめだし。

か 1食あたりで割ると安いんだけど、初期投資がいる。長期的な何かを見れないとういう暗示的なことなのかな。

み 重くて万引きできないしね。簡単に調理できる、茹でるだけのとうもろこしとか。トマト刻んで食べてたり。それでちょっと出てきたおばあちゃんの元夫の幸せそうなお家で「今日夕飯食べる?ロールキャベツよ」「食べる食べる!ホワイトソースじゃなくてトマトね」とか言ってたじゃん。あれが食事というか、生活の対比なんだなって。

か よく覚えてますねー。わたしは、ひたすらビール飲みたかったです。しょっちゅう飲んでるんだもん。

み 貧乏なのにね。あれはどうしてたんだろう。買ってたのかな?

か 普段は安いやつだけど、ちょっと嬉しいときはわりといいビール飲んでて、なんかよかったなー。お酒を飲みたいだけなら、重いお酒を買うはずだけど。大五郎とか鬼ころしとかのでっかいペットボトルとか。

み でも氷買ったり、割ったり大変だし。あの家冷蔵庫あったかな。

か あれ、冷蔵庫、見た記憶ない。食卓を囲むシーンの印象が強くて。ビールもコミュニケーションの一部でしたよね。

み 飲んでばっかりっていうわけではないもんね。すごい家族の時間みたいなものを大事にしているような。信代・治夫婦は、ギャンブル行ったりとかなさそうだし。

か ない!

み 自分の好きなこととか、レジャーとかはない。いつも家にいるしね。

か だから逆に家族を求めるっていうか。家族が大好き。

み 子どもは結局拾って来ちゃうわけでしょ。上の子も。最後「あんた拾ったのは松戸のパチンコ屋。車は赤のヴィッツ」とか、いかにもありそうな、ディテールがすごい。おばあちゃんとはどこで出会ったんだろう?

か どこで出会ったんでしょう。その辺は、ファンタジー感ありますよね。

み あきちゃんはおばあちゃんとこに転がり込む。あの家が嫌で、出てきた。

か ロールキャベツできゃっきゃするような家にいたたまれなくなったのか。それにしても、家の中のごちゃごちゃした造形とか、みんなの仕草とか、すごかったですね。

み 都会の、隅田川の花火の音が聞こえる辺りの古い家で、周りにマンション建っちゃった。すごいありえそうな感じ。地主ってことだよね、おばあちゃんは。立ち退いたら結構になるからそれに目をつけて転がり込んだってこと? あの夫婦。

か どうなんでしょう、そう思ったけど。家を売ってどうにかする手もあるけど、そこで家族みたいなのを作った。あんなに家族を切望するって、どういうことなんですかね。

み おばあちゃん離婚してそのあと一人だから、息子夫婦と孫みたいなのができたら楽しくなっちゃったんじゃないの。みんなの世話焼いてね。年金で暮らしているのは別に不正でもなんでもない、他人ではあるけど。あの夫婦は、前科があったりして生活保護とかもとりにくかったのかな。

か 生活保護にアクセスする知識がないのか、抵抗があるのか。

み 面倒くさいってのはあるかもね。おばあちゃんの年金とちょっとクリーニング屋さんで働いてるくらいで、どんどん自分たちで家族増やしちゃってるから立ちいかなくなっていく。

か 夫妻がひたすら家族を求めてる。

み あの2人は虐待みたいなものに敏感だよね。そんなの愛情じゃないんだよって。彼女は虐待を受けてたんだよね。この前5歳の女の子の虐待死事件があって至急対策をってなってるけど、なんで今急にみたいな感じになってるんだろう。ずっとあるのに。それこそ是枝監督の「誰も知らない」なんて相当前だよね。

か あのときは、やっぱりすごいと思った。いままで観たことなかった映画。

み びっくりはしたけど、その後も育児放棄とか虐待とか、全然なくならない。作る側としてはどうなんだろうね。ずっとテーマが…

か 家族。

み 家族って言うけど、家族にまつわる不幸なことがずっとあって、素材にしてる。それを映画で表現しても、社会には伝わらない。

か でも以前だと、虐待する親、虐待される子ども、社会、って血縁関係とそれ以外の話になりそうだけど、今回は血縁から離れて、他人同士が寄り集まって家族をつくる。そういう新しい家族の形みたいな提示が、今っぽいんでしょうね。それは、15年前には出来なかった映画で。

み それが犯罪の繋がりではあっても、と。

か 万引きでだって、繋がる。万引きしか教えることができないって、もしかしたら負の連鎖はあるとしても、もう一回家族として寄り集まる、みたいな。

 

「貧乏だけど絆があって楽しそうっていうふうに見てたのが、いきなり社会を見せつけられる」
「まともなこと言われてもそうだとは思わない。いろんな感情が湧くような作りなんじゃないか」

 

み お兄ちゃんが捕まってからあとが、すごくよかった。いきなり現実を突き付けられる感。是枝監督けっこう政治的発言してるじゃない、これまでの映画だとそんな感じしないけど、この後半からはすごく批判的。取り調べ官が、すっごいまともなこと言うじゃない、ザ・世間みたいな。

か まともまとも。

み 「子どもができないのは気の毒だけど」とか「家族がいいに決まってるじゃない」とか。

か すごいうまい構成ですよね。

み 信代さんが「え、捨てた?捨てたんじゃなくて拾ってきたんだよ」って言ってて、確かに世間が見捨てたものばっかりだってガーンとなった。貧乏だけど絆があって楽しそうっていうふうに見てたのが、いきなり社会を見せつけられるのが新しいと思った。それでも「血のつながった家族のほうがいい」って警官に言わせるのは、家族が助け合うって憲法改正案を皮肉って言ってると思うんだけど。それが伝わるかな。そうだよな、家族が大事に決まってるっていう人も多いんじゃないの?

か とはいえ、後半転調する前まで、これでもかって楽しそうに描かれているから、そういうまともなこと言われてもそうだとは思わない。いろんな感情が湧くような作りなんじゃないか。

み でも、犯罪ダメ、家族第一って考えしかない人もいる。

か その人たち観てるのかなあ。

み 観てなくて言ってる人もいるんじゃない? 議員さんとかもさ、タイトルもだし、助成もらってるのに政権批判とはなんだと。

か すごいすごい、びっくりしました。その前評判ばっかりを聞いてたから、もっと楽しい万引きしてるのかと思ったら、全然万引き映画じゃなかったですよね。もっと、ぼんぼんとって、やったぜ! みたいなのかと思ったら。そういうの好きだけど。

み 犯罪を面白く描く映画なんていっぱいあるもんね。

か それこそ、へんてこ家族…

み 「はじまりへの旅」ね。あれ、なんで万引きするって正当性をつけたんだっけ、お父さんが。

か 資本主義への反抗で。今日はスーパーマーケット襲撃するぞ!みたいな。

み ひどい(笑)。でもだれもあの映画のこと万引き映画って言わないし、むしろあの父親の教育が素晴らしいみたいなこというじゃん。それってどうなの。

か わたしはあんなに愉快な万引きシーンが出るのかと、わくわくして観に行ったら全然違かったのでびっくりしました。

み お店に置いてるものはだれのものでもないって言われると、ちょっと。

か お店がつぶれない程度だったらいいんじゃないとか。…いい気がするが。

み つぶれちゃった、がーん。祥太はそれで成長していってよかった。

か よかった。

み けど施設にいったんだよね。施設に行ってグレなければいいけど。

か あの子よさそうな感じだから、あの体験をバネにうまくいきそうな気がします。でもりんちゃんが…

み 1回あの家で暮らしたから、いざとなればなんとかなるかも。逃げ出するかもしれないよね。

か そうか、確かに。

み 万引きとかして捕まって、児相に駆け込んで、っていうのももしかしたらあるかも。

か 最後実の母親に「こっちおいで、洋服買ってあげるから」「謝んなさい」って言われても謝らなくって。あれは、希望がみえる。

み 構造的に、この映画に出てくる人たちもそうだけど、貧困でしょ、貧困の連鎖。その元のところまで、なかなか行かないよね。最近だって成人年齢18歳に引き下げになるって、年金払うのもそのうち引き下がるんじゃないか、結局税収増やすためだけなんじゃないかって思って。

か 票だけが欲しいのかと思ってたけど。

み 票もそうかもしれないけど、少子化だから、どんどん結婚して、子ども産めみたいな感じ? 受け皿も教育も全然ちゃんとしてないのに。

か 放りっぱなし。自己責任だって。

み 金だけが欲しい。こっちが万引きされてるみたいなもんだよ、わけわからない税金ばっかりとられて。

か そうそう、そうなんですよ! こんな状況なら、たいへんな人はとったっていいだろうよ。搾取されまくってて、ちょっとくらいとってなにが悪いんだって気にもなりますよね。

み 気にもなる。そんでムダもいっぱいあって、恵方巻きバーっといっぱい作っていっぱい捨てちゃうとかの反面、必要なところには行かないっていう構造。フードバンクだっけ、そういうのをもっとやったらいいんじゃない、これを機に。「0円キッチン」って食品廃棄テーマのドキュメンタリー観たんだけど、野生の食物を探すアプリがあって「ここの地域の実は食べられる」とか共有できるのがあった。

か へー、そこまで! でも結局そういうのにアクセスできるのはやっぱり限られた人で、たどり着かない人が困っているっていう現状ですよねえ。

み そうそう。虐待とか、いろんなことで困ってる人は「万引き家族」見たらいいと思うけど、たぶん映画館行かないだろうし。悩ましいよね。

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イラスト=み

 

作品データ

「万引き家族」
監督 是枝裕和
製作年 2018年
製作国 日本
上映時間 120分
http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/

STORY
高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、柴田治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込む。彼らの目当ては、この家の持ち主である初枝の年金だ。足りない生活品は、万引きで賄っていた。社会と言う海の底をひっそりと漂うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、互いに口は悪いが仲よく暮らしていた。そんな冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼いゆりを見かねた治が家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。だが、ある事件をきっかけに家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々に明らかになって行く— (公式サイトより)

 

み=宮川真紀(タバブックス) 好きなジャンルは、ホラー、SF、社会派ドラマ。なぜか試写状をいただくこの頃、恐縮です。「30年後の同窓会」はタイトルの印象より重くて、アメリカ中年男性の闇的映画だなーって思いました。

 か=かとうちあき(野宿野郎) 苦手なジャンルは、ホラー、アクション。近ごろ観た唯一の映画は、「ザ・ビッグハウスTHE BIG HOUSE」です。もっと観に行かねば…。

 

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