やっぱり映画なんだけれども

たかが映画なんだけれども 第23回 この星は、私の星じゃない 

(2020/1/10)

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誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第23回は「この星は、私の星じゃない」。フェミニズムがじわじわと注目されてるこの頃だけど、ウーマンリブのことは正直忘れてた。田中美津さん、そうだ、この人がいたんだとテンションあげて見にいきました。いろいろな側面に、また長々話して…

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話すのがむずかしいかも…ととりあえず腕まくり


解説

ドキュメンタリー映画『この星は、私の星じゃない』は、1970年代初頭、日本におけるウーマン・リブ運動を強力に牽引した田中美津を、4年間に渡り追ったドキュメンタリー映画である。
当時、「女らしく生きるより、私を生きたい」という田中美津の思いに多くの女たちが共感し、ウーマン・リブ運動が日本各地に沸き起こった。「モテない女のひがみ」と嘲笑してくる男マスコミに、「女の生き難さの中にリブが息づいているだけだ!」と、1歩も引かなかった女たち。
ウーマン・リブは、田中にとって1対多数の世界だった。カリスマとは、そういうもの。今は、鍼灸師として患者と1対1で向き合う。「私の中にその人の居場所があるし、その人の中にも私の居場所がある」。「心・技・体」は間違い、「体・心・技」で幸せになろう、絶対になれるよと、田中は患者に語りかける。田中美津は、死ぬまで田中美津である。(公式サイトより)

 

「ウーマンリブは、今となったら知らないから逆に新鮮かも」
「常に今戦っているものは批判されて叩かれる」

み  今、ウーマンリブのことって誰も何も言わないよね。

か  フェミニズムとどう違いがあるかわからなくって。第1波、第2波とかいうところの、流れだと2波って考えていいんでしょうか。

み  まあそうかな、70年代だからね。その前に学生運動があって。

か  その時の違和感みたいなのが後押しした運動?

み  あの頃は反戦とか盛り上がってたから。労働運動とか安保反対とか若者が声をあげてて、だからそのひとつみたいな印象があるけど。私の母親世代かな、ミニスカートはいて女解放だっていってたのとリブが重なるイメージ。

か  へえー。中ピ連とかもリブ? ラジカルっぽいイメージ?

み  おもしろいかんじもあった気がする。今日の映画でも、みんなで歌ったりして、楽しそうだったよね。新聞とかではちょっと色物っぽく扱われてたんじゃないかな。

か あー、それはその後もずっと……。メディアでは色物扱いされてきた歴史があって、だから名前を変えて私たちはそれとは違う、フェミニストっていうことばを使うようになったのかな。どこで変わったんだろう。

み  1986年に男女雇用機会均等法施行で、男女共同参画ってことばも出てきて、上野千鶴子さんもその頃出てきたからその辺りなんじゃないかな。女性が社会進出した方が消費するから、というので女性が持ち上げられて企業フェミニズムみたいなかんじもあり、それに対しては田中さんは苦言を呈してる。

か   “私”が主体で、身の回りぐるりのことをやるっていうのが田中さんにとってのウーマンリブ、ってことでしょうか。最初の本『いのちの女たち』の「便所からの解放」では、学生運動で一緒に戦ってるつもりでも結局、女性はおにぎり握ってるか性の相手になるかってことしかできないって挫折感から、自分たちの活動にシフトした、それがウーマンリブだって。

み 連合赤軍の永田洋子に会ったというのが本に出てきて、妊娠したりピアスした女性を粛清しちゃったというのは、結局自分の女性性をそういうことで否定することでしか生き残れない、それは私かもしれないということから「永田洋子は私だ」って文を書いたんだよね。田中さんはリブ活動のあとメキシコ行っちゃって、そのあとウーマンリブは継続してなくて、それについて小熊英二は批判してるけど。

か  批判してるんだ!

み 上野さんのことは認めてるけど。今日の映画でもトークイベントのシーンで、ちょっと上野さんとは違うって感じだったよね、伊藤比呂美さんは同じだけどって言ってて。ちょいちょい出てくるけど学問としてのフェミニズムとは違うとは言ってる。まあその後フェミニズムも世の中から抹殺されてたけどね。

か  バックラッシュ?

み  うん、だから今の#Metoo とか、それこそ#Kutooに共感する女性たちはフェミなんて通って来てないし、意見を言い始めると叩かれたりするけど、フェミニズムの流れを勉強するよりはウーマンリブでやってたことを知った方がいいのかなと思った。だから映画の中で田中さんが#Metoo も同じよねって言ってたのかなと。リブは、今となったら知らないから逆に新鮮かも。フェミニズムの方がなまじ知られてきたから、クソフェミがーとか言われる。

か 常に今戦っているものは批判されて叩かれる。

み でもそういうのに屈しなくなってきたんじゃない。言われっぱなしじゃなくなってきた。

か えー、でもなあ。SNSで可視化されるのもあって、声をあげる人に日々励まされてるんですけど、クソリプ的なものがめちゃくちゃ多くて、表立ってる人は大変だなあって…。重箱の隅をつつかれるようにちょっとした失言もものすごい叩かれて。田中美津さんの時代とは、質の違う大変さがあるんじゃないかなって。ああいうの見てると、理論武装しないといけない、みたいな気持ちになっちゃう。

み いやいや、逆じゃない?無視無視。

か それしかないんだろうけど、ものすごいダメージを受けるだろうなって。対面だけで生きているのとは違う辛さもある気がする。

み 関係ないじゃんそんなの。理論武装とか言ってる時点で戦うことになる、田中さんも映画の中で言ってたけど、男と戦う気はないって。

か だけど、言ったことに対してすごい言われるから、やってる人は大変だろうなって。

み そこで打ち負かそうって思っちゃうから大変なんじゃない? 別に書きたいこと書けばいいじゃん、「便所からの解放」だってビラだったわけだし、リブみたいにわーっと「おんな解放!」って。

か いやー、でもなかなかそうは思えないんだよなあ。

み そんなこと思ってたらなんも進まないじゃん。

か でもさあ、こうだったよって言いたかっただけなのに、寄ってたかってわーって叩かれてるの見ると、自分じゃなくてもへこみますよ…。

み 無視無視!

 

「一人で語るシーンが多くて、田中さんの内面を出したいという作りだなと」
「社会をどうしたいってことじゃなく、“私”がどうやって生きていくかが核に」

み でもさ、これ朝10時からの1本しかやらないって、見る人セグメントしてない?

か 楽しみにしてたんですけど、封切られてから全然話題になってなかったですよね。

み 確かに。タイトルもちょっと覚えにくいよね、検索する時いつも忘れちゃって。

か 田中美津さんに興味がある人以外はヒットできないタイトル…。大事な核なんですよね。

み 映画も、沖縄の久高島に行ったり自然に対峙したり、ちょっとこう、別の次元に…。

か そう、ちょっと人を選ぶというか。

み そう行きたくなる気持ちもわかるけど。

か 私10年前くらいに田中さんの本を読もうとして最後まで読みきれなくって、名著って言われてるのにって自分にへこんだんですけど。身体感覚というかスピリチャルな感じにちょっと入れなかった記憶があって。田中美津さんのドキュメンタリーとしてはあれが正しいのかもしれないけど、合う合わないはあるのかなあって気がした。私はウーマンリブの活動の映像をもっと見たかった。

み そうそう。映画に合わせて出た本を読んだら、そんなに沖縄の話とかはなくて、リブのことも女性のこともたくさんあった。前回みた「ドクター・ルース」は、時代的なもの、過去のことをすごくたくさんやっていて、それが今につながっているのがわかるのがよかったけど。

か それはルースさんがずっと同じ活動をやっていて、理論的にしゃべりまくる。作りもあるけど、人の違いもあるのかなあ。

み でも上野さんと伊藤さんとのトークのシーンでは、明確に自分の意見しゃべってたよね。だから引き出そうと思えば引き出せると思った。だけど一人で語るシーンがすごく多くて、作り手が田中さんの内面を出したいという作りだなと思った。昔の映像とか少ないし、ほぼ今の心情がメインだからちょっとなーと思った。

か あー。でも私が思ったのは、社会をどうしたいってことじゃなくて、“私”がどうやって生きていくか、生き延びるか、ってことが核にありそうだから、やっぱり個人にフォーカスして撮るっていうのは監督の資質だけじゃなくて対象にもよるんじゃないのかなあ。

み そうかな、今でも講演したり本も出していて、そんな印象受けなかったけど。監督が、女性運動っていうことよりは、生きてきた個人を出したかったんだろうなって。

か そうかあ。自分がシンパシーを感じたからそこを撮った。

み 今田中美津さんを取り上げるのは偉いと思うけど、もうちょっと今の社会状況に寄せて欲しかった。

か 作ったのがもうちょっと後だったら違ったかも。あ、でも、編集ノートを読んだら、お寺で過去の親の話とかをしているシーンは後撮りなので、それが重要ってことかあ。

 

「自分の素朴な感情で動いている。筋を通さなきゃとなるとなかなか動けない」
「折り合いを自分でつけてゆくのに長い時間がかかるという重さが伝わってくる」

み 田中さん、息子が出てくると急にお母さんになってたね。

か ね、自分のこと「お母さん」って呼んでて。意外でした。あと田中さんが、自分ができるのは「見守るしかない切なさに耐えること」って言うところで、私は一番きゅんとしました。

み だけど、なんでも言える家で育ったからリブ活動できたって言ってたけど、5歳で性暴力受けたことで母親が怒っていたことをずっと抱えてて、それは言えなかったのかなと。

か お母さんは加害者の従業員をものすごく怒ったけど、クビにもせず、田中さんに黙っていなさいと言い…。

み それで「お母さんがあんなに怒ることをしてしまった」って何十年も抱えてきたってことでしょ。でも一方で自由にさせてもらったと言っていて、そのアンビバレンツは回収しなくていいのって思った。

か そこはでも、揺らぐし変わってくし、そういうもんなんだろうなー、人間って、親との関係ってって、しみじみ思ったけど。

み まあそれは自分のいろんな感情があって受け止めてるんだろうとは思うけど。

か その生な感じこそ、田中美津さん!って感じがしたけれど。なんか、そういう、わーっていう感じが面白いなーって思いました。1枚の写真をきっかけに高江にいって運動して。あれでいいんだよ、っていうことを言ってくれる映画だった。

み そう「そんなことは内地でやってください」ってズバッと言われたら、すみませんてしゅんとなっちゃいそうだけど、一生懸命説明して。そうすると向こうの人も聞いてくれる。

か 大事、とりあえずやってみるって。

み 自分の素朴な感情で動いている。こんなこと言ったらこう言われるかもしれない、1本筋を通さなきゃいけないとかなっちゃうと、なかなか動けない。ウーマンリブやってたのにメキシコ行って男作って子供生んで、そして鍼灸師、なかなかできないよね。最初から目標決めてみたいにやってたら。目標決めてたら永田洋子みたいになっちゃいがちじゃない、女性性全部否定しなきゃいけないとなったら、妊婦を殺さなきゃいけなくなっちゃう。田中さん、声がいいよね、すごく明瞭に話してて。さすがにずっとしゃべってきた人だなと思って。だから自分語りより、他の人との対話とか聞きたかったな。

か そうですね。だからこそもっと迫力あるシーンで押してって欲しかった。運動的なものを期待してみてしまったのがいけなかったのかなあ。ただ、自分を生きてゆくことってなんて大変なんだとか、自己の確立っていうか、自分の折り合いを自分でつけてゆくのに長い時間がかかるんだっていう重さがすごく伝わってくるから、それを描かなきゃいけないっていうのもわかる。

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当時の映像が楽しかった。叫んだり歌ったり、めちゃイキイキしてるリブのみなさん 
イラスト み

 

この星は、私の星じゃない
監督 吉峯美和
製作年 2019年
製作国 日本
上映時間 90分
http://www.pan-dora.co.jp/konohoshi/

か=かとうちあき(野宿野郎) 
苦手なジャンルは、ホラー、アクション。「アナと雪の女王2」って、なんかだいぶ1より後退してませんかー。なぜー。

み=宮川真紀(タバブックス) 
好きなジャンルは、SF、ファンンタジー、社会派ドラマ。お正月は韓国映画三昧でした。「パラサイト」ヤバいー、「エクストリーム・ジョブ」超笑ったー、正月気分満喫!

 

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