たかが映画なんだけれども 第32回 5月の花嫁学校
(2021/9/8)
誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第32回は「5月の花嫁学校」。タイトルでまず見なさそうー、とノーチェックだったけど知人がベタぼめしてて見てみたら、何これめちゃいいんですけど。確かに花嫁学校だし5月なんだけど、そこから想像しないものが現れるのに…邦題問題…
良き妻の鉄則7カ条、旧6: お酒は飲まない、新2:自分の稼ぎは自分のもの!
〈STORY〉
1967年。美しい街並みとぶどう畑で有名なフランスのアルザス地方。小さな村にあるヴァン・デル・ベック家政学校に、18人の少女たちが入学した。校長はピンクのスーツを粋に着こなすポーレット。経営者は夫のロベールだ。講師陣は迷信を信じる修道女、マリー=テレーズと、ポートレットの義理の妹で料理長のジルベルトだ。2年間で完璧な主婦に変身させる授業は、女性解放運動の風を感じる少女たちには時代遅れで、納得できないことばかり。美容師になりたい、法律を勉強したい、親が決めた結婚なんてしたくないと反発しながらも、お金も学歴もない彼女たちは大人の決めた道に進むしかなかった。(公式サイトより)
「最後に「革命よ!」っていきなりダンスが始まる」
「どうしたらあんなヘンテコな感じの映画になるんだろう」
み 最初、あれがジュリエット・ビノシュだと思わなかったよ。
か すごい変身ぶりでしたよね。最初の登場シーンなんか、まったくわからなかったです。まじまじみたら、あれっ、みたいな。
み ファッションも話し方とかも、いかにも昔の女性みたいなね。
か そういえば最近は何に出てたんだろう。
み 『ショコラ』、そのあと観ていないなー。え、是枝作品、河瀨直美監督のにも出てたんだ。
か 2018年かあ。出てるんですね結構。日本で特に人気だったイメージがある。
み 『ポンヌフの恋人』ですごい人気だったよね。
か ずっとコンスタントに出演していたんですね。うれしい気持ちになった。
み ベテランの人が活躍してるのはやっぱりいいよね。知り合いがすごいほめてて、「最後の10分でまさかの展開」と書いてたから何かと思ったら…良き妻の7か条がいきなり変わる。徐々に改革じゃなくて、いきなりコロッと変わるのが…。
か 面白かったー!
み 最後に「革命よ!」っていきなりダンスが始まるよね。あれがちょっと『ラ・ラ・ランド』っぽいなって思って。でも『ラ・ラ・ランド』は最初に踊り出してだんだん現実に戻っていくんだけど、こっちは最後にいきなりファンタジーっていうのがすごい面白かった。
か 確かに(笑)。あんまりない感じの映画ですよね。ほかもわりと笑える、夫が死んじゃうところでさえおかしくてしょうがない。どうなんですかあれ!
み うさぎ(笑)。でもさ旦那さんに「下品に食べないで」って言ってたのに骨がのどに詰まるって…ちゃんとナイフとフォークで食べてたのに。
か ちょいちょいおかしいですよね。
み なんかいかにもフランス映画っていうか、小洒落たユーモアみたいな。
か 草むらのラブシーンものりのりでおかしくって。
み 夫が亡くなって落ち込んで、よよよよってなってたのにギャンブルに使って借金?破産かよ!って、そこで怒り爆発。すごい面白い。
か どうしたらあんなヘンテコな感じの映画になるんだろう。
み テンポが速くてね。
か 結構長かったけど退屈しなかった。パンフレットもおしゃれですねー。
「あんなに拒絶してるのに、亡くなった後は落ち込んで。あれは演技なのかと思いきや、わりと本心」
「花嫁学校で教えているそのものを体現してるよね」
み そもそも旦那のロベールの家が金持で、それを受け継いだからそんなに仕事もしてなかったってことだよね、きっと。
か ただぼやっとしてる、若い女の子いるなって眺めているような人でしたもんね。
み でもポーレットは花嫁学校に就職して見初められたって言ってたから、もともとやってたんだよね、花嫁学校は。
か あ、そっか。仕事を探して、両親が亡くなって、就職して、ロベールに求婚されて。しょうがないよなあ。
み 旦那さんにベッドで「しようよ」って言われて、めっちゃ拒絶してて。
か あんなに拒絶してるのに、亡くなった後は落ち込んで。あれは演技なのかと思いきや、わりと本心って感じでしたよねえ。
み 花嫁学校で教えているそのものを体現してるよね。良き妻の鉄則その7「夜のお勤めも大事な仕事」って。いやなことだけど我慢してやってる。
か 長く一緒にいた愛情もあるし、不安もあるし。良き妻の鉄則を体現しようと過剰に。
み 周りの人たちもいいよね。独身の義理の妹、元レジスタンスの修道女、元恋人の銀行員。上手い構成だよね。みんな色々あるし。
か そうだったんかい!の連続で飽きない。
み 修道女は問題を起こすし。
か 「じゃあやめます」「やめてもらっちゃ困る」ニヤリ…みたいな、なんかああいうのがいいですよね。
み お約束みたいな、そういうのも面白い。
「花嫁学校で学べば玉の輿に乗れる可能性がある」
「その子の将来を思ってというか…いい結婚、嫁ぎ先のため?」
か この花嫁学校に来てる人たちの階層はどういうものなんだろう。知識がないからわかんなかったんですが。
み 寄宿舎だよね。2年制?
か 最初のほうの会話で、もっと勉強するんじゃなくてここにきたのは…ってあったじゃないですか。どういうことなんだろう、中流みたいなことかな。
み 違うでしょう、だってお母さんカフェやってたし、すぐに結婚すること決まってたし貧乏なのでは?
か 貧乏でもはいれるみたいなところ?
み 普通高校にはいかずに花嫁学校入れて1年ですぐ結婚させるってことだから。
か そっか。あ、貧しい農家出身ってある、花嫁学校で学べば玉の輿に乗れる可能性があるから…あるいは村を出て都会で稼ぐとか。だからちょっと無理して通ってるのかな、もしかしたら。それで、成り上がるみたいなこと?
み その子の将来を思ってというか…いい結婚、嫁ぎ先のため?その学校を卒業したって言ったらね。
か お金持ちと結婚できる可能性があると。
み Cっていう刺繍してた彼女はおそらく女の子が好きだから来たんだろうね。
か なんで来たのかというのは言わなかった。
み わたしは結婚しませんって言って、なんで勉強できるのに来たのみたいに言われるから…相手をさがしにきたみたいな。
か そうも思いたくないけどなー。自分からは言わないけど、実は女だからって進学させてもらえなかったとか、嫌気がさしたとか…。
み 早くからセクシュアリティの問題で花嫁になるつもりなくてきてる、彼女だけは。
か 最初はザ・フェミニズムみたいな理由で結婚しないと思ってたら、あれ?ちがうのかっ、ってなった。
み 最初から熱い視線で他の子見てたじゃん。
か えー、最初から?!
み それもありでは、花嫁…良妻賢母には反対で、自分はそれにはならない。
か なりえないことをわかっていたら早くからそれがおかしいということもわかりますよね。
か あとは、いろんな髪色の子がいるのに、赤毛だけがすごいひどいこと言われてて、どういう文化なのって思った。
み 「赤毛のアン」的なことなのかな?
か わたしもアンを思った、なんなのかな…赤毛=アンとか…あと、長靴下のピッピとか。
み ああ、あれも赤毛かも。メタファーかもね。
「女の子たちが最後行進して朗々と自分のこと言ってた」
「いろんな時代のフェミニストの女性たちの名前をみんなが言っていくの、ちょっと感動」
み あの家電見本市?に選ばれて、何をしに行くのかはよくわからなかったけど。表彰されに行くのかな?
か なんだったんですかね?選手権みたいだから、一応なんかやるんですかね。
み 女の子たちが最後行進して朗々と自分のこと言ってた。それはまあいいんだけど、どうやってそういう気持ちになったかが、そんなにはないよね。ちょこちょこっとしか。
か 主要メンバーの4人ぐらいはわかるけれど…盛り上がりが来たらいきなりみんな変わる。時代の波っていうか、勢いが後押しするって表れなんでしょうか。あそこでいろんな時代のフェミニストの女性たちの名前をみんなが言っていくの、ちょっと感動しますよね。
み あれ全部それ以前の人? 舞台が1967年だけど。
か 私もどうなのかなーって気になりました。わからん。
み あ、パンフレットに「ポーレットたちが尊敬する女性たち」って載ってるけど、結構昔の人だね。すごい。
か みんなちゃんと以前の人だった! あ、五月革命が1968年で、その後2年以内にフランス全土からすべての花嫁学校が消滅したって。
み みんながパリに行ったのがその時か。
か そりゃ盛り上がりますねえ。しかしポーレットが今後大変だけど、まあよしとしよう。
み なんで(笑)。
か 学校がなくなるから。
み ああ、そうか。でも彼が銀行をやめてなにかやるわけでしょう。土地とか相続したんじゃない?結構な土地だったもんね、大きな建物だし。
か それでも「学校を再建するぜ!」みたいな、あのバランスがかわいくていいですよね。
み だけどあの彼、借金は帳消しにしてあげるから結婚しようみたいな…そんなの、大丈夫なの?と思った。やっぱり今後大変かも(笑)。
「結婚しないなら家にいていいんだよ、理解ある俺、みたいな」
「それは搾取されてるだけ」と言われて気づいて髪を切って自分の幸せをみつけて」
み こういうのばっかり観てるからかフェミニズム映画しかないんじゃないかって気になっちゃうけど。
か たしかに(笑)。こういうのばっかじゃないですからね! ってどうなんだろう、実はフェミニズム映画ばっかりだったら嬉しい。とはいえその中でも熱い映画でしたよねえ、これ。
み 女3人だから険悪になったりしてもおかしくないじゃない。それこそわたしたちの好きな、今となっては好きかどうかわからないけど(笑)、ヨルゴス・ランティモス監督の『女王陛下のお気に入り』、あれはほんとに女3人の権力争いじゃない。この映画も、争いにまでいかないにしても、男性ひとりと女3人がなんとなく関係性を保ってて、考え方も3人がちょっとずつ違うから険悪になってもおかしくないし、最後妹のジルベルトとポーレットは恋のライバルっていうか、勝手にジルベルトがそう思ってるだけだけど、それを知っちゃってハサミを見つけて、まさか…と思ったら、髪を超いい感じに切っててみんなでわあ~ってなって。あれもすごい良かった。
か 髪型も服装も、態度も。全然違う人に見えるってあの変化!
み ジルベルトはさ、ずっとおじいさん、お父さん、お兄さんの庇護のもと、お前は何もしなくてもいいよと言われて。
か 結婚しないなら家にいていいんだよ、理解ある俺、みたいな。
み そうそう、ポーレットが経営の勉強し始めて「給料あなたに払うから」って。ここにいてもいいってお兄ちゃんが言ってくれるからって「それは搾取されてるだけなのよ、実家に住むだけなんておかしいでしょ」って。それにジルベルトも気づいて髪を切って自分の幸せをみつけるって感じになった。年齢上がると、そこから出られなくなる人すごい多いじゃない、わたしの友達とか想像しちゃって。なかなか新しく考え方変えるなんてできない、特に実家がらみとか。
か 最初から、朝から好きな音楽をかけて、生活を楽しんでいる、って感じもありましたが。
み いや、あれはでも実家に寄生というか…
か まあそうだけど…
み 何も考えなくてもいい、それでいいって言われたからこういういい生活をして料理の腕を生かして先生をやって、義理の姉も尊重してくれる。
か まあまあいい立場というか、楽しそうにやってはいるけど。
み それで恋に目覚めちゃって、好きになった人が、アイツの…みたいになってちょっと不穏になってもおかしくないところが、全然ならなかったから。金持ちで育ちのいいお嬢さんがひねくれずに、っていうことなのかな。
か いい人だ。
み みんないい人。
ジュリエット・ビノシュが腕をグルングルン回すダンスが最高
イラスト・み
5月の花嫁学校
原題 La bonne épouse
監督 マルタン・プロヴォ
製作年 2020年
製作国 フランス
上映時間 109分
https://5gatsu-hanayome.com
み=宮川真紀(タバブックス)
好きなジャンルは、SF、ファンンタジー、社会派ドラマ。濱口監督好きだし「ドライブ・マイ・カー」たぶん見るんだけどちょっとこわい、だって原作がー、何なんだよ「女のいない男たち」ってさー、と腹立てた記憶しかないから…
か=かとうちあき(野宿野郎)
苦手なジャンルは、ホラー、アクション。よりによってなんで村上春樹原作……ってどきどき観に行った「ドライブ・マイ・カー」、いやなところほぼない、すごくよい作品だったので、はやく宮川さんと呑んだくれつつ話したいです!
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