やっぱり映画なんだけれども

やっぱり映画なんだけれども 第2回 映画と政治 裸のムラほか  

(2022/12/12)

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誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、リニューアル第2弾は、政治。『裸のムラ』を見て、政治映画をいろいろ思い出しながら話してみました。と言いつつ、政治じゃない部分でいろいろ気になるところが…

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石川…海の幸…と刺身を食べながら振り返り

 

舞台は北陸の保守王国、石川県。現職最長となる7期27年目の 谷本正憲知事(75)は、コロナ禍に「無症状の方は石川県にお越しいただければ」と失言、「4人以下での会食」を呼びかけながら自身は90人以上で会食。永すぎた権力集中が招いた綻びか、仕える者は忖度の度合いを強め、為政者は傍若無人になっていく。(中略)いっぽうキャメラは、市井の生活者へも向けられる。同調圧力の強い社会で暮らすムスリム一家、車で移動しながら生活や仕事をするバンライファーの家族の姿から、理想や自由をめぐる葛藤と矛盾が浮かび上がる。(公式サイトより)

 

「男達が新しい生き方を〜とか言って、妻と子どもがついていく」
「どんな小さな単位の集団、家族にだって、ムラ的なものが生まれる」

み ずっと政治の話だと思って見てたら、早くから二つの家族、ムスリム一家とバンライファーが出てくる。

か はい。盛りだくさん。

み その家族、特にバンライファーの二組の夫婦が、ちょっと。

か どっちが?

み どっちも。特に中川家。

か ワンマン父でしょうか。宮川さんのひっかかりポイント、気になります。

み 自由人みたいに出てきたけど、あの人あのまま行ったら、知事になった馳浩が若いとき「これから新時代築きます!」っていってたのと同じになるよな、って思った。その象徴?って思った。

か あああ~。

み 最初は新しい生き方的な、古い政治家との対比として出てきてるんだろうなと思ったけど、結局男達が新しい生き方を〜とか言ってて、妻と子どもがくっついていってる。

か どんな小さな単位の集団、家族にだって、ムラ的なものが生まれるっていう…。そんなふうにも三つが繋がってるって、考えさせられるつくりって気はしました。

み それが描きたかったのかな。

か わー、なのかな。ラストの長回しシーンで、子どもが親から脱していく若干の希望も描かれてた気はするけど。

 

「忖度状態が、繰り返し繰り返し出てくる」
「新時代になっても水差しの水滴をひたすら拭く女性」

み まあ、石川県政のパートだけでも面白い。

か 前作の『ハリボテ』に続いて、コミカルさもありつつ。

み 秘書の男性が、ファイル持って記者会見に張り付いてて、知事の動向ずーっと気にしてて。

か そんな忖度状態が、繰り返し繰り返し出てくる。

み 馳になっても変わらず。

か あのループ感、狙ってますよねえ。

み 新時代になっても。あの水差しの水滴をひたすら拭く女性。

か 3回出てきた!

み 氷入れなくたっていいじゃん。あんな記者会見なんて一瞬のことなのに、わざわざお茶に氷入れて。

か ペットボトルでいいじゃん、って思うんですけど。SDGs? 記者会見とか各議会の中で、水差し文化ってどこまで残ってるんだろう。

み エクレアの試食で、手が汚れた、お手拭きないのか、秘書が用意しないとって怒る知事。

か あの時いいなと思ったのが、どん引いてる女性の表情が入ってるところ。

み あれ女子高校生だよね。

か はい、秘書と高校生を比べるような発言もあった記憶が。あの表情をしっかり撮ってるカメラマン素敵だ。

み あと馳浩が出馬会見で「これからは女性の力を、ここには女性が半数います」って言ってたのに、当選したら女性数名が花束だけ渡してすぐ帰っていって、後ろは全員男性みたいな滑稽な感じ。後半の方1980年代まで遡って映像が出てくるけど、その頃ちょろっと映ってる女性と、馳に花束渡してる女性の感じがすごい似てて。同じような表情して、同じようなぺらぺらのワンピース着てて。

か 一瞬ほんとにループで過去に戻ったのかと不安になるような類似っぷりでした。

み 40年くらい雰囲気変わってない。わざと?本当にそうなの?

か ああやって舞台に上げさせられる女性の系統があるんだろうか? 地方だからなのか、保守王国だからなのか。とはいえ東京も多少薄まっているにしても根底は同じで、日本全国ああなんだろうなと、暗澹たる気持ちになりましたよー。

み それで保守の中で勝った負けたやってる選挙戦を楽しむ文化?

か 楽しんでるのは一部だろうけども。「石川のお父さん」って!

み お父さんとお兄さんだったよね。

か チラシに「家父長制を抉り出す」的なことが書いてあったけど、そのままずばり、政治家を「お父さん」って呼んで応援するような世界線だった、日本…。

 

「〈娘です〉ってタスキ ケア労働の縮図?」
「応援するにはわりきるしかないんでしょうか。はびこる家父長制」

み 馳浩の「壇上に女性が半分います」のとき、娘さんもいらしてますって「娘です」ってタスキしてたじゃない。あれ『君はなぜ総理大臣になれないのか』で娘と妻がやってたよね。

か やってたー。

み あれを思い出した。いつからなの?

か いつから始まったんだろう。あれ気持ち悪いですよねえ。

み 選挙的に、候補者しか苗字を書いちゃいけないかららしいけど。

か そうなんですね。するとしょうがない気にもなるけど、「娘」ばかり見る気がするのがねえ。

み 娘が応援してるのが売りなんでしょ。ケア労働の縮図?

か 『香川1区』はみました? 当選が決まった後の娘さんの挨拶がかなり最後の山場的シーンになってて、泣けるんですよー。

み 『君はなぜ』の時も娘にインタビューしてて、自分は絶対政治家なんかなりたくないし、政治家と結婚するのもやだよね、ってはっきり言ってる。

か 当時大学生とかでしたっけ、すごくしっかりした方ですよねえ。『香川一区』のスピーチも素敵だった。ご本人も「娘です」タスキには思うところありそうだけど、応援するにはわりきるしかないんでしょうか。はびこる家父長制…。

み 妻が土下座したりとか、そういうのはよく見るけど、娘も出てくる。

か 選挙映画つながりだと、泡沫候補のドキュメンタリー『立候補』にはマック赤坂の息子さんが出てました。全然応援してないんだけど、最後手伝ってて、安倍晋三の演説に集まった聴衆にマック赤坂が罵詈雑言を浴びせられて怒る、印象的なシーンが。選挙の映画っていろいろありそうですよね。

み あるよね。意外とみてないけど。

か 想田監督の『選挙』とか。あれで観察映画と立候補者のドキュメンタリー映画を初めてみたので、知らない世界でびっくりした記憶。

み でも結局大変だとか、古いとか、男ばっかり、みたいなので。そう思うとNetflixでみたアメリカの『レボリューション 米国議会に挑んだ女性たち』はよかった。

か いまだったら、そういうのがみたいです。

み そう、もうわかった、おじさんは。さんざん見てるもん。

か そうだそうだ。日本で女性メインなのってあるのかなあ。『百年と希望』は、見そびれちゃったんですけど、予告の記憶だと共産党のドキュメンタリーで、池内さおりさんをメインで追ってるのかなと思ったんですけど。あ、『裸のムラ』には、若かりし頃の小池百合子さんが出てましたね。

み 前知事の谷本氏は、連立政権の応援受けてて、その応援だよね。自民党が野党だったときかな、両方保守だけど。森喜朗じゃない方。

か この人たちがまだ現役でいるんだって見せつけられて、しみじみ暗い気持ちに。

み そうそう。石川テレビが55年だっけ、昔の映像のアーカイブがあるのにあんまり使えてなかったのを、使ったというのはよかった。遡って映像見ることで、最初は刷新しますって言ってた人が、何十年やるとズブズブになるのが見える。それ見ることによって、バンライファーたちの末路を見る。そういうことなんじゃないかなって思った私は。

か 末路だったのか!

み だから映像を遡っていったんじゃない?今やってるドラマ『エルピス』も昔のニュース映像使っててそれがすごいって言われてるみたいだけど、テレビ局はいっぱい持ってるんだからどんどん使えばいいのにって思う。

か 『エルピス』、私はテレビないから見逃がし配信でみてるんですけど、ニュースシーンが権利関係でか静止画になってるので悲しいです。映画は翻りのあと、現代に戻って来て。新知事の馳さん、新しい新しい連発してたのに特に新しい政策もない、最初の所信演説も内容ない。そもそも何もないじゃん、って。

み だって「谷本行政を継承します」って言ってるんだから、新しいも何もないよね。

 

「真っ当な作りの映画だなあって思ったけど」
「それぞれの生活も政治、ってなってるのがいいかな」

か ドキュメンタリーをつくりたいとか考えたい人にテキストとして良さそうな映画だって思いました。

み 確かに80年代からの選挙シーンとか出てきたのは良かった。

か アーカイブの使い方とか、3つの題材を1つにまとめるとか、ドキュメンタリーにも演出が入るって会話をわざと入れたり、時間経過とともにそれぞれの見え方が変わっていく構成とか、踏み込んだインタビューとか、盛りだくさん…。

み えっ、ていうのは多いんだけど、ムスリムとバンライファーっていう、あまり馴染みのない人たちを取り上げてるから、入り込む、解釈するのに時間かかる。理解するまで緊張する、知らなすぎるから。それが途中からあれちょっとおかしいな、ってなるからどういう風に消化したらいいか、って。

か 情報量が多いですよねえ。これ1回見ただけじゃ宮川さんと話せないよ~ってのが見終わっての一番の感想でした。開き直ったけど。

み 特にムスリムについてはナーバスになる、彼らも言ってるけど、アルカイダとか、爆弾作ってるんじゃないかって言われるとか。そりゃそうだろうなって。

か コロナ禍で自分達に注目が向かなくて過ごしやすいって話にハッとしました。あと娘さんのインタビュー。

み そうだね。そのテーマだけだとそこに集中できるんだけど。

か もっと時間をかけて1つずつを見たいなとも思っちゃった。もっと長くったって見ると思うんだけどなあ。

み 作り方の嫌な感じはしないよね。

か 真っ当な作りの映画だなあって思ったけど、自分がそう思う時の真っ当ってなんなんだか。倫理観?

み 地方テレビ局制作でも、『さようならテレビ』、あれはちょっと作為的で、結局仕込みだけどそれが面白いでしょって言ってる感じが、嫌だった。

か あー、好みもあるかもだけど。この映画は、作為とか対象への踏み込みの加減とか、嫌な感じしなかったです。

み それぞれの生活も政治、ってなってるのがいいかな。

か 私たちとも地続きであるし、知らない世界を知られるというのもあるし。

み 中川氏は結局うまく食い込んでるじゃん。政治うまいと思うよ。

か できる人ですもんねえ。末路どうなるの~。

 無題49 2
イラスト・か

裸のムラ
監督:五百旗頭幸男
製作年:2022年
製作国:日本
上映時間:118分
http://www.hadakanomura.jp/#intro

か=かとうちあき(野宿野郎)
苦手なジャンルはホラー、アクション。だいぶ前ですが「ドンバス」を観に、あつぎのえいがかんkikiに行きました。駅前に角打があった~。いま観たいのは「ウィークエンズ」です。

み=宮川真紀(タバブックス)
好きなジャンルは、SF、ファンンタジー、社会派ドラマ。秋は仕事ぱつぱつで映画もドラマもほぼ見れず本も読めず空っぽ状態。「ペーパー・ハウス・コリア2」からリハビリします〜。「ウィークエンズ」は観てた、楽しく切なく辛かった。

 

 

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