やっぱり映画なんだけれども

たかが映画なんだけれども 第8回「パティ・ケイク$」 

(2018/5/25)

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 誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第8回は「パティ・ケイク$」。郊外、貧困、マイノリティ、多様な人たち、そして主人公がビッグサイズのブロンド白人女子でラッパーですと。こんな惹かれる要素いっぱいで観ない手はない、と美男二人映画を観たがった(か)を説得して決行したのでした。

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CAKESだけに、今回はケーキを食べながら(安直)


「なんでラップに目覚めたんだろう。白人女子の時点でディスられる要素がいっぱい」

「そういうのをリリックにしていくっていうのがラップだからかも」


 み 公開してすぐ観てTwitterに書き込みましたよ、忘れないうちに。「米郊外で貧困白人太め女子、飲んだくれシングル母、寝たきり祖母を養い、インド系、黒人アナキストあと祖母ってヒップホップには完全マイノリティなメンバーで音楽作っていく。うまくいかないことばかりなのもいい」「ラストのライブまでのエピソードもグッとくるのいっぱいあって、まあ泣いた」。いろんな要素が映画としてちょうどいい。

か たしかに。映画のフォーマット的にとっても王道。

み 険しい道のりがあり、仲間割れもあり。最初薬局に勤めるインド系のジェリとなかよしだと思ったら彼ってわけじゃなくて、恋愛は別なんだよね。

か あの友達との関係がやっぱりすごくいいですよね。

み そうね、彼氏じゃないけどあの場所にずっと一緒にいる。2人とも多分マイノリティグループなんだよね。

か 途中でケンカするんだけど、その後、仲直りしたときのやりとりがよくて。

み 「約束しろよ、絶対自分に自信を持つこと」みたいな。

か 常に「君には才能があるし、がんばらないとだめ」みたいなことを言ってるのがいい。ちゃんと信じているというか。肯定してくれているというか。本人も「私はいい女」っていつも言っているじゃないですか。自己暗示みたいなのもあるけど。

み ヒップホップと全然違うシーンの人達がやっているのがいいよね。白人で女性でとか、インド系とか。黒人だけどアナキストで、みんなマイノリティ。黒人のバスタードはノイズみたいな全然違う音楽をやっているのに、彼の秘密の隠れ家みたいなところへ行って、曲をサンプリングみたいなことをしたら、ラップに使えるっていうのもおもしろい。なんかあるんだろうなと思って、わざわざ森の中におばあちゃんの車椅子押して。

か いきなりファンタジー感。

み おばあちゃんにもなんか言ってみてって声を録音して、PBNJってラップグループ作っちゃう。音作りはアナキスト、パティはリリックと歌、薬局はMC。

か みんなキュートなんですよね。

み 家族もね。おばあちゃんはパティに歌ってみてって言って、すごいくだらない下ネタみたいなのに大笑いとかして。

か 「あんたはもうスターだよ。」って言うじゃないですか。決め台詞。

み パティはお母さんとおばあちゃんを養ってるのに「もっと仕事入れなさいよ」って、自分は飲んだくれてるママに言われてる。でも意外と反発せずに、ちゃんとやってる。

か 本当いい子なんですよ。家族愛っていうものは、大変なものですなぁ。

み お母さん、昔スターだったからそれが忘れられない。

か 美容師の経営がうまくいってないんでしたっけ。

み それでも楽しそうに暮らしている。

か けどみんなうまくいかない。

み お母さんもしょっちゅう男作ってて、せっかく警官の元同級生とうまくいきかけたんだけど。

か ステージではっちゃけて。カウンターから落っこちて。

み 怪我したら自分の奥さんの方にもどっちゃった。さーっと冷めちゃったんだろうね。あの警官、パティがラップバトルを路上でやってるときに来て、だれだれの娘だろって言ってお母さんにこれ渡してくれって、公務中にさ。そんなのあり得る?

か どうなんですかね。

み 町が狭くてみんな知り合いみたいな。そういう小ささを表してるのかな。

「自分の置かれている状況を自分のことばで表現してるのは、地に足がついてる」
「相手の男に悪口言われてラップだと言い返せるのがフェミニズムっぽくあると思った」


み そもそもだけど、パティはなんでラップに目覚めちゃったんだろう。好きだからなんだろうけれど、白人女子の時点で、ディスられる要素がいっぱいあるわけじゃない。

か でもそういうのをリリック、詩にしていくっていうのがラップだからかも。逆にそうじゃなければできないような。ラップの世界って、女性軽視がひどそうだしなあ。

み ルックスがよかったりしたら、カリスマモデルとか、それこそ歌姫みたいなの目指すかもしれないけど。「俺が神だ」みたいなこと言ってるО-Zに憧れるのがちょっとよくわからなかった。

か 仮託できる対象の女の人がいないからかなあ。この町から成り上がった人ってことで、仮託しちゃう気持ちはちょっとわかる。やっぱり憧れるっていうことですかね。

み ケータリングのバイトですごいお金持ちの家に行って。それがО-Zの家だったんだよね。

か そこで成功した人という、ものすごいシンボルなんですかね。

み でもパティが自分のデモCDを渡したら、それでたばこをギュギュッと押し付けて幻滅するんだよね。

か こんな奴だったのか! みたいな。そう気づくシーンをあれでいれているのかな。フェミニズム映画というのは大事なところですね。

み え、あんまりそうはみられないんじゃない。だってラップの映画、成功物語、みたいな打ち出し方だし。

か あれ、そうか。最近何を見ても、フェミニズム映画だって思っちゃう…。女の人のラップを取り上げる時点で、それを含まざるを得ないし。

み まあでも「美女と野獣」の話をしたときも、ジェンダーがどうかとか言ったけど、そんなこと言う人あんまりいないよね。「ワンダーウーマン」とかもさ。フェミニズム脳なのかな!

か いやなことがあると引っかかって前に進めないから、気にせず見れることに注意がいっちゃうのかな。それをクリアしてたり、もうちょっと何か言ってくれてたり、女性へのエンパワメント感があると、フェミニズム映画って思う。

み この映画は完全にそうだけどね。この前の「BPM」みたいに自分が虐げられているってわかって運動してるのとちょっと違って、抜け出したい、成功したいと思ってラップやってるから、成功ものとしてだとフェミニズムっぽい見え方はしない。女性解放!って言ってるわけじゃないから。

か たしかに。

み パティも最後のライブのシーンで、いろんな経験してきたけど私は私の道を行く、っていうようなリリックのラップをしてて、路上でラップバトルしてたときのディスり合うみたいな歌詞とはちょっと違うんだよね。そこから成長して、自分の置かれている状況を自分のことばで表現してるのは、地に足がついてるというか。それが見てる方もぐっときちゃうんじゃないかな。

か でもラップバトルのときも、相手の男にすごい悪口言われて、普通だと言い返せなくなっちゃうのが、「あんた高校時代ヤッタじゃない」ってラップだと言い返せるっていうのがフェミニズムっぽくあると思った。従来の型でもあるし、でも強い、反発してるから言える。フェミニズムのグラデーション。

み そうか。あれもラップだから言えたのかもね。相手がそんなこと言われると思ってなかったから、暴力で対抗した。

か 構造が色々おもしろいですよね。

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イラスト み

作品データ

「パティ・ケイク$」(原題PATTI CAKE$)
監督 ジェレミー・ジャスパー
製作年 2017年
製作国 アメリカ

STORY
主人公のパティは、掃き溜めのような地元ニュージャージーで、呑んだくれの元ロック歌手だった母と、車椅子の祖母と3人暮らし。23歳の彼女は、憧れのラップの神様O-Zのように名声を手に入れ、地元を出ることを夢みていた。金ナシ、職ナシ、その見た目からダンボ!と嘲笑されるパティにとって、ヒップホップ音楽は魂の叫びであり、観るものすべての感情を揺さぶる奇跡の秘密兵器だった。パティはある日、フリースタイルラップ・バトルで因縁の相手を渾身のライムで打ち負かし、諦めかけていたスターになる夢に再び挑戦する勇気を手に入れる。そんな彼女のもとに、正式なオーディションに出場するチャンスが舞い込んでくる。(公式サイトより)
http://www.patticakes.jp/

み=宮川真紀(タバブックス) 好きなジャンルは、ホラー、SF、社会派ドラマ。最近ではみんな絶賛の「タクシー運転手」がもちろんよかったですよね。今月「29歳問題」のトークイベントに出ます。こちらもおすすめ。なんと映画の仕事が来るとはネ!

 か=かとうちあき(野宿野郎) 苦手なジャンルは、ホラー、アクション。「タクシー運転手」、ほんとよかったですー。あと、ワタリウム美術館の「理由なき反抗展」のイベントで上映された「STANDARD」が! 「君の名前で僕を呼んで」は、まだ観れてません…。

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