やっぱり映画なんだけれども

たかが映画なんだけれども 第28回「82年生まれ、キム・ジヨン」 

(2020/11/10)

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誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第28回は「82年生まれ、キム・ジヨン」。大ベストセラーで、女性の置かれた状況にまつわる問題作でもある原作の映画化とあって腕まくりして臨むふたり。今回は(み)の韓国語の先生めいさんとレッスン仲間あやさんも一緒に、女性4人で映画を見て語りました。映画が終わって泣き腫らしてるゲストふたりと、首をひねる私たち。これは平行線になるのか……と思いきやいろいろ発見もあり、前向きな話になりました!

STORY
結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨン。常に誰かの母であり妻である彼女は、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。そんな彼女を夫のデヒョンは心配するが、本人は「ちょっと疲れているだけ」と深刻には受け止めない。しかしデヒョンの悩みは深刻だった。妻は、最近まるで他人が乗り移ったような言動をとるのだ。
公式サイトより) 

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顔がない原作(日本版)、後ろ姿の映画パンフレット


「本が現実で、映画はファンタジーという感じかなあ」

「覚悟して見にきた二人は、確かに生ぬるいなって思いますよね」

めい 私はめちゃくちゃ泣いちゃった。こんなに泣いたの久しぶりだわ。

か わー、そんなに泣きましたか。

めい この82年が、本当にそういう時代だったというか。お正月とかお盆とか、気配りのないお姑さんに苦しんでいて、そういうのを旦那さんが理解してくれない。だからこういう映画ができたのって本当にいいな、って思う。今はちょっと変わってきたと思うんですけど。うちのお母さんも7人きょうだいで、女では一番上で、高校の時から妹と弟のために働いてたりとかしてたから。共感できたところがあった。

あや お二人が全く泣いてないっていうのがすごい面白い。

み やっぱり本読んだから。映画の日本版の宣伝コピーの「大丈夫、一人じゃない」っていうのも、えっ?一人だって話なのに、なんか違うんじゃないのって思ったら、あーこの映画だったら、まあそうだよなって。

か ついこれ、最後ハッピーエンドにならざるをえないよなあ、って思いながら観てました。

み ジヨンは作家になりたかったっていう設定で、最後ライターか何かになって、それでハッピーエンドって、なんか違うよね。問題がなくなったわけでもないし。

か 自分のことを書いて、めでたしめでたし、終わり、みたいな。

み 原作は、文章を書いているのは精神科のお医者さん、しかも男性で、まったく女性のことを理解してないことがわかって終わるから後味がすごく悪い。これだけ苦労した女性のことを診断していたはずなのに、自分自身は昔ながらの考えを持った男性で、それじゃ治らないだろって。

か 本が現実で、映画はファンタジーという感じかなあ。

あや 確かに覚悟して見にきた二人は、確かに生ぬるいなって思いますよね。

み:単なるキムジヨンだけの問題ではない、歴史的に女性が延々と抑圧されて、こうなっちゃったんだっていう本だと思うんだけど。映画はジヨンの置かれた状況、夫婦の問題があって、関係している人が協力しあって前向きになる、みたいな話だから全然違う。

か:希望が必要なんですかねえ、映画には。

み:原作のエピソードは結構あったけどね、ストーカーのシーンとか、カフェのコーヒーとか。「いいよなあ、夫の金でそんなの飲んで」みたいに言われて、ちょっとカッとなるってシーンは結構印象的ではあるんだけど、映画では何度も出てきたから象徴的だと思って入れたんだろうね。

めい:カフェで氷ぶちまけるシーン、私はいらなかったと思う。あそこまで言う人は正直いないと思う。

み:ママ虫の癖に、みたいなね。積もり積もったものがプチンと切れちゃう。

か:ちゃんとキレるところがないので、一つくらいないとっていうところかなあ。あれくらいキレてくれないとガラッと変わってラストに行けないというか、あれがないと、めでたしめでたしってならないと思うんですよ。映画の場合。

み:先生に「私が悪いんです」って言ったことに対して怒った時どうしたかってって言われたから変わったっていう過程がかいてある。ちょっと前向きになれたっていうか。

か:あ、この映画、映画会社の創立作品って書いてある。やっぱり気合入った作品なのかなあ。

み:映画の中の先輩が作った広告会社と名前同じじゃなかった。春風?

めい:そうですね。

か:そうだったんですね。女性が設立とか、重なる部分も多いのかな。

めい やっぱり男から見たらちょっとテーマ的にイメージがよくはないっていうのもあって、コン・ユがキムジヨンに出て大丈夫?とか心配はあったんですけど「ぜひこの映画に出演したかったです」とインタビューで答えてましたね。

み 本が出たときも、男性からのバッシングがすごかったんですよね。日本版が出たときも、韓国の人がわざわざ日本のアマゾンに書き込みしてたって。アイドルが読んだっていうのも叩かれてたとか。

めい あ〜ありましたね。インスタとかで読んだっていうのを投稿したら、それに対してコメントがいっぱいついたりとかしてたんですよね。

「この本読んで、映画見て、共感してくれた人もすごく多かった」
「女同士で頑張ろうぜってなっているところがいい。連帯が見える作りになってる

めい でも本当に今の韓国の社会と全く同じものが描かれてるのではないかなって思いました。

あや:でも日本も一緒だな…って思いました。

めい:えっ思いました?

あや:思う思う。

めい:日本は韓国に比べたら、ちょっとゆるいっていうか、柔らかいとは思ってたんですけど。日本にもあるなって思ったのはどういうところだったんですか?

あや:盗撮とかもあるし、痴漢される方が悪いっていうのもあるし、一族で集まってお嫁さんだけがキッチンに立っているっていうのもあるし

か:男兄弟の優遇っていうのも。

み:お正月あるあるというか、ツイッターにわーっと出るよね。義実家に行って働かされて、みたいな。

あや:とはいえ私は若いときとかそういうものかもしれないって思ってきたから、今は違くてよかったなって。韓国だから日本と違うかもってシーン、なかったかも。

み:そうだね、なかったかも。会社の中で女性社員が出世できないとか。女性のチーム長が、選抜チームにキムジヨンを入れなかったんだよね。このプロジェクトは5年かけてのものだから女性だと無理だと思ってって。そう言ってしまうのもありがちかなって思う。そこで本当は助けてあげなきゃいけないんだけど、あれぐらいの年齢の役職ある女性だと、仕事脳になっているというか。それはあるだろうなって思った。

か:あなたのためを思ってって気持ちもあってって感じとかも。

あや:私幸せそうに見える?みたいなね。

めい:4人の仲良い友達がいて、そのうち二人が結婚してて、姑の話がめちゃくちゃ出てるんですよ。姑さんの還暦になって何をするみたいな話で揉めてる時に旦那さんが何にも言わない。別の部屋に行っちゃってみたいな。みんな「馬鹿じゃないの旦那さん、ダメだよね。」って。

み みんな怒ってるんだ。

めい 助けてあげないといけないでしょって。結構いるんですよ。息子を放っておく人。

み お母さんも、自分が嫁に入って苦労したはずなのに、自分の嫁にもやってるんでしょ。

めい:自分が苦労してたから、お前も、みたいな。

あや:それよくないわ〜。

めい:今の時代は旦那さんのお父さんお母さんが、嫁にも働いて欲しいんですよ。韓国では。なんで私の息子だけ働かなきゃいけないの?っていう。お前も働きなさいって。

あや:育児もしろよ家事もしろよ、みたいな?

めい:そうそう。うちの息子は夜勤とか残業としてて、遅くまで子供と妻のために一生懸命働いてるのに、あなたは子育てだけなの、みたいな。

か:日本と同じですね、共働きの流れとか。映画が描いてるのは、ほんの少しだけ昔ってかんじなのかな。

めい:今は結構、いい方向に変わってる。この本読んで、映画見て、共感してくれた人もすごく多かった。女だけじゃなくて。10年前と比べたらだいぶいい方向には変わってきたと思う。うちのお姉ちゃんが83年の早生まれで82年生と同じなんですけど、結婚に興味ないし、自分の仕事好きで。キムジヨンのお姉ちゃんに似ているかもしれない。

か:お姉ちゃんがいい感じだったり、そういうのが観られるのは、映画のいいところだなって思いました! エンパワメントされる。お母さん同士が集まってお茶するシーンがあったじゃないですか、ああいうシーンとかも本にありましたっけ。

み:ないんじゃないかな。

めい:私、あのシーンすごくよかった。

か:女同士でなぐさめあうというか、頑張ろうぜってなっているところがいいですよね。本だと一人きりって感じじゃないですか。映画は連帯が見える作りになってる。

み:まあそう思うと、映画全体としてはよかったのかな。何かあると家族集まって団結して、みたいなね。それはよかったよね。

か:映画のお母さん、「この子には自分のようにならないで好きに生きてほしい」って気持ちが強くて、毒親じゃなくて、めちゃくちゃ良い人だった。

み:お母さん、原作の方でもいい人っていうか肝っ玉って感じだよね。お父さんがだらしなくてお金で損したのを、お母さんが立て直してお店を持ってってバリバリやってる感じ。

か:自分が出来なかったことをって思ったら、娘にもぐいぐい行っちゃいそうなものなのに、本当に娘への愛情がありましたよね。

み:お母さんが「なんでも好きなようにしなさい、働きなさい」って言ってくれてたのに、ジヨンはその時その母親の人格になってて、お母さんを気遣っていた。ジヨン自身も母のことばに甘えられなかった。あそこは結構闇が深いシーンだったな。

「飛行機の中で、出張の帰りとかにうっかり見てほしい。おじさんたちに」
「「コン・ユかっこいいな」「あれぐらいの感じにはなりたいな」って思うかも」

あや:みんなあらすじを知って見てるじゃないですか。で、この中に出てきたチーム長にすごい嫌な事言うおっさんとかいたじゃないですか。ああいう人って私の周りにも、会社とかにもいた。あの人たちがこれを初見で見たら、どこまで主旨に気がつけるんだろうなって。私たちにはベースがあるからこそシーンの意味がわかるけど、本当に”男“って感じの人が見たら全然意味わからないんじゃないかな。何この映画、どういう意味?ってなると思って。そう思いながら見てた。

み:チーム長が会議で、うまーく、おっさんをかわして切り替えて。

一同:カッコよかった〜。

あや:最後に折れなきゃいけないところとかも、結構悔しくて。

み:男の人たちは「そんなもんだよな」って思って見るんじゃない?そこでの悔しさみたいなのは全然わからなそう。女はこんなもんだよ、みたいな。男同士でしゃべって、育休がどうとか、家がつらい、休めないとかみたいなシーンも、そうだよな、男も大変だぜと思って見てるんじゃない?

あや:短いスカートはいてる方が悪いんだよ、とか。

み:そういう皮肉みたいなものは通じない。

か:通じないと思う。

あや:ちょっと飛行機の中で、出張の帰りとかにうっかり見てほしいなって思いました。おじさんたちはあえてチケットを買って見には行かないから。

み:そうだよね。「コン・ユかっこいいな」「あれぐらいの感じにはなりたいな」って思うかもね。優しい旦那さん。

か:本当に良い人に見えちゃうじゃないですか。コン・ユだと。実際そうじゃないのに。

み:そうそうそう。

か:良い風に見えてるけど、いやお前が悪いんだよ!って腹立つ~。

み:ちょいちょい違うぞって。

か:最終的にはよかったよかったって。しかも「僕のせいで君が…」って、いや、そうだよ?って。なのに癒されんなよって。

み:最後ジヨンの方が夫に「大丈夫よ、元気出して」って、なんでなぐさめられてんだよお前の方が。逆に気を使わせてんじゃねえかって。なんかおかしくない?コン・ユだからって。

 あや:やっぱり映画と本は違うなあって。映画はやっぱりみんながいいっていうのを作らなきゃいけないのもあるから。

み:でも最後なあ。作家目指してて書くことで元気になったのはいいんだけど、結局社会制度は整わないし、協力も得られないから、先輩の会社に行けなくなって、家でできる仕事で、ちゃんちゃん、っていうのはどうなのかなと思った。

か あそこの会社に行ってほしかったー。

み ポストで郵便物見てたから会社なのかなと思ったら、家じゃん。子供がちっちゃいから、妥協点を見つけて、家でできるライターの仕事を見つけた、みたいなのが、すごいわかりやすい。

か:でも本当は小説家になりたかったから本望なのかも。ただ見え方としてはちょっとなあって思います。

み:それぐらいだったら旦那さんも協力できる、公園に遊びに連れて行ったり、とかね。そのくらいまでならできるけど、広告会社でバリバリ働いてるのは無理、みたいなことだよね。

めい:今私の年齢で、韓国にいたら、できることがないんですよ。自分のビジネスをやらないかぎり、それが32歳くらいから無理ってわかって。1年くらい就活してたんですけど、就職できなくて。みんな優秀だし、私みたいな歳の人いないし、転職する人いないし。

あや:転職する人っていないの?韓国って。

めい:するけど、転職するとしたら20代の後半。28、29とか。私が留学行ってきて、就職しようと思った時が韓国の歳で32の時だったから。本当に大変で。ブランクになるのが結構大変。女性の経歴でブランクがあるっていうのが、もう会社が受け入れてくれない。

み:韓国ドラマで、まさにそんなのがあった!主人公が37歳で、離婚して就職先探すんだけど、広告会社で賞を取ったくらい優秀だったんだけど、やっぱりブランクがあってどこも雇ってもらえなくて、有名大学卒なんだけど高卒って詐称してサポート業務みたいなのに応募して受かったっていう。

めい:年齢とかに厳しいから、きつい。入ったら、会社の先輩とかが仕事を引き継ぎたくないって言うオーラを出しているというか。入っても苦しい。

み:うう、厳しい。日本でがんばってください!

 

82年生まれ、キム・ジヨン

原題 82 년생, 김지영
監督:キム・ドヨン
製作年 2019年
製作国 韓国
上映時間 118分
http://klockworx-asia.com/kimjiyoung1982/

か=かとうちあき(野宿野郎) 
苦手なジャンルは、ホラー、アクション。ここひと月、ほかに映画を観ていません。なにをしているのか〜。

み=宮川真紀(タバブックス) 
好きなジャンルは、SF、ファンンタジー、社会派ドラマ。韓国映画はこのあと「マルモイ」みて泣きました。怖いもの見たさで「三島由紀夫VS東大全共闘」見たらめちゃおもしろかった。そして三島を読み始めてしまった、ヤバい…

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