たかが映画なんだけれども 第22回 「おしえて!ドクタールース」
(2019/10/2)
誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第22回は「おしえて!ドクタールース」。この夏日本で話題になったネット配信のあの作品をどうしても見たくない、と思っていたところで公開されたこの映画。80年代のアメリカでこんな性のお悩み相談があったなんて!そしてこんな魅力的な女性が90歳の今でも現役で続けているなんて…あの作品見た人にもぜひ見てほしいです、ほんと。
STORY
1981年ニューヨーク。日曜深夜、ラジオから流れるトーク番組「セクシャリー・スピーキング」に人々は夢中になった。誰も教えてくれない性のお悩みをズバリと解決するドクター・ルース。身長140センチ、強いドイツ訛りの彼女は、そのチャーミングなキャラクターで、たちまちお茶の間の人気者になった。性の話はタブーだった時代に、エイズへの偏見をなくすべく立ち上がり、中絶問題で女性の権利向上を後押し、LGBTQの人々に寄り添ってきた。家族をホロコーストで失った少女時代。 終戦後はパレスチナでスナイパーとして活動。女性が学ぶことが難しかった時代に大学で心理学を専攻。アメリカに渡り、シングルマザーとなり娘を育てた。そして30歳の時に、3度目の結婚で最愛の夫フレッドと出会う。 自分らしく生きるために学び、恋し、戦い、働く。いつだって笑顔で前を向く“ドクター・ルース”はいかに誕生したのか。 (公式サイトより)
「今、ドクター・ルースはどう捉えられるんだろうって思う、日本で」
「この映画見たら、こういう人がいたらいいなって純粋に思いますよね」
み 80年代にアメリカでそんな番組をやってたなんて全然知らなかった。人気になったのわかる、話が上手だよね。受け止め方というか。
か うん、すごかった。惚れ惚れ。
み 話題的に、揶揄したくなったり、ちょっとジョークっぽく受け止めたくなっちゃうところを、例えば「僕は36センチあって」とかいう悩みを、バラエティ番組とかだと茶化すじゃない。それが絶対ないよね。
か まじめに受け止めて、でもユーモアがある感じで答えてくれるのがいいですよねえ。
み それはやっぱり学者だから?ドクターで、長年ちゃんと研究してるんだもんね。
か 出てくる人出てくる人、知的で、いい人で。人間ってみんなこういうものなのかって錯覚におちいって、焦る。
み 相談者も観客も、みんないい顔して聞いてる。ちゃんと伝わってるんだろうって思うよね。頭から否定しないで「ノーマルなんてない」「大人がベッドでお互い合意したら何をやってもいい」とか、名言連発。
か 1回、観客が怒って市民的逮捕をするって言うシーンが出てきたけど、あとは批判的な人が全然出てこなかったですよね。
み 中絶禁止のところでカトリックの神父とかレーガンとか反対する人が出てきたけど、直接文句を言うっていうのはないよね。
か 番組に対する批判とかは全然描かれてなかった。
み 中絶禁止は女性の立場が後退してしまうからダメなのよって言ってて、政治的じゃないと言いつつ政治的だって、娘や孫も言ってたけど確かにそうだよね。それにしても、番組が1981年でしょ、その頃日本がどうだったかっていうと、たぶん「オールナイトフジ」とかが人気だったんだよね(*1983年〜1991年放送)。
か あー、いまから振り返ると、めちゃダメな時期だし、いまもその負の遺産的なものが続いていそう。
み そう、とんねるずがエロネタで人気になってた。同じようなこと、サイズの話とか扱うんだけど全然違って下ネタで、それを女子大生の前でやる。
か むしろ女の人が消費される、テレビによって商品化が強化されるみたいな感じなのかな。
み 経済的にバブルだったから、全体的に商品化だよね。女子大生っていうことが売りになるし。
か むしろそれをうまく使ったほうがかっこいいみたいな。
み あの頃はとんねるずの下ネタ笑ってたけど、同じ時期にドクタールースがやってたことを突きつけられて愕然とした。話題の『全裸監督』の村西監督も同じくらいだよね。見たんだよね?
か 見ちゃったー。役者も豪華だし、すごいお金かかってそうだし、クオリティー高くて面白い。でもやっぱり肯定できないなあって思うんだけど、知り合いとかもけっこう絶賛してるから悲しい気持ちになる。強要とか二次使用とかAV業界の問題が言われてる中で、なぜこの人をいまヒーローとして物語化できるんだろうって思った。レイプ疑惑とか、賃金未払い問題とか、いろいろあるみたいだし……。
み 素人を騙して使うって、今もずっと問題になってるけど、それがチャレンジとされてるってことだよね。
か 同じ業界の人は、批判してないのかなあ。
み 表現の自由? 本当に気持ち悪い世界になってる。だから今、ドクター・ルースはどう捉えられるんだろうって思う、日本で。女性、だけじゃなくてセクシャルマイノリティの人とかは面白いと思うんだろうけど、成人一般男性は、どうなんだろう。
か でも何かしら性の悩みは持ってますよねえ。なんか色々考えたらいたたまれなくなるかも。
み 深夜ラジオとかでもそういう悩み相談あるかもしれないけど、そこまでさらけ出してないよね。
か うん、この映画見たら、こういう人がいたらいいなって純粋に思いますよね。
み もしかしたら日本もセックスのハウツー本みたいなのあったかもしれないけど、奈良林祥とか?でも男性向けだよね。男が喜ばせるみたいな。
か 10年くらい前に『女医が教える 本当に気持ちいいセックス』が売れましたよねえ。私読んだんですけど、おぼろげな記憶では、喜ばせる系ではなかった気がする。
み 女性向けなの?
か 女性向けだったんじゃないかなー。フラットで、男女どっちが読んでもいいつくりだった記憶があるけど。そのあとAV男優が教える、みたいな本も出てきた気が。
み それはテクニック論だよね。まあそれもいいかもしれないけど、ドクタールースはセックスそのものだけじゃなくて、全体的な性の話だよね。
か 確かに。常識とかの思い込みを取り払うことも大事とか。
み 悩みについても「あなたがおかしいんじゃないよ」とか「サイズなんて関係ない」とか。そういう感じのは全然ないんじゃない?
か 今ドクタールースが同じように日本にいたら、ギャグとして消費されちゃいそう。助かる人もいるけど、色物としても扱われそう。
み あまりにも情報が氾濫しすぎちゃって、素直に聞けなくってるよね。そういうこということ自体が、下ネタって事になっちゃう。たぶん若い女の子は、男の子にこの映画面白かったって言いづらいんじゃない? 私はこういうことが悩みなんだよね、とか言えるかな。
か 悩みはよほど信頼感がないと言えないですよね。でも、そういうこと言えるのはいいよねー、くらいは言えるんじゃない?あと、日本はなんて遅れてるんだろうとか。
み とにかくこの映画が東京で1館だけ、昼間1回しかやってないってことがいろいろ物語ってるよー。
(まだまだ語っています。番外編をnoteに掲載予定!)
おしえて!ドクタールース
原題 ASK DR.RUTH
監督 ライアン・ホワイト
製作年 2019年
製作国 アメリカ
上映時間 100分
https://longride.jp/drruth/
か=かとうちあき(野宿野郎)
苦手なジャンルは、ホラー、アクション。甲府空族祭りに行って「雲の上」と新作の「典座」を観てきたよ~。金欠だ~。
み=宮川真紀(タバブックス)
好きなジャンルは、SF、ファンンタジー、社会派ドラマ。タランティーノ作品、もういいかなーと思いつつ見た「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」、好きなやつだった。みんなちょっとずつダメ、っていうのが好きなのかも。
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