たかが映画なんだけれども 第29回「花束みたいな恋をした」
(2021/3/23)
誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第29回は「花束みたいな恋をした」。いろんな人が言及してるし面白いのかなと先に観たかとうから「これはどう見れば…」との連絡が来て気になるので見に行ったところ、やはりこれは…となって忘れないうちに語りました。昼の居酒屋で、オンラインで、外飲みで、結局何時間話したのかおそらく最長トーク…なぜなの…
東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った 山音麦(菅田将暉)と 八谷絹(有村架純)。好きな音楽や映画が嘘みたいに一緒で、あっという間に恋に落ちた麦と絹は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲を始める。近所にお気に入りのパン屋を見つけて、拾った猫に二人で名前をつけて、渋谷パルコが閉店しても、スマスマが最終回を迎えても、日々の現状維持を目標に二人は就職活動を続けるが…。
(公式サイトより)
思い出したあの2本のパフレットも読み直したり…誰も頼んでないのに…
「固有名詞言って通じたらわーっとときめくのはわかる」
「ストリートビューに映ったのがうれしくてライブ忘れちゃうって」
か なにがそんなに語らせてしまう映画なのか、いまいちわからなくて。みなさんいろんな解釈してるじゃないですか。すごいなあって。
み まあ全体的な話してもさ。細かいところからいくと、まず冒頭2020年とあるのに、ノーマスクですっごいしゃべってて、えって思った。固有名詞いっぱい出てきてそれはその時代じゃないと出せないやつでリアルなのに。
か それは春でギリギリってことで逃げたんじゃないですか。マスクしてたら表情見えないし、変更する時間もなさそうだし、しょうがないような。
み 今までの坂元ドラマだと、震災とかちゃんと入れてたと思うんだけど。それで5年前、2015年に大学生の麦くんはイラストレーターになりたいと言ってる。でも美大じゃなくて文系の大学生って感じだよね。それ目指してフリーターになるって、甘くない?
か いやそれは宮川さんができる側だし、スパルタだから!大体の人間はふわっとなりたくて、それで挫折しますよー。そこを責めちゃかわいそうですよ!
み そうなの?じゃ、絹ちゃんは天竺鼠のライブ行く前に男子に声かけられて焼肉行って、でもそこに他の女の子が来てバイバイしたら「チッ」って感じだった。あわよくばうまくいっちゃいたいって感じだったよね?
か あー、断りきれずっていうより、淡い期待がありそうでしたよね。
み チケット取ってこれから行くのに、そんなことある?
か ない、ないと思う。でもきっとそうじゃない人たちの物語なんだと、疑問をうっちゃって、なんとか納得していくしかないわけですよ。
み だけど、自分たちの好きなものを好きって暮らしたいってことでしょ。
か そうなんですよー。そこでありえないんだがってなる…。
み 彼の家の本棚見て「私の本棚じゃん」て言ってるのもわかるけど、その本とか作家とか…わりと普通?
か それも言っちゃいけないんですよー!
み 好きな作家のこと、なぜかフルネームでなんども言ってて、キーワードだからかなって。そんな好きなのに、作品のこと全く言わないよね。
か そうなんですよね、名前だけで共感してるからどこが好きとか好きの厚みとかが全然わからない。でもきっかけとしてはわかるんです。固有名詞言って通じたらわーっとときめくのはわかる。そして恋が始まるところ、見てるのすごい恥ずかしい。
み モノローグが入るじゃん、2人それぞれ。ごはん行った、3回デートしたとか、告白するかとか。恋したくてたまらない、ふつうの子たちじゃない?あと麦くんがストリートビューに写ったってめっちゃ喜んでて、あれがうれしいんでしょ。最後も出てきたよね。
か はい。
み それがうれしくてライブ忘れちゃうって子。でも大衆には迎合しないとか、ガスタンクで映画作ったとか言って。
か その辺も恥ずかしいじゃないですか、それが刺さるのかなと思ったんだけど。
み それで刺さるの?
か うわー、若い時こういうのしでかしてたよな、ひー、って。
み 自分はこんなにカルチャー好きでやっていこうと思うのに、紹介してもらってイラストのバイトやって単価下げられた、こんなんじゃダメだって就活する、髪切ってネクタイして革靴履いて。怪しい感じのクリエイターに紹介してもらうっていうのも古くない?
か 確かに、今っぽさと古いのが混在してるかも。後半オダジョーがオダジョーのまま出てきて安定感あるんだけど、いつの時代だよって思った。
み 自分はカイトさんに紹介してもらってたのに、絹ちゃんがオダジョーのところに行くのは腹たつんでしょ。
か しかし、そもそもあそこまで人間変わるのかなー。大げさにしないとダメなんですかね。
み SNSが出てこないっていうのはみんな言ってたけど、イラストやりたかったら、インスタにあげたり、ZINE作ったりとか発信の場はいっぱいあるじゃん今。それが先輩に頼るのが近道ってどうなの。固有名詞の時代性はあってるのかもしれないけど、ちぐはぐさが否めない。だけど坂元裕治さんみたいな大御所で面白いのいっぱい作ってる人のだったら、みんないいって思うでしょ、どうしたって。
か 価値観として?作品が?
み 作品として。センスいいって思うんじゃないかな。
か センスかあ。新しさは感じないですね。
み それも込みの、不自然さを表してるのかなとか、そのおかしさまで考えてなの?とかわーってなる。5年くらいって結構な長さだから価値観とか変わってるのに、それは置いといてみたいな?
か そういえばオダギリジョーの会社は脱出ゲームとかやってて今どきなのかもだけど、カルチャー好きって人がそういう会社で楽しそうにしてるのも不思議でした。でもそれも作戦かもしれない。なんなんだって混乱させる作戦。それに踊らされてるのかもしれない自分が腹立つっていうか。もー、訳わかんないですよ。
み カイトさんの彼女がDVの傷見せた時、後輩が「カイトさんも辛かったんですよ」っていうところもちょっと。
か あそこも女性陣が引いた顔はするけど何も言わず。いちおうどっち側にもなれる感じに作ってる。それぐらいの加減がいいんだろって感じが嫌だー。
み 男も大変なんだよ、って思う人の代弁だよね。
か でもそこで引いた目線を入れてるからありでしょっていう…。
「猫を最後ジャンケンでってさー、愛情ない」
「話し合いをするシーンが概ねないんですよねえ」
か 演技うまいし完成度も高いし、描かれてないことが多くて余白でいっぱいだから、解釈したくなる作りの映画であるんだろうなあとは思うんだけど、モチベーションはどこにあるんだろう。
み ぐっときてる人は共感じゃない?好きなものとか、趣味と仕事を両立できないこととか。
か そうだったのか。すごい恋愛映画だーって共感されてるのかと思った。
み 恋愛、そんなしてる?
か 恋愛ってのを見せるのに、趣味とか仕事とかがオプションで描かれてるのかと思って、ああいうのが恋愛映画なのか、やっぱり自分は興味ないなって。
み 前取り上げた「愛が何だ」とか「寝ても覚めても」みたいな、好きになってどうしようもなくなっちゃうとかじゃ全くないじゃん。恋愛をメインにしてるんじゃないなと。
か あー、でもそんな状態に、人はなかなかならないからさあ。
み そうなの?そんなことないんじゃない?
か だから花束くらいでいいや、これがリアルだろ!って感じなのかと。
み あの2本思い出すんだよなー、終電逃して京王沿線夜歩くとか、幸せな時期お互いシャンプーするとか。
か わたしも「寝ても覚めても」思い出して、今回二人が川の近くに住むところで、もっと不穏になれーって思った。
み あと猫。最後ジャンケンでってさー、愛情ないだろうよ。
か どっちが引き取った方がいいかとかちゃんと話し合いもせずにジャンケンで。話し合いをするシーンが概ねないんですよねえ。話し合いをしない人間たちの失敗を描いているのだろうか。
み 「寝ても覚めても」では可愛がってた猫のジンタンほっぽりだしてまで元彼の、バクって読む麦のところに行っちゃった。それもひどい話だけど。
か あれはしょうがない!
み そこまで突き動かされちゃったからね。それでも思い直してお金借りて帰ってきて、どんなに今の彼氏に疎まれようとも戻ろうとして捨てたって言われた猫を探す。
か 訳わかんないけどそっちの方が好きだなあ。「愛がなんだ」もぶっ飛んでるし。
み やむに止まれるものが「花束」にあんまりない。あるとすれば、モノローグで言ってたけど「3ヶ月してない」ってこと?そこに不満を持つのも普通の感情だし大事なのにそれは言わず、カルチャーと仕事の葛藤とか。なんかなー。
か なんで3ヶ月しないんだって喧嘩でもあればいいのに。喧嘩しないって面では二人、人間ができ過ぎていませんか。家事分担の話とかも全くないじゃないですか、あんな忙しそうにしてるのに。
み 30分かけて帰ってくるのもコーヒー飲んでるだけで買い物いつしてるんだとか。
か 家の中あんなに整ってて、一緒に暮らす不満とか全く描かれないで、だからこそ生活でなく恋愛を描いてるのかも知れないけど、他のことは入ってるからリアルさとおとぎ話さの加減が変って気がする。ドラマでは、家事はジェンダーを平等にするためにあえて描かなかったり、男性がしたりを入れてた。今回も恋愛初期には麦が焼きおにぎり作ったりしていたけど、一緒に暮らしてからはどうしているんだろう。勝手に各々暮らしてうまくいってたなんてことあるのかなあ。
み でもベランダにテーブル置いてとか、二人の生活楽しみたい感じ出してた。猫だって最初は遊んだけどそのあとほったらかし。
か やっぱり猫の扱いがひどいですよねえ。猫に名前をつけるのがなんちゃらって言うための記号、みたいな。
み バロン、って最初の方しか呼んでないよ。
「難病だったりライバルの存在とかがない二人が破局するには」
「若い子たちが破局するハードルが、あんまり考えてないこと?」
み 最終的に、絹は別れよう、麦は別れたくない、パパママって呼ばれてやっていこうって。そう言う関係性になろうって、いちばん分かりやすい感じになってる。数年間の会社員生活がそうさせたんですか? 男ってそう言うもの?みたいな。こんなに分かりやすい感じに、する? 立ち読みするのが「人生に勝つ」みたいなビジネス書とか。
か 説明なくそういうことをどんどんやっていくから、ざっくりで想像させたいんだと思うんだけど。わからな過ぎてつい考えちゃうから、口惜しい。いや無理があるだろう、としか思えないんですよねえ。
み だからカルチャーにアイデンティティはない子たちだったっていうことなんじゃないかなって。別々の恋人とデートしてるとき、ファミレスでおっさんが言ってたうんちくを受け売りでうれしそうに話してて。
か あそこ、最後に意味を持たせたいにしても、5年間花束みたいな恋をして結局人に難癖をつけようとする人間になりましたって話になっちゃってません? あんなうんちくを赤の他人に言いに行こうとするの、最悪じゃないですか。
み 2人だけで通じる、俺今もがんばってるよってサインなんでしょ?
か がんばりがおかしいよ…。
み いや、あの2人は自分を捨ててないぞってことの主張なんじゃない?それを笑うってこと?人間変わらないぞって?
か そんな!
み 思い出せば思い出すほど辛い。
か 好きなもので繋がるのはすごい大事なことだし、世界がわーっとなるその一瞬が大事って言うのはわかるけど。
み わーっとなってそのあとの脆さ?そんな簡単なもの?
か 小説とかカルチャーとかいうなら節約生活を試み時間を作ることもできるのに、なんで融通きかないんだろう。
み 調布から30分だから家賃は安いかも知れないけどね。
か だったらそんな無理な就職しなくたって。
み そうなんだよね。あの辺から近い、ネクタイしなくてもいいような仕事あるんじゃない?
か イラスト描きながらバイトしたっていいのに。イラスト3カット1000円で搾取されてたからバリエーションがない。
み 彼にとっては仕事だけど、出す方はバイトみたいな感じだよ、LINEでやりとりしてたし。
か そこで自尊心が削られて就職へ?
み だから自分でZINE作ったりすればいいじゃん。今そういう感じじゃないですよ、とか若いスタッフが教えてあげないのかな。アートブックェア連れてったり。
か やっぱり、そういうリアリティーはどうでもいいんですよ、きっと恋愛を描きたいだけなんですよ!
み 戻った!
か 恋愛をドラマにするには何かしらうまくいかない障害が必要じゃないですか。それが難病だったり、ライバルの存在とか、ではなくですよ。今回はそういうのがない二人が破局するにはどうするかというと、麦がそういう術を知らないというハードルが必要だったんですよ。いいこと言った!
み 若い子たちが破局するハードルが、あんまり考えてないこと?
か 障害ですよ!
み どれが障害?
か 麦がZINEを作れないことが障害!
み 学生時代何してたんだろうね。映画とか文芸とかサークル入ってなかったのかな。
か でもひねくれてるからさ。
み あーそういうんじゃなくて、おしゃれな感じで、人とは違う感じでやりたいみたいな?
か でもストリートビューで喜んでたしなあ…。って、こんなに考えてるんですよ、まんまとしてられてますよ。私たち!
み 誰も頼んでないのに!
花束みたいな恋をした
脚本 坂元裕二
監督 土井裕泰
製作年 2021年
製作国 日本
上映時間 124分
https://hana-koi.jp/
か=かとうちあき(野宿野郎)
苦手なジャンルは、ホラー、アクション。アサヒスーパードライを飲んでる「花束~」のすぐあとにキリンラガーの「あの子は貴族」を観て、映画の中でのビールの銘柄が気になる今日この頃です。あれってだいたいスポンサーなの?
み=宮川真紀(タバブックス)
好きなジャンルは、SF、ファンンタジー、社会派ドラマ。とうとうこのコーナーが紙媒体に!自社媒体ですが!2021年5月発売『仕事文脈vol.18』特集2:息抜き論で、「コロナSP・たかがドラマなんだけれども」座談会掲載。お楽しみに〜
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