やっぱり映画なんだけれども

やっぱり映画なんだけれども 第1回 家族と映画 アネット/三姉妹/ベイビー・ブローカー 

(2022/8/17)

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誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、特に頼まれてないけどリニューアル!  数本の映画からテーマを決めて話してみる、という企画にしてみました。1本に決め込むのが難しく、つい先送りになりがちなので…新シーズン第1回は、家族映画、ではないかもしれないけど家族が印象的な3本です。

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「あの物語のために、子どもにこんな役割を負わせるなんて」
「あなたは人を愛する資格なんてない!そう言えたら子どもは楽」

み なかなかこの作品って決められなくて、いくつか見てテーマでくくろうってことになりました。いろいろ見たよね。

か 見ましたー!あれもこれもいいんじゃないかって。

み 私が「アネット」と「パワー・オブ・ザ・ドッグ」どうかって。パワーオブも見たんだっけ?

か はい。パソコン画面だから、途中ながら見しちゃいましたが。

み 私は最初辛くてこれ今見なきゃいけないの?って思ったんだけど、勧められて結構がんばって見た。あれがジェーン・カンピオンで、「アネット」がレオス・カラックスでしょ。え、なんで今30年前の監督が、両方ともアカデミーの候補なのかって思った。

か 代表作の「ポンヌフの恋人」を古典のように思ってたんですけど、1991年制作なんだ。「ピアノ・レッスン」は1993年。こっちはリアルタイムで見た気がしてたけど、13歳の時だからおかしいな…。

み 90年代前半の、単館系がすごい元気な頃の作品だよね。「アネット」も途中まで今なぜ、と思ったけど、終盤のアネット=子どもがフィーチャーされてからがすごいよかった。

か そこ、お話ししたかったんですー。アネットが母もダメだって言ったりする終盤がいいって宮川さんがいうのはすごいよくわかるし、全体「その通り!」ってほっとする気持ちとともに、私は見た時なんか辛くなって。あんなことを冷静に言える子どもって、もう大人じゃないですか。あの物語のために、子どもにこんな役割を負わせるなんて、キーってなっちゃった。

み アネットが、大人に突きつけるのが?

か そう、その役割を負わせてるのが。

み 誰に?

か 作品? っていうか、アダム・ドライバーに親切すぎるって。

み それはわかるけど、そこまで言わせないと、わかんないんじゃない?

か そうなんですよねえ。

み 途中までは、アダム・ドライバーがダメダメで、今までのなかで一番ダメな役でファンとしては面白かったけど、まあああいうダメな人はいるじゃん。それがわかったところで、最後に突きつけるところがよかったよ。

か そうなんだよー。あそこが肝なんですよね。物語的にはそうだってわかってるのに、なんか拒否反応があって…。

み ラスト10分くらい、よく作ったなという感じする。最後スーパーボウルみたいなところでアネットが歌えなくなって「パパは殺人者」って言って、そこで捕まって終わってもおかしくはないし。

か そもそもアネットが人形ってのが、物語としても映像としてもいいですよね。操り人形のピノキオから人間になりました、それであんなことを冷静に父に言ってあげるアネット。ううう。

み あんな小さい子が、あなたは一生そのまま、誰にも愛されない、なんて断罪するなんてまあないじゃない。虐待されても子どもは「でも可愛がってくれることもありました」って言ってしまったり。

か ヨボヨボになった父に、成人した娘が、というのなら。

み いや、小さい時は言えなかったけど、成人してやっと言える、というのは聞くし。

か やっぱり寓話として完結するためには必要なんだ。でも生身の子どもを見ると、つい辛く…。

み だから見ててびっくりしたんだと思う。あんなに小さい子が、あなたは人を愛する資格なんてない!って。そう言えたら子どもは楽じゃない、自分が虐待を受けてて。

か そんな親切なことも言いたくないって…。

み いや、言わなきゃわかんないじゃん。だって父のほうはまだ子どもを可愛がる気満々でしょ。それは違うんだって。

か そうかあ。突きつけることで、エンパワメントされる人もいるのかもしれないですしね。

み すごく勇気がある作りだなと思った。

か カラックスの変化して攻めてる感じには、なんか感動しました。「ポンヌフ」とかを撮ってた人が、いまこれをって。

み それはすごいよね。もう結構な年齢だよね。

か 映画表現としても新しいことをやるっていうのに満ちている感じがして、そこは好き~ってなったんですけど。有害な男性性みたいなものも描かれてて、最初は俯瞰でクレバーにつくってる映画なのかなって思って見てたんだけど、もっと男性の物語っていうか、カラックスの実感や反省も入っているのではとか勝手に思ってしまい、ならば存分に断罪されるがよし、とか、ぐるぐるとしております。

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イラスト・み

 ***

アネット
監督 レオス・カラックス
製作年 2020年
製作国 フランス・ドイツ・ベルギー・日本・メキシコ合作
上映時間 140分
https://annette-film.com


「三姉妹も下になるほど関係性が対等ぎみになっていくのはリアル」
「がんばりすぎるのはよくないってことかな、家族に関して」

み 「三姉妹」は、女優陣とか見たらいいに決まってるって思ったから、試写状もらってたのに行かなかったんだよね。見たらちょっとイメージ違ってた、女同士のいい話ではなく。全然うまくいかず中年に差し掛かった姉妹の話だった。だから血縁の家族嫌いのかとうがよかったというのが意外だった(笑)

か それは、まさに。血縁以外の腐れ縁なんかで、気に掛け合ったり助け合ったり、同じような物語を見られないものか、とかは思ったのですが。

み そんなのがあったら、映画にならないじゃん。韓国は日本よりもっと血縁の結びつきが強そうから、あんな状態でもお父さんの誕生日に集まる。虐待受けてたわけでしょ、小さい時。近所に助けを求めに行っても、親を大切にしなきゃって言われて。

か あそこ本当に辛かったよー。

み しっかり者の次女は、家庭にどっぷりで信仰に走って。でも夫が浮気するじゃない、その相手の若い女性の方をボカスカ殴って。

か そうだよ、恐ろしいよ。しかしですね、なんかあの映画は、ああいうそれぞれの過剰さが魅力というか。

み それはわかるよ、だけどだったらなんで夫殴んないの。あそこで回収しちゃってるのはちょっと。

か でもあのように生きていたらって説得感はある。今後はわからないですよ。だけどあの時はああしてしまう人であるというのは、ちゃんとわかるじゃないですか。

み いやー、離婚するなら私が出したお金返してとかチクチク後でいうのはわかるよ、でも嫉妬心でしょ、あのボカスカは。浮気をしてるのは夫の方じゃん。

か そうなんだけども。

み 長女の方も、別れた夫がお金をせびりにきて。

か 辛い。とはいえ三姉妹も下になるほど、徐々に関係性が対等ぎみになっていくのはリアルだし、希望ですよね。

み 三女の家庭が一番面白いよね。中学生くらいの息子も、悪口言いながら、意外と新しいお母さんに従ってる。

か 三女のために夫が息子を殴ろうとしたら、三女が殴るなって怒ったのもよかった。あれは今どきな感じが。とにかく最後のカタルシスが最高で…。日本映画にあんまりないものとして、私は勝手ながらああいう感じを韓国映画に求めてるのではって思いました。

み お誕生日のシーン?

か うん。感情も行動も爆発につぐ爆発、のち伏線をまるっと回収、みたいな。

み すごい嫌々、お父さんの誕生日祝いに実家に行くんだよね。あそこでよかったのは、長女の娘だな。すごい反抗的だったのに、最後にお母さんシングルで病気で大変なのにって啖呵きったのはよかった。

か 最後父がテンパって頭ゴンゴン窓にぶつけて。父は悪い。その上で社会構造的にあの世代の男はああなってしまいがち、っていうのがあそこで描かれてる感じもありましたよねえ。

み そこはそんな意味あるシーンかな。だって弟が入院する時も、お姉ちゃんたちが付き添って子ども同士で助け合ってて、親も来てなかったし。

か ないか…。とりあえず、ゴンゴン父を見て、もう親はいいやって。揺り返しはあるだろうけど、みんな呪縛から逃れられた。

み 結局血縁の三姉妹が、結局は助け合っていきましょう、っていう話だなって。あとは、がんばりすぎるのはよくないってことかな、家族に関して。

か そうなのー?

み だって次女なんて完璧な家庭を作ってたつもりじゃない、男の子女の子生まれました、夫は大学教授、自分は教会の中でいいポジション、毎週礼拝のたびに献金して、幸せになるに決まってると思ってたのに、ちょっとしたことでガラガラ崩れる。

か おそらくあの家庭環境から相当がんばって大学へ行った、そんな人もそう思ってしまうのが闇ですよねえ。

み 家庭を作るのが当たり前、と思うんじゃない?そういうのが幸せだと。

か だけど、次女の子どもたちはもうこりごりってなる。呪縛を連鎖させない方向に、次女は変っていく…って信じたい。

***

三姉妹
監督 イ・スンウォン
製作年 2020年
製作国 韓国
上映時間 115分
http://www.zaziefilms.com/threesisters/

 

「ベタではあるけど、でも言ってあげるのが大事」
「是枝監督が初めて少し未来、進もうとした世界を描いていると思った」

み そして「ベイビー・ブローカー」。

か 是枝作品は「そして父になる」「三度目の殺人」あたりですごくいやになって、その気持ちを引きずって「万引き家族」を見たからすごい映画だなと思いながらも、なんかきらいってなって。でも「ベイビー・ブローカー」は好きだったし、作品ごとに進化してくのすごいって思いました。

み 「そして父になる」は冒頭でダメだったし、「三度目」はなんじゃこれってあんまり覚えてないけどマッチョだった。「ベイビー」は「そして父になる」で反省したことを入れたってあったけど、とてもよかった。韓国の錚々たる俳優を起用しててびっくりしたよ。

か 韓国制作で、韓国の俳優さんと撮ってるからあんないい感じになるのだろうか。日本で撮ったらどうだったんだろう、って考えちゃいました。

み 赤ちゃんポストに預けられる子の数も、韓国の方がずっと多いらしい。パンフレットに、日本では13年間に157人、韓国は10年間に1802人とある。堕胎に関する法律も違って、最近やっと中絶は違憲ではないっていう判決が出たんだよね。だから設定自体も、韓国の方が説得力があるのかも。

か そうなんですね。

み キリスト教が強いからそうなるのかもしれないし、それに目をつけたブローカーがいるっていうのもあるかもな、ていう。

か 俳優は、ソン・ガンホが出てるだけで、なんだろう、もうすごい。そしてIUもペ・ドゥナも、誰も彼もよくて。

み そう、誰も彼も。でも馴染みがある演出っていうか、セリフ回しとか日本ぽい。日本映画っぽいからより親しみがあるのかもって思うと、韓国の人は違和感あるんだろうなって思うよね。

か 「万引き家族」よりも余白を大事にしてる感じで、各自の解釈ができる幅が広そうなのが好きでした。あっちはもうちょっとカチッと作って、エンタメよりだった気がするけど。

み あっちはバラバラの人が集まって家族を作るっていうのがワンテーマだったから、わかりやすかった。こっちのほうが自由度が高いというか、人が変化していくのがいい。赤ちゃんはみんな大事にしてて、商売で高く売りたいって言ったけど、相手が気に食わないとやっぱダメ、そんなところには渡せないってなったり。

か 寓話的でありつつ感情描写が丹念、っていうバランスがいいのかなあ。各登場人物のことを徐々にわかっていったり、それぞれの変化を見られたり、いいですよね。

み こういう映画、求めてるか求めてないか、って言ったらやっぱり求めてるかもしれない(笑)。

か ですです。こういうの見たい。

み みんながみんなを大切に思って。最後の方で、一人一人に「生まれてきてくれてありがとう」って、ベタではあるけどでも言ってあげるのが大事、照れくさいけど。だから「アネット」も最後ニュアンスで伝えるよりは、言って伝えるのがよかった。最後に見たのが「ベイビー・ブローカー」だったから、わかりやすすぎるとはいえ、やるのは大事なんじゃないかなと思った。

か やっぱり肝のシーンは大事なのかー。あと、誰もがケアする存在っていうのがよかったな。今までの是枝監督のはどこかしらやだなってところがあったけど、ジェンダー描写的にもそんなにいやな感じがしなくて。すごく意識的に作られているんだろうなと思った。

み 女性刑事二人組の上司スジンは、これでホシあげてやる、手柄とってやる、現行犯で捕まえるぞみたいになってるけど、後輩のイ刑事は、女性青少年課なんだからまず母親を保護すべきでは、とかちょいちょい諌めてる。めちゃ正論を言わせてるのがいいなと思った。

か そういうとこでも安心する。

み スジンも、最初は逮捕しか考えてなかったのに、最後はみんなでこれからのことを考えましょうって。

か 海辺で子どもと夫らしき人と遊んでる時点で、これは上司夫妻が育てるって話なのって構えちゃったんですけど、でももっと開かれた家族をつくっていくって話でほっとしました。

み 最後ソン・ガンホ、サンミョンだけは行方がわからなくなってて。

か いろんな解釈ができるかもですが、車からソヨンらを見守って、誰にも会わないで去ったというのを推したいです。年配男性は次世代のため、害にならないよう去っていくっていう。「ドライブ・マイ・カー」だ。

み うん。え?どういうこと?

か 自分は表舞台から降りて、あとは若い女性に未来を託して去ってゆく、最後が「ドライブ・マイ・カー」っぽいじゃないですか。家福さんはどうでもいいけど、しかしサンミョンには幸せになって欲しいよ。

み ええ?全然違くない?

か えー、違うか。無理やりな解釈…。そういえば、是枝監督が初めて少し未来っていうか、進もうとした世界を描いているって思いました。「万引き家族」とかは今で辛い、その少し先を見たい、みたいな気持ちがあって。

み 「誰も知らない」もね。監督60歳か、アップデートしてるのはえらいよね。

か ほんとうですよねえ。頭のいい人はすごいなあ。恋愛にならなかったのもよかったし。共感や思いやりベースの世界の心地さよ。

み 恋愛でもないけど、スジン刑事の夫がちょっと出てくるよね。張り込みしてるところに差し入れ持ってきてくれるとか。

か 優しい夫。捨てるくらいなら生まなければいいってソヨンに言っちゃって、弱ったところ電話して。

み 「着替え持ってきてくれる?うそうそ」みたいな。

か 部下に「子どもができたら面倒見てくれそうでいいですね」って言われるような夫。でも想像するに、スジンは昔子どもを堕胎していて子どもができないのかな。親になることを考えていないか諦めていた人が、出会いによって変化していって、子どもを預かることにした。

み それもファンタジーかもしれないけど、犯人の子を預かるなんてできるのか。

か どういう仕組みなんですかねえ。

み 保健所とかそういうところに普通はいくよね? ……でももしかしたら、結婚してるし、しっかりした職業についてるから養子縁組できたりして?

か そうかも、するとなんとかありうる感じなのかなあ。

み 子どもが欲しいのが前提、というのからもまた違うというのもいい。

か いろんな状況や考えの人がいて、関わってゆく中での変化、連帯が生まれてく感じが豊か。

み 弱くて小さい赤ちゃんを見ると、育てなきゃ、俺らががんばらなきゃってなるのがいい。

か 血縁じゃない、子どもはみんなで育てるんだってメッセージがー。

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ベイビー・ブローカー
監督 是枝裕和
製作年 2022年
製作国 韓国
上映時間 130分
https://gaga.ne.jp/babybroker/

 

み=宮川真紀(タバブックス)

好きなジャンルは、SF、ファンンタジー、社会派ドラマ。二人続けてコロナ罹患で大幅に遅れました。療養期間中映画たくさん見れるな〜と思いつつ1日1本がやっと。ただの風邪、ではやっぱりないですね。ドラマ「パチンコ」「ペーパー・ハウス・コリア」の新シーズンが早く見たい。

か=かとうちあき(野宿野郎)

苦手なジャンルはホラー、アクション。「アネット」でキネマ旬報シアター初体験、ビールの豊富さに心躍りました。次は見逃した「ドンバス」を観に、あつぎのえいがかんkikiへ行ってみたい。コロナ療養期間はまったく映画観られず、バッチェロレッテを眺めていました……。

 

 

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