やっぱり映画なんだけれども

たかが映画なんだけれども 第1回「たかが世界の終わり」 

(2017/5/7)

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 そこそこの映画好きだけれど観たいものがことごとく違う、同じものを観ても感想がまるで違う。そんな友だちっていませんか? 『今日も盆踊り』著者で「野宿野郎」編集長かとうちあきと、タバブックス宮川が、それです。

そうはいっても面白いと言われれば観たくなり、観たら語らずにはいられない、なんなら本気で怒ったり考え込んだりしてしまう。誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談がこちらです。

か=かとうちあき(野宿野郎)
み=宮川真紀(タバブックス)

 

第1回  たかが世界の終わり

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パンフレットがまっくろ

 

 

 「家族が好きすぎるよね」
「そう。その前提がありすぎてつらい」

 み これはかとうのおすすめ。なんで観たかったの?

か グザビエ・ドラン監督がやばい、すごいなっていうのがずっとあって。10代のときに1作目とったんですよね。「わたしはロランス」もよかったし、「胸騒ぎの恋人」は三角関係で小洒落ててただ好きだった。「トム・アット・ザ・ハート」はサスペンス風でこれはきっと宮川さん好きだと思う。「マミー」はすごいよかった。

み すごい追ってる……

か だからこの人は私なんだかんだ好きなんだなって、選んだんです。でも……感想としては疲れた

み 家族ってこういうものかな、1回くらいこういう体験したな、ってかんじ。親戚の集まりで誰かがもういい!って帰って、気まずいみたいな。

か 主人公ルイが余命わずかっていうのがあってそれがテーマなのかなと思ったら、やっぱり家族のことが。

み 自分のことより、そっちの方が大変だって。

か お兄ちゃんよかったですよね。この人、この役を選んでやったならえらいなって。

み 確かに、怪演だよね。何を言っても悪くとる。でもそういう人はいるよね。

か 最初お母さんが毒母的な描かれ方してたけど、中盤いきなりあれ?ってなる。

み 回想シーンで、日曜日に家族みんなで出かけるシーンがあるんだけど、お父さんがマッチョで裸で坊主なんだよね。それって幸福な感じしないんだけど。

か どのシーンも若干の不穏さはありますよね。

み 誰かに肩入れして見ないとつらいよね。監督がものすごく好きとか、俳優が好きとか。

か でもあれ、誰にも肩入れできないですよね。わたしは家族ものって、うまく行くのを見ると「そんなにうまくいくかよ」って思ってつらいから、あれくらいうまくいかない方がよかった。しかも誰にも言い分があり、この人だけのせいっていうのもない。

み 家族が好きすぎるよね。

か そう。その前提がありすぎてつらい。

み どういう人が見たらいいんだろうね。家族問題で困ってる人とか。

か 誰かに共感できたらいいんですかね。

み 家族あんな仲悪そうなのに、結局一緒にいるよね。あの妹もたぶん20代? お母さんと罵倒し合いながらも楽しくやってる。あの「素敵な日曜日」がよかったのかな。週に1度家族全員で楽しい時間をすごすっていうのがあまりにもいい思い出すぎて、そこから離れられない。

か 「素敵な日曜日」が、上の息子二人が集まらなくなったからつまらなくなったってお母さんが言うのが、下の女の子がかわいそうすぎる。

み すごい正直だよね、あのお母さん。お母さん年代の人は見ない方がいいかも……いや、うちは違うわって思うかな。

 

「娘が出て行ったという設定には絶対ならないと思って腹立った」
「成功して12年後に帰ってきた娘を、家族がああやって迎えるか」

み タイトルの「たかが世界の終わり」って、自分が死んじゃうから?

か 「たかが」がついてるから、そういうことより、分かり合えない方がつらい、ってことでは。

み なるほど。確かにね。

か でもわたしは、分かり合えなくてもいいから長生きしたいなーって思った。他の人とわかり合えばいいじゃんって。

み 12年離れてたんでしょ。それは無理だよ。ルイが34歳、てことはお兄ちゃん40歳くらいでしょ。それで活発なお母さんと、反抗的な妹と、うまくやろうっていうのが難しいよね。

か お兄ちゃんだって本当は出て行きたかっただろうにそこで働いて。なのに「町が好きなんだよね」って弟に言われてカチーンて。

み 俺のことバカにしてんだろう!って。

か そうだ。怒れ怒れ。

み まあそこで発散して、それも含めて描いてるのかもしれないけど、わざわざ見なくてもいいかなって。リアルすぎる、っていうかリアルのみだから。

か あれ設定が娘が出て行ったとか絶対ならないですよね。女の人が帰ってくるって話は今作れないと思って腹立った。

み あー、娘が出て行って成功して12年たって帰ってきて、家族がああやって迎えるか。

か あんなふうに迎えられないし、12年間もあんなに思ってくれているはずがない! だからもう死んじゃうかもしれないけど、あんなに迎え入れられてるんだからくよくよするなよって思った。娘じゃありえない。妹も早く出ていけばいいのに。

み それでも離れられないんだよ。もっとお母さんの愛情欲しいって感じだったよね。

か あっ、この作品カンヌ国際映画祭グランプリを獲得してますよ! ほらー私の選ぶ目をみてください!

み ええーっ。家族の孤独さとかが評価されてかなあ。

か ミスコミュニケーションとかですよ。普遍性ですかね。

み まあ全国、全世界、現代社会にはあるよね、と。家族のミスコミュニケーション。なんかさー、企画書みたいな感じがしちゃうんだよね。

か これは賞をとりに行った作品かも。

み まあお兄ちゃんをあそこまで悪く書くって、なかなかできないよね。最後はほろっとさせたりしそうだけどまったくないし。

か よくやってくれたって。大事なのはそこですよ。

み ああいう人いるもんね。

か 自分だってなるかもしれないし。地続きだ。

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作品データ

「たかが世界の終わり」(原題 Juste la fin du monde)
監督 グザビエ・ドラン
製作年 2016年
製作国 カナダ・フランス合作
配給 ギャガ

 「もうすぐ死ぬ」と家族に伝えるために、12年ぶりに帰郷する人気作家のルイ。母のマルティーヌは息子の好きだった料理を用意し、幼い頃に別れた兄を覚えていない妹のシュザンヌは慣れないオシャレをして待っていた。浮足立つ二人と違って、素っ気なく迎える兄のアントワーヌ、彼の妻のカトリーヌはルイとは初対面だ。オードブルにメインと、まるでルイが何かを告白するのを恐れるかのように、ひたすら続く意味のない会話。戸惑いながらも、デザートの頃には打ち明けようと決意するルイ。だが、過熱していく兄の激しい言葉が頂点に達した時、それぞれが隠していた思わぬ感情がほとばしる――――。(公式サイトより)
http://gaga.ne.jp/sekainoowari-xdolan/

 

かとうちあき(野宿野郎)
苦手なジャンルは、ホラー、アクション(っていうんですか? やたら動きが速くて、ドンパチして、心臓に悪いやつ)。最近一番興奮したのは「お嬢さん」

宮川真紀(タバブックス) 
好きなジャンルは、ホラー、SF、社会派ドラマ。最近のベストは「ロブスター」

 

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