やっぱり映画なんだけれども

たかが映画なんだけれども 第31回 ペトルーニャに祝福を 

(2021/8/4)

takaga_bnr


誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第31回は「ペトルーニャに祝福を」。男だけの祭りに飛び込んで、幸せの十字架をとった女性をめぐる大騒動、って聞いただけでおもしろそう。それぞれ別にみて、お互い文句を言いそう、と思ったという!それはどこでしょうか!でも話してみると楽しい、つまりいい映画でした!

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なんとなく派手めにしてみました、祝福なので

<STORY>

32歳のペトルーニャは、美人でもなく、体型は太目、恋人もいない。大学で学んだのに仕事はウェイトレスのバイトだけ。主義を曲げて臨んだ面接でもセクハラに遭った上に不採用となった帰り道に、地元の伝統儀式“十字架投げ”に出くわす。それは、司祭が川に投げ入れた十字架を男たちが追いかけ、手に入れた者には幸せが訪れると伝えられる祭りだ。ペトルーニャは思わず川に飛び込むと、その“幸せの十字架”を手にするが「女が取るのは禁止だ!」と男たちから猛反発を受け、さらには教会や警察を巻き込んでの大騒動に発展していく・・・(公式サイトより)

 

「男だけの神事に飛び込んで、十字架を取る…コメディっぽいのかなと」
「日本の祭りと同じような構造というか精神状態」

み:タイトルからして「ペトルーニャに祝福を」だし、男だけの神事をやってるところに川に飛び込んで、十字架を取る…ちょっとコメディっぽいのかなと思ったんだよね。マケドニアのことがわからないけど、地域的にまあまあオール白人じゃない?

か:うんうん。

み:途中で取られちゃった男たちが裸でタトゥーとかして。悪そうな兄ちゃん。

か:フーリガンぽかった。

み:そう、まさにサッカーにうおおーってなるのしか思い浮かばず、ずーっとその目で見てた。「祭りは男じゃ〜」みたいな、そういう感じ。笑

か:そう!あそこまで??っていう…。かなり戯画化してるんだろうか。なんかベタ感がすごかったですよね。十字架を取るという祝祭的な日だから、日本の祭りとも同じような構造というか精神状態になるってことですかねえ。

み:男だけで裸で、禊を受けるみたいな。川に入って、神父様が十字架投げるのを、本当は敬虔な気持ちで待たなきゃいけないんだろうけど、「早く投げろ!」って、ウェーイ状態。ヤンキーだよね。

か:寒いからうぇーいってならないと入れないっていうのもあるんでしょうね。

み:日本でもよく裸で水に入る行事あるね。あれもなんか祭り事っぽいよね。

か:あれもかなりテンション上げてるんだろうなあ。

み:フーリガン的な男の世界で、うぇーい!ってイっちゃってるから何言っても通じないみたいな。逆にペトルーニャが、捕らえられてからすごい冷静になってた。前半はあんまり融通きかないなっていう印象を受けたんだけど。まあ就職難で女性が職につけなくて、母との確執もあり、とか。

か:どんどん聡明さが表に出てきて、なんかいいですよね。

み:嫌々ながらも母の言うままに面接受けにいって、セクハラ受けて。チッてなったところにあの祭りに行き当たり「私がとったのよ!絶対渡さない!」って意固地っぽさみたいなのは、最初あった。

か:それはずっと、あったような。

み:まあずっとか。32歳で、自信もおそらくそんなにない感じで、ちょっと意固地になってるみたいな。だけど警察に連行されて「これはどういう状態なの?勾留される理由は何?」みたいに冷静になっていくのに、警察とか神父さんとかがモゴモゴ…タジタジ…みたいな。あそこから段々面白くなってきた。

か:たしかに。わりと最初のしみったれた感じも好きでしたけど。

「私は十字架なんていらない、私はもう恋したから…」
「自分が戦ってこれを手にしたっていうのが大きいんじゃないの?」

か:最初みて思ったのが、これ絶対宮川さんが甘えんなよって言うパターンの映画じゃないかって(笑)

み:甘えんなよとは思わないけども!(笑)母娘関係みたいなのも…。

か:難儀ですよね。

み:うん。面接で「25歳って言うのよ」って。

か:母もベタにひどいからな〜。

み:娘に向かって「ケダモノ〜!!」って(笑)

か:なんか逐一そういう台詞が。そんなこと言う?みたいな。

み:面会に行った後もさ、「そのジャケット何?似合わないわよ、あなたに」って(笑)

か:でもやっぱり面会に行くのはお母さんっていうね。

み:お父さんは体が悪いんでしょ?だからお母さんが「あの子のことはなんでも私がやらなきゃ」ってキリキリなんじゃない?

か:そうか。世代も違うしなあ。あの場所で生きてきて母がああなっているっていう。それもちゃんとわかるように描かれているからいいんだけど、やっぱり切ない気持ち。

み:テレビが来て両親がインタビューさせられたら、お父さんが「娘を信じたい、何にも悪いことはしていない」って言ったから、お母さんはチラチラ見て「そうです」みたいな。本当は何か言いたかったけど、お父さんが言うから、そう言うしかないっていう。

か:うん、あれはもうそう言うしかない。

み:あの後面会行って、お父さんの「信じてる」って言葉を伝えてあげたらいいのに、「そのジャケット何」って(笑)あれは男のを着てるって感じたのかな。警察官のでしょ?

か:そうですね。警察官からもらったやつですもんね。そういう非難なのかなあ。ダサくはあって、どっちかわからなかった。

み:それで、ちょっといい感じになって最後ルンルンって感じで帰っていくから、そこがかとうさんが好きかどうかだと思った。

か:見る前に私、宮川さんに「ちょっとラストが」って言われていたので、もしや恋愛メインなのかってはらはら見てたんです。それでまあ、あの中では一番マシな男の人と中盤ぐらいでこれは恋かってなるじゃないですか。あれがすごい盛り上がっちゃってチッて思うのかな、って思ったんですけど。それもほどほどに抑えられて「また連絡するよ」ってなって、じゃあ違うのか良かった良かったと思ったんですけど。

み:そうなんだ。でもあそこで完璧に吹っ切れたよね彼女は。もうフーリガンとか神父とか関係ない、私は十字架なんていらないって。これを持ってたら1年間幸せになるっていうのを返した、私はもう恋したから…

か:えっ、恋で?恋でとは思わなかった。

み:恋じゃん!あれは恋でしょ、完璧に。

か:え〜、じゃあイヤだ〜。私はそこまで、「連絡するね」「うん」くらいだったから…。他の意味もあるんじゃないですか?自分が戦ってこれを手にしたっていうのが大きいんじゃないの。私はそっちとしてとった。もし自分だったら帰り道の川とかにポイって捨てて、わざわざ返さないぞって思ったんですけど。でも神父に返して「私はいらないけど、あなた達はいるでしょ」って言うのは物語的に対比で強いし、大事だなって。

み:あんたたちかわいそうねっていうね。

か:うん。しかし恋なのー?

み:私は恋だと思ったけど、パンフレット見たらこの監督はフェミニズム映画ですってあったから。

か:でもやっぱり恋要素はわりとあったかもしれないなあ。

み:彼女の演技が上手だからかもしれないけど、明らかに恋してる。最初は高学歴女子だけどうまくいかず、不倫してる友達をバカにするみたいな、ひねくれてる感じだったけど、途中からすごいラブな感じになって、ウキウキさが伝わってくるというか。それがきっかけになって前向きになったんであれば。

か:う〜ん、でもね。そこが前向きポイントじゃないと思うんだけど、どうなんだろう。そう言われたら考えちゃう。私はこれ以上そっちばっかになったらどうしようって目で見てたから…

み:恋が?

か:そう。なんとか抑えられた、よかったーって気持ちが強くて。

 

「年上のバリバリ働く人が助けるって言っても、あの状態なら「いらない」って」
「私が全部やるわってわーわーしたら嘘っぽくなる」

か:あの二人が心情を吐露して共感しあえたっていう、恋愛だけじゃない喜びみたいなものもあるじゃないですか。それはできれば女同士でやってほしいけど、そこはしょうがないかなと思った。

み:取材してた女性キャスターがどうなるのかなとは思ったけど。彼女は彼女で、保育園のお迎えに夫が行かないとか、上司が理解ないとか色々抱えるものがあった。カメラマンが撤退すると言ったら「カメラ貸して!」とかかっこよかったけど。

か:でもおせっかいという風にも捉えられるところもあって、ちゃんと謝ったりもする。あそこでもっと連帯ができないのかって気持ちにもなるけど、今回のことを経たペトルーニャだったら、次はもう少しわかりあえるか可能性を感じる気もする。

み:うん。

か:年上のバリバリ働いていてぐいぐいくるような人が助けるって言っても、あの状態だったら「いらない」ってなりますよね、きっと。

み:「私が全部やるわ」ってわーわーしたら嘘っぽくなるし。

か:あそこで拒絶されるっていうのがいいですしね。

み:子どもを迎え行けたのかがすごい心配だったんだけど。電話してるのは夫か保育園でしょ?

か:元夫?

み:元なの?「いっつも私なのに!」とか「すみません遅れます」とか何回も出てくる。

か:離婚して共同親権で育ててると勝手に思い込んでたんですが、現夫か!

み:知らないけど、子供を迎えに行かなきゃいけないっていう大命題を…

か:しかも頼んでたのに!そして電話が来るのはいつもこっち!みたいな。

み:そう、そこだよそこ!あの時点でかなり夜遅いよ大丈夫なのってそれが心配だった。

 

「セクハラも我慢しなきゃだめかも、みたいな状況で」
「すぐに後悔してそこから戦うぜ!ってなるのがしっくりくる」

か:あれ一日の話ですから、すごいですよね。後で考えたんですけど、最初に面接でセクハラ受けるじゃないですか?

み:はいはい。

か:あの時にされてもさ、どうしようみたいな。え、受け入れちゃうの?ぐらいな感じだった人が、どうして連行された後、こんなに急激に強くなれるんだろうって気にちょっとなりつつ見てたんですけど、でも考えると、あそこでの痛恨みたいなのがあるから燃え上がるっていうか。

み:そうだね。爆発したんじゃない?あそこでは、なんならセクハラも我慢しなきゃだめかも、みたいな状況で。

か:そう。後で考えると説得力があるなあって。別の時なら突っぱねられるのに、あの時は我慢しちゃったっていう。そしてすぐに後悔して。そういうこと、あるよなって。それでそこから、戦うぜ!ってなるのがしっくりくる気がしてきました。あと、ペトルーニャが十字架をとったのを男たちが取りあげようとしたら、神父さんが「いや、それはあの人がとったんだ。返せ。」っていうじゃないですか。とっさには正義に準じるのに、よくよく考えたら今まで男だけだったから、とか揺れるところが面白くて。なんかダメ人間として描かれてて、それで最後に渡されてハッてなるわけだけど、それで何かがもしかしたら変わるのかなと思っちゃうんですけど、それは甘いのか。

み:神父が、変わるかってこと?

か:はい。なんか変わるのかなとか思っちゃうんだけど、その認識というか、映画の見方は甘いのだろうか。

み:まぁ、でも最後みんなすごい楽観的になっていくから、もしかしたら変わるかも。ちょっとキョトンとしてたよね、神父も。

か:してました。神父として祈りと共に渡したのに返されたっていう描写で、希望を感じてしまうというか。

み:あの神父さんはそんなに深く考えず教義に沿ってやってるだけで。「女だからいけないんですか?」に対して「えーわかんない。教義がそうだったから。」みたいな。

か:最初は「あの人がとったから」で。

み:「あ、でも女だからだめなのか。わかんない、わかんない!」みたいな。

か:ついあの人がわりといい人と思ってみてしまうのは、自分が甘いのかな~。

み:まぁ、わかんないね。あの時は、そうかもしれないと思ってるけど、翌日フーリガンにワーと言われたら、やっぱそうだよなってなるかも。でも返されたから一応もらっとこう、ってことかもしれないし。

か:たしかに。いい人だけど、どうしようもない。

み:でもパンフレット見たら、翌年女性が取ったって書いてあったね。リアルで。

かとう:やった! でも最初に取った人はロンドンに移住したってありましたね。

み:ロンドンに行った方がいいよ。最初に改革しようとする人はどこでもバッシング受けるし、それが嫌で別の国行くのは全然いいよね。前回の「SNS」のあの子たちだって、もしバッシング受けたら別のとこ行って女優やったらいいし、別の人生過ごしていんじゃない?

か:ただ別の所にいけるという事が、ある程度の金銭や文化の資本がないとむつかしそうだから、ペトルーニャの実在の人がちゃんとロンドンに行けたというのが本当によかった。

み:そうだよね。

か:いやなのにいなきゃいけなかったら、ほんとに悲しい。

ぺとるーにゃ
イラスト・か

 

ペトルーニャに祝福を

原題 Gospod postoi, imeto i’ e Petrunija
監督 テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ
製作年 2019年
製作国 北マケドニア・ベルギー・スロベニア・クロアチア・フランス合作
上映時間 100分
https://petrunya-movie.com

か=かとうちあき(野宿野郎) 
苦手なジャンルは、ホラー、アクション。映画館に逃避したい今日この頃…。一缶持ってゆくことを習慣にしていた地元の映画館のHPに「酒禁止」と書かれていることに気づいてしまい、しょんぼりしています。

み=宮川真紀(タバブックス) 
好きなジャンルは、SF、ファンンタジー、社会派ドラマ。いろいろ嫌すぎて頭がはたらかないけど「東京オリンピック2017都営霞ヶ丘アパート」みてもっとモヤモヤするか…と思ったけど先に「プロミシング・ヤング・ウーマン」みてガーーっとなった誕生日でした!

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