やっぱり映画なんだけれども

たかが映画なんだけれども 第18回「ブラック・クランズマン」 

(2019/5/21)

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誰にも頼まれてないけど熱く話し合う映画対談、第18回は「ブラック・クランズマン」。前回の「女王陛下のお気に入り」がアカデミー賞でことごとく負けた「グリーンブック」を取り上げようかと話し始めたもののちょっといろいろ引っかかっていたところで同じく黒人差別がテーマのこの作品が公開されて、観たら即こちらに決定。なぜモヤモヤしていたのかも整理できた、わりとまじめ回(かな?)。

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黒い星条旗…

STORY
1970年代半ば、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署でロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は初の黒人刑事として採用される。署内の白人刑事から冷遇されるも捜査に燃えるロンは、情報部に配属されると、新聞広告に掲載されていた過激な白人至上主義団体KKK<クー・クラックス・クラン>のメンバー募集に電話をかけた。自ら黒人でありながら電話で徹底的に黒人差別発言を繰り返し、入会の面接まで進んでしまう。騒然とする所内の一同が思うことはひとつ。KKKに黒人がどうやって会うんだ?そこで同僚の白人刑事フリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)に白羽の矢が立つ。電話はロン、KKKとの直接対面はフリップが担当し、二人で一人の人物を演じることに。任務は過激派団体KKKの内部調査と行動を見張ること。果たして、型破りな刑事コンビは大胆不敵な潜入捜査を成し遂げることができるのか―!?(公式サイトより)

 

「グリーンブック」はよくできた映画だっていうので見終わった後ずっとモヤモヤしていて
俺はいいものを見た、みたいな

か 私「ブラック・クランズマン」を観終わって一番宮川さんにお伝えしたいって思ったのは、もしこっちが先で後に「グリーンブック」を見たら、ソッコーでダメだろうって思ったなってことです。あんな悩んだりせずに。

み そうだよね、泣いたし。

か 感動シーンもあるし、いいセリフもあるし。「グリーンブック」はよくできた映画だっていうので見終わった後ずっとモヤモヤしていて。いま受け入れられる差別とか描いた大作って、これがせいいっぱいなのかなとか。

み それずっと言ってるね!

か そうなんですよー。アメリカではどう思われてるのかってのもわからないし、ずっとモヤモヤしてた。ただ気持ちよくなって終わりそうで嫌だなとか。

み あれを見たときに、俺はいいものを見た、みたいな。

か 私「この世界の片隅に」がとてもいい映画だったのにずっと引っかかってて、あれと似てる構造だと思ったんですよ。

み ん?

か 消費しやすい作りになっているというか。「この世界の片隅に」では、庶民が日常を大切に生きるみたいなメッセージをかなり強く打ち出していて、原作の漫画にある批判的な視点が薄くなってて。「グリーンブック」もそうなんじゃないのかなって。すごいいい映画の「この世界」ですら引っかかってた人間は、「グリーンブック」をよしとしてはいけないのではないかと思った。

み あー、確かに。

か 庶民から見た戦争や差別の歴史を描いたり残すことって大事だと思うけど、でも見る側がちゃんと受け止めないと、意外と現状維持のプロパガンダになっちゃうというところもあるんじゃないかって気がして、ちょっと弱いんじゃないかって。とかもやもやしていたところ、ギリギリの線はここじゃねえだろ、もっとできるんじゃん、て「ブラック・クランズマン」を見て思った。

み 「ブラック・クランズマン」もアカデミー賞候補にいっぱいあがってたけど「グリーンブック」が総ナメで、スパイク・リーが怒って帰っちゃったんだってね。

か アカデミー賞の限界ってことなんですかねえ。でもカンヌではグランプリとったんですよね。

 

緊迫する題材だけでやってもいいんだろうけど、ムダっぽく見えるシーンがいい
善悪の構造はわかりやすんだけど、誰もがどこか憎めない 

み 私スパイク・リー好きで、最初の方はもうどハマりしてた。この黒人刑事役の人は「マルコムX」のデンゼル・ワシントンの息子なんだよね。

か そうなんだ! 私は「マルコムX」とオムニバスの「10ミニッツ」くらいしか見てなくて、もっと見とけばよかったと思いました。

み 初期の頃のはみんなすごいよかった。「ドゥ・ザ・ライト・シング」はブルックリン舞台で黒人だけじゃなくてイタリア系、韓国系とかいろんな人種が出てきて、だから「グリーンブック」と比較されたりしてたよね。でもそんな単純じゃない、みんなちょっとずつ差別意識があって、救いがない。音楽もかっこいいし、新鮮だった。途中から日本公開もあんまりされなくなって最近知らなかったけど、でも久々に見て、やっぱいいなー好きだなって思った。ちょっとしたところ、例えば運動家の彼女、パトリスとのバーでのダンスシーンとか、そんな長々いらないじゃない。

か そうですか? そんな長く感じなかったけど。

み ずっと音楽流れて、踊ってて、だからこっちもちょっとクラブに行ってるような、気だるい感じになるのとかいいんだよねー。あと付き合ってから公園を散歩するシーンで、映画の話とかずーっとだらだら喋ってたり。潜入捜査の話なんだから、もっと緊迫する題材だけでやってもいいんだろうけど、結構ムダっぽく見えるシーンが入っててそれもいい。それも実は当時社会を反映してたりするんだけどね。

か 緩急なんですかね。

み KKK団の方も、男どもがいつも家に集まってくだらないことしゃべってたり。いちばん嫌な奴の奥さんとのやりとりとか、そこまでいらないかなみたいのが、キャラクターをよく表してる。

か そっか、あの誰も彼も人間くさいっていうの、そういうとこから現れてくるのかな。

み ムダ話とかから、ああそういう感じか、って。

か それをどっち側にも入れてるからいいんでしょうね。善悪の構造はわかりやすんだけど、誰もがどこか憎めないっていうか、これは自分だったかもしれないって。

み KKKも?

か KKKだとしても、あのトンマなところ自分もある、とか。そういうちょっとしたところで、他人ごとにはできない感じがする。

み 仲間うちで誰がリーダーになるとか、その辺の争いもおもしろいよね。あとKKKの幹部デュークが、トランプ的なものとして描かれてる。トランプの口癖「アメリカ・ファースト」って言ってて、あれどっかで聞いたことあるぞって。と思わせておいて、最後に現実の、白人至上主義者が反対デモに車で突っ込むシーン。

か やっぱりあれがあるのが、終わらない話として地続き感がある。

み 最後、白人じゃありませんでしたってどんでん返しとか、予算がなくなったから捜査チームは解散だ、とかそこで終わっても映画としたらありっちゃありだよね。でもあえて最後実写映像を入れて。

か しかも結構長かったですよね。あれ多分誰かがスマホとかで撮った映像とかも使われてますよね。

み 映像が生々しい。それまでフィルム、かわかんないけど映画っぽい映像だったのが、急に画像が鮮明になって。KKKのリーダーも出てきて、昔と同じようなことをしゃべってる。「グリーンブック」も最後にその後の二人の実際の写真が出てくるけど、熱い友情で結ばれていたって話で終わってるのとは、すごい違う。

 
こういう題材のものを撮る時にちゃんと怒りが込められてないのは好きじゃないと
結局個人の問題にしちゃうと、怒りでは納められない

か 私は個人的な好みとしても、こういう題材のものを撮る時にちゃんと怒りが込められてないのは好きじゃないんだと思った。ユーモアとか笑いで表現してても、根底にあるのがいいなあって。

み どうなんだろうね。「グリーンブック」絶賛してる人周りでも結構多くて。

か あれには怒りはないですよねえ?

み ないない。映画はなんでも現実を反映してるし、社会問題を描いてないものはないんだけどね。

か 社会問題をストーリーにからめて、いい映画にしようって撮るのと、社会問題とかに怒りを持ちつついい作品をつくろうっていうのは、違うんだと思った。うまくいえないけど。

み 撮ってる人がどういう視点かってことだよね。

か そうか、視点かあ。怒りを込めつつ、すごいおもしろくも撮れるんだって。

み 「グリーンブック」は、原作もいい話っていうもので出来上がってるんじゃないかな。もちろん人種差別はあるけど、それを乗り越えた友情がテーマなんだよね。「ブラック・クランズマン」だって同じようにバディものといえば言えるけど、友情の話ではない。わかり合っていくところもあるけど、仕事としてやっている。

か でも、お互いをおもんばかる、友達になるわけじゃないんだけど、お互いの生きている状況を体感して、少し理解を深め合うみたいなところは描かれてますよね。でも「グリーンブック」はその辺は微妙に曖昧な感じがしちゃって。

み 結局個人の問題にしちゃうと、怒りでは納められない。「ブラック・クランズマン」は、社会問題として最後着地した。それが一番違うんじゃない。

か 怒りがないから個人の話になるとかじゃなくて?

み そもそも最初から怒りはなくて、イタリア人と黒人のマイノリティ同士の、マイノリティでもちょっと差がある、しかも白人と黒人の逆転の友情の話。

か 「グリーンブック」は、安心して見られる、そういう設定がうますぎるから腹が立つんだよなー。

み これシネクイントで両方やってたんだよね。両方見た人いるかなー、どう思うだろう。

か でも「ブラック・クランズマン」はドタバタコメディとしても楽しめるし。

み おもしろいよね。騙してるのも緊張しつつ笑えるし、しかもアダム・ドライバーが出るだけでちょっとおかしくて。

か あの人いつもおかしいですよねえ、「パターソン」でも微妙な空気持ってて。

み なんかやらかすんじゃないかとか。途中からユダヤ人だっていうことを自覚していく過程があるけど、実際ではその描写はなかったんだって。いろんな人種の力を結集したら強いんじゃないか、って書いていたら、スパイク・リーがユダヤ人設定でやったからすごい、って原作者のインタビューにのってた。

か すごい、いい改変! 自覚してゆく過程、けっこう肝だった気が。

み 後半の方の、黒人活動家たちが老人に昔あったリンチ事件の話を聞くシーンと、KKKの入団式が交互に流れて、もう…上手い…

か これでアカデミー賞とかもっと撮ってたら話題になったのかなー。

み でも前回「女王陛下」で、今回これで。

か 逃したものばっかりじゃないですか!

み 「グリーンブック」にしてやられたものばっかりやってる。これはさ、全世界が求めてるの?

か いやー、賛否分かれてるんじゃないですか。

み んー、否は知らない。でも映画をたまに見に行って、感動したみたいに思うんだったら、そんなに難しいこと考えなくてもいいのかもしれないけど。娯楽映画なんていっぱいあるし。

か でもだったら「グリーンブック」見ないで、「ラ・ラ・ランド」みたいなのを見てきゃーって浸ってればいい気がしてきた! そのほうが楽しいし。ちょっとリベラルぶってる映画だと、なんかモヤモヤするんですかねえ。

み そっか。じゃあ私たちは何を見ればいいんでしょうか。次何を見ればいいのか…

 kkk
イラスト・か

ブラック・クランズマン
監督  スパイク・リー
製作年 2018年
製作国 アメリカ
上映時間 135分
https://bkm-movie.jp

み=宮川真紀(タバブックス) 好きなジャンルは、ホラー、SF、社会派ドラマ。「ビリーブ」観たので次は「RBG」。Netflixの「ROMA」で泣いた…ネトフリだけでいいっていうのもわかる気がしたり…

か=かとうちあき(野宿野郎) 苦手なジャンルは、ホラー、アクション。「岬の兄妹」がよかったですー! 近ごろは観たい映画が横浜までやってくるのをじっと待っています…。金欠…。

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