番外編 イ・ミンギョンさん講演会「韓国フェミニズムの〈いま〉」(後編)
(2024/12/2)
『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』著者、イ・ミンギョンさん来日講義録、後編です。
講義前半終了後、参加者からたくさんの質問ペーパーが提出され、休憩時間にそれらに目を通してから後半が始まりました。「なぜ言語や通訳を専攻したのか」「フェミニズムの話をすることに不安はなかったか」「フェミニズム運動を続けることの難しさは」など、多くの質問に応答しながら今ミンギョンさんが力を入れている女性への支援事業についてお話しいただきました。韓国フェミニズムが盛り上がった頃から現在の活動へ、その核になっている「ことば」の重要性が伝わってくるお話です。
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いろんな質問を残してくださってありがとうございます。
このあとは、質問に答えながら、今自分がどういう活動をしているのか、話をしていきたいと思います。私は、コロナの後に2つ目の会社を設立しました。会社の名前は「ゲリラ」*といいます。
*株式会社ゲリラは、女性たちの経済共同体を目標にして、女性たちが単なる消費者から生産者側に回ることを支えるための能力向上を進める。現在は、言語学院部門、食品部門があり、長期的には学校設立を目標としている。
■韓国の女性に外国語を勉強したいという考えが広がっている
ある方が「なぜこの通訳士さんはフランス語を勉強しているのか」という質問をしてくださったんですが。実はこの人は通訳士ではないんです。生まれて初めて通訳をやっています。今大学でデザインを勉強している学生です。
この学生がなぜフランス語を勉強しているのか、その理由の一つとして、今韓国ではいろんな女性が外国語を勉強したいという、考えが強く広がっている状況があります。
今の韓国の女性たちはとても賢くて、自分のキャリアについてすごく慎重で、自分の仕事、人生を、自分が望む通りに作っていきたいっていう考えがすごく強い。でも家父長制の社会の中で、女性たちには支援も少ないし、自分を応援してる人もあまり多くない、その状況のなかで、自分を最大限に成長させることが難しい状況です。
この学生も、日本語をすごく学びたいと思ってるけど、どこで学んだらいいのかよくわからなくて、家で1人でニュースを見ながら、独り言でしゃべったりしながら独学で勉強しているそうです。
1人で勉強することだけで、一つの言語を上級まで成長させるのはすごく難しいことで、私の考えでは、こうやって現場で、言語を話すことを通してこそ、言語の能力を増やせることができる。私は初めての本の中で、自分はフェミニズムを独学したと書きました。もちろん1人で、自分が何を勉強したいかを探して、自立して勉強するのはすごくいいことだと思うんですけど、独学は全ての問題を解決させる方法はないと私は思っています。
私は、女性たちが何かを学びたいと考えるのはすごく理解していて、でもなぜ新しいことを学ぶのが女性にとって難しいのか、その理由もわかってます。多くのお金が必要だったり、周りに「新しく学んでも無駄だ」と言われたりする状況が多いので、新しい学習のプロセスの中で限界になっている状況があります。
そういう問題を変えたいという気持ちがすごく強かったし、私の本を今まで読んでくれた読者さんも、私がこういった目標を持って会社を設立するときに、その目標に強く共感してくれて、私が今展開しているプログラムに参加しています。
フェミニズムのブームが下がっていた状況で、フェミニストの仲間を探したいと思っている女性の方が、フランス語がいますぐ必要なわけじゃなくても、一緒に勉強する中で、フェミニストの友達を探すために、私の会社、私がやっているプログラムに集まったことになりました。
■フェミニストとして自分の声を出すのがどれだけ大事なことか
多くの質問で「フェミニストとして話をすることが怖かったり不安だったり、それに対して攻撃されてないか」というものがありました。
もちろん韓国の社会の中でもフェミニストやフェミニズムについて話をする人を攻撃することはありました。私もそういった不安があったんですけど、私が声を出すようになった後は自分が言いたいことを素直に言えるようになったと思っています。
江南駅殺人事件は、韓国社会の中で衝撃だった事件だったので、前とは違ってフェミニストとして自分の声を出すのがどれだけ大事なことなのかを改めて気づいて、その後は、自分の言語をどうやって作っていくべきなのか、それにすごく多くの時間を投資することになりました。
あのときの韓国の社会の中では、皆さんが質問をしてくれたように、女性がフェミニズムについて話をする、するときにいろんな批判とかがあるので、女性が自分の意見を出すときに感じている恐怖とかに、私もすごく共感していました。でもそういう恐怖とか心配がすごく溢れる中でも、韓国のフェミニストたちは自分の声を出すようになって、それは一つの革命だったと私は思っています。
自分の考えを素直に言うことに対して、恐怖があった女性たちも、その時代の流れで自分が考えたことをもうちょっと直接的に表現できるように、社会の雰囲気がそう作られたと思います。
質問の中では、なぜ通訳を選択して勉強たか、という質問もありました。私が通訳・翻訳を専攻した理由としては、私自身が外国語の勉強がすごく好きだったともありますが、それだけではなくて、自分が恐れ、もしくは恐怖があったからでもあります。
フェミニズムはいつも存在してるという考えだったんですけど、自分が韓国の社会の中でフェミニストとして話をしたときに、もしかしたら攻撃があるかもしれないといった不安がありましたから、外国語にも興味があったと思います。
でも1回自分の意見を出した後には、思ったよりフェミニストの仲間たちにも会って、その中ではすごく安全な場所が作られて、自分の意見を、私を応援してくれる人と一緒に声を出すことができるって、改めて気づきました。
あのときフェミニズムの運動の中で活動していたときは、韓国社会の不正義を改めたいという気持ちがすごく大きかったけど、1回フェミニストの同僚たちと一緒に仕事をすることになったあとは、私が思ったよりもっと、こここそ私にとって安全な場所だなって、気づくことになりました。私の人生にとっては他の女性たちとの連帯がすごく大事で、私の同僚と一緒に連帯をする中で、私に一番安全な場所を作られると気づいたんです。
前に私が通訳と翻訳の仕事をしたいと強く考えたときは、自分の声がないと思ってたし、他の人の言語を運ぶことが私の仕事って思っていました。でも、今の目標としては、私みたいに通訳・翻訳をするときに、私には声がないと思ったり、何か自分の意見を出すことについて、不安を持つっていうことだけじゃなくて、もっと自分を出したい、出せるような、その目標を持って今生徒たちを教えています。
例えば今の生徒たちには、通訳士を連れてなくても、直接自分の話ができるようになったらいいって、私が強く感じています。外国語で話すときは、自分が慣れてる言語じゃないので、独特な不安があると思います。あれはフェミニズムを話すときの不安とも似てる部分があると私は思っています。
■江南駅殺人事件以降のフェミニズムは、革命だったと明らかにしたい
今私に韓国のフェミニズムの現在について質問をしてくる海外の記者さんがすごく多く「なぜ今の韓国のフェミニズムが、過去に比べて弱くなったのか」とよく聞かれます。
こういったときに通訳や翻訳を何回か通したら、私が元々言いたかったこと、そのメッセージから、離れる恐れがあると思いました。
私が韓国で行われたフェミニズムの強い流れは一つの革命と言いましたけど、世界のどの革命も、何年もずっと長く続くことはあまりないです。
韓国フェミニズムについて、他の革命と比べて、なぜそれが短い期間で終わったのか、もしくはどのような失敗があったのかと質問されたとき、私はこういった質問について明確な答えをする必要があったと思いますが、韓国で行われたこの女性運動、フェミニズムの革命は、私にとっては結構長く続いた運動だと思います。
今日本でフェミニズムの運動をしている方も、わたし達と同じように、その運動がいつ終わるのか、もしくはこれが今から時間が経って弱くなるんじゃないかっていう悩みがあると思います。
私は江南駅殺人事件の後のフェミニズムは、ある一つの事件じゃなくて、革命だったと明らかにしたいし、それはその革命として永遠な力を持つようになったと思います。8年も経っていますが、今もその事件について話をする人が多いし、それだけで、その永遠な力を見せている状況だと私は思っています。
そういった目標として私はフェミニズムをもっと記録として残して、歴史として、その世界的な観点でずっと話を続ける必要があると思います。
■会社での活動を通して女性に投資することに集中している
今の課題としては、女性たちが自分の考えや今までのフェミニズムの流れを、生々しい言語で外に伝えることが1つあって、2つ目としては、資源を持っていない女性たちがどうやって自分の可能性を最大限に実現するか、そういう目標に取り組んでいます。
とくに2つ目の目標として、私はそれは女性への投資だと思うんですけど、今の私はこの会社での活動を通して女性に投資することにすごく集中しております。
私が最初の本を出すときに資金が必要だったのと同じように、今の女性たちが自分を成長させたい、あるいは新しいことを勉強したいというときにも、その目標を達成するためにはその資金、もしくは資源が必要で、私は投資という形で女性たちを成長させようと思っています。女性が設立して女性に投資する機関としては、記録的な売り上げを見せていて、私はもう今から女性たちを成長することに集中したいと思います。
私は、まず自分がお金を稼いで、その後、私がかわいそうだと思っている女性たちを手伝うっていう流れは、間違ってると思います。私は、手伝うという概念よりは、可能性のある、そして自分を成長させたいという女性たちに投資をして、可能性を最大限にする形で今の活動を展開していきたいと思います。今の活動を一言で言ったら、女性同士の経済的な相互依存性を強くすることだと私は言います。
質問してくれた方の中で、私の本の長い読者さんと言ってくださった方が、日本のフェミニズム、フェミニストたちのなかでの、いろんな意見の違いとかがあって、そのことで難しさがあるとおっしゃてましたけど、韓国でフェミニズムの活動をしていく中でも意見の違いやいろんな問題があって、それは私も経験してました。
私もそういう経験がありましたけど、私はこれからもフェミニストの仲間たちと一緒にその活動をしていきます。時間となりましたので、ここで終わらせたいと思います。ありがとうございました。
(通訳:キム・ハウン)
講義概要
イ・ミンギョン講演会「韓国フェミニズムの〈いま〉」
日時 2024年11月6日(水)13:10〜14:50
主催 成蹊大学文学部
【イ・ミンギョンさんの本】
『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』 すんみ・小山内園子 訳(2018年)
『失われた賃金を求めて』 小山内園子・すんみ 訳(2021年)
『脱コルセット:到来した想像』 生田美保 オ・ヨンア 小山内園子 木下美絵 キム・セヨン すんみ 朴慶姫 尹怡景 訳(2022年)
2人は翻訳している 一覧
- 番外編 イ・ミンギョンさん講演会「韓国フェミニズムの〈いま〉」(後編)
- 番外編 イ・ミンギョンさん講演会「韓国フェミニズムの〈いま〉」(前編)
- 参考書は『ガラスの仮面』(後編)/小山内園子
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