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植本一子×栗原康ダブル出版記念対談「恋愛とアナキズム」　【後編】アナキストの恋愛と事実婚のゆくえは？　

(2016/4/12)

植本一子さんと栗原康さんトーク後編は、恋愛の話。最近彼女ができた栗原さんの気になる近況や、それぞれの恋愛と結婚観、新しい家族のかたちなど、笑いもありつつ深いテーマを語ってくれました。

「栗原さんから頂いたかなわないの感想「植本一子は現代の伊藤野枝だ！！！」をわたしは喜んでいいのでしょうか？新刊でしっかり勉強させていただきたいと思います」　植本一子

「植本一子は現代の伊藤野枝だ!!! 村に火をつけ、白痴になっている。かなわない。」栗原康

ふられたあと「モテたい」「合コンに行きたい」って書いてから
一切誘いが来なくなりました

神田　そろそろふたりの恋愛観を聞きたいと思います。

植本　この間、早川義夫さんとトークイベントやったんですけどその後の打上げで、好きな人に求める条件３つ何って言われたんですよ。私は「自由にさせてくれる」尊敬できる」「体の相性」って言ったの。飲みの席だしね。口に出してみると、なるほどなと。栗原さんは？

栗原　僕も自由かな、あといざとなったら養ってくれる、とか。ぼくあまりないんですよね。あとは怒らない、かな。ぼくよく怒られるんですよ。

植本　ふーん。じゃあ、４つ目はなんですかっていう質問だったんです。何？

栗原　なんだろう、うーん…見た目かも。

植本　顔？同じだ！そしたら早川さんが、これは心理テストで、実は４番目がいちばん重要だと思ってることなんですよ、って言うんですよ。

栗原　そうか、そう言われてみたら、顔なのかもしれないですね。

植本　ね。ずっと見なきゃいけないからね。栗原さん前の本では「やりたい、モテたい」話ばっかりで、正直でいいなと思ったんですけど。野枝も、自由になりたい、楽しく生きたい、って言ってていいなと。この本のときはまだ彼女いなくてね。前の彼女がおもしろいんですよね。この本の中でふられるんですけど、いわゆる普通の女性とお付き合いしてたんですよね。

栗原　地元の公務員の女性でした。

植本　大きいショッピングモールに行って、罵詈雑言を浴びせられたんですよね。

栗原　そのとき５年くらい年収10万円の時期があって。買えないじゃないですか。彼女が見てる間、喫煙室にこもるわけですよ。それを繰り返してるうち「おまえ買えよ」って言われるんです。で、すみませんと謝って帰るという。

植本　かなしい。

栗原　僕も変な知識だけはあるじゃないですか。お金がないならないなりの生き方があるとか、いざとなったらなんとかなる方法なんていくらでもあるとか、知識人ぶって言ったりするんですけどそれがまた癇に障るんでしょうね、「金もないくせに偉そうなこと言いやがって」「そういうこというのは子どもが大人に駄々をこねるのと同じことだ」って説教されて。

神田　ぼく昨年栗原さんに取材したんですけど、そのとき「彼女が出来ました」って報告されたんですよね。

植本　この本読んだ人なんですよね。

栗原　雑誌のインタビューを見て知って、立ち読みをしたらしいです（笑）

植本　うそ！買ってない？すごいね、強い。

栗原　立ち読みしてブログで書いてくれて。書き始めたら、昔の彼女の方の気持ちになっちゃったらしくて、なんて身勝手な奴なんだと怒りがこみ上げてきたとかって。その後に『現代暴力論』が出てそれを買って読んで、トークイベントに来てくれたんです。そこで手紙を渡されて「本を読んだ感想を言いたいので、よろしければここにメールをください」って。

植本　何それ、新しい出会い系みたい。かわいかったの？

栗原　かわいかったんです。やっぱり顔ですかねえ。

植本　それで超長いメールが来たんだよね。

栗原　A4３枚くらいの感想があって、最後のほうで怒りが込み上げてきたっていうところで突然終わって、「今宵も更けてまいりましたので続きは明日」って。でも次の日来ないんですよ。気になってしょうがないじゃないですか、それで完全に虜になりました。次のもまた長文で、こんどはすごくほめてくれました。

植本　アメとムチだ！

栗原　コロンと落ちました。

神田　ぼくはショックでしたよ、仲間だと思ってたから。

栗原　最初会ったときずっとその話してたんですよね。男はどん底のときにふられるって。

植本　うちの旦那さんもそうだ、アル中のときふられて、うつ病になっちゃった。私は『かなわない』書いてから、全然モテなくなりました（笑）。仕事の話は来ますけど、男性からは一切。

栗原　確かに、ふられたあと「モテたい」「合コンに行きたい」って書いてから、一切誘いが来なくなりました。今思い出した。この本出すきっかけも、担当の宮川さんが「本を出してお祝いに合コンしましょう」って言ってたのに、それもなく。恋愛がらみで書くと警戒されるんですかね。

植本　Twitterに『かなわない』の感想で「うちの旦那が、植本さんはまわりを巻き込んでしまう魔性の女タイプと言っていました。文章はいいけど関わりたくないですね」というのがありました。結婚してても好きな人がいたら行きます、とかいうと引きますよね。

神田　僕も編集者の人に言われましたよ、「あの本読んだ後に神田君があの植本さんと遊んでいると聞くと、すごいなと思う」と。

植本　どういう意味？ほんと仲いいんですよ、元旦からふたりで蛭子能収展見に行ったり。仕事も一緒にするし。疑われたりもするんだよね。

栗原　いいんじゃないですか、神田さん。

植本　いやー、好みじゃない。顔が好みじゃない（笑）

栗原　やっぱり４番目なんですね。

カジュアルに他人と一緒に住んでいた野枝
世の中的にはだめと言われるかもしれないけど、生きやすくなりそう

植本　でもね、一緒に家で住むならいいかなって。私、家に旦那さんと一緒にいるの厳しいって思う時期があって、それだったら誰か人を家にいれたら、広いところにも引っ越せるし、育児もシェアでていいんじゃないかなって思って。その話を『仕事文脈』に書いたんです（注・小社刊『仕事文脈vol.7』、タイトル「限界」。ちなみに同誌には栗原氏の彼女との出会いエピソードが入った文章「はたらく女性は、方向音痴―地図はなくても歩いてゆける」も掲載しています）。

栗原　新しい家族の形を手探りで作っていこうと。

植本　それで石田さんに言ったら「ライターだったら家にずっといるしちょうどいいじゃん」て。

神田　いや、それだと婚期逃しちゃうし。

植本　いいじゃん、結婚したら一緒に暮らしてもいいし。この本が20万部売れたら家が買えるんですよ、キャッシュで。そしたら神田さんも５万円くらいでいいよって。

栗原　そこはタダで住ませてはあげないんですね（笑）。

植本　そうだ思い出した、野枝につながるんです。「すごいすごい、もっとすごい、君もすごい、あの人もすごい、きっとそういうところがら、はじめて男女関係でも女性同士でも男性同士でも、真の友情が芽生えることになるだろう」。つながってます？ちょっと説明してください。

栗原　野枝は若い頃恋愛で家を飛び出していくんですけど、大杉と暮らし始めてからは、恋愛も大事だけどベースは友情だと。ぜったい狭い家のはずなんですけど、アナキストのゴロツキたちが家に集まってくるんです。野枝も立て続けに子どもを生んでるんですけど、文章書きまくっているんです。考えてみたらできなそうなんですけど、よくよく読んでみると野枝が文章書いたり本読んでるときって、ゴロツキたちが子どもの面倒見てるんです。今の話の、神田さんがいっぱいいるみたいな。

植本　すばらしい。

栗原　野枝も子どもの面倒も雑で、おしめを洗わないで干したりする。そうするとあまりに臭すぎてゴロツキたちがおしめを洗う。それでいいんですね。

植本　結構カジュアルに一緒に住んでますよね、お金なかったら貸すしあげるし。

栗原　そう、お手伝いさんが勝手にお金使ったりしてますしね。今の世の中的にはだめって言われるかもしれないけど、でも生きやすくなる気はしますよ。たぶん一緒に住んでめんどくさいこともあるけど、そういうときは出て行く。野枝も面倒くさい奴としょっちゅう喧嘩してるんだけど、集団生活に疲れると大杉と２人で鎌倉に住んで１、２年でまた戻るとか。それくらいのノリでいいかもしれない。

植本　そうそう。だから持ち家が１個あると、適当にできそう。

栗原　僕の憧れは、セミですから。７日間それしかしないと。
植本　そうなんだ！　じゃ今度からセミって呼びます。

植本　この本を書いてからいくつかインタビュー受けたんですけど、セックスレスの話をしたんですよ。そうしたら「うちもそうです」とか「なんとかしなきゃいけないと思ってるけどどうしよう」とか、結構言われました。

栗原　こればっかりは考えてできることじゃないですからね。

植本　女性はどちらかというと待ってる方だと思うんですけど、男の人は自分から行かなきゃいけないと思うんでしょうけど、もう行けないとか。

神田　僕はそういう時期一緒に寝るのが怖かったです。そういうことになるかと思うと。この問題は根深いですよね。

栗原　僕は長くても３年くらいしか付き合ったことなくて、３年だとセックスレスはないですかね。どっちかというとしたい、したい、という方で。

植本　へえー。細いのに。

栗原　僕の憧れは、セミですから。７日間それしかしないと。

植本　セミってそういうものなんですか！

栗原　10年間土の中にいて、外に出たらそれしか考えない。オスメスかまわず、セミかまわず他の虫も。

植本　そうなんだ！栗原さんセミだったんだ。じゃ今度からセミって呼びます。

栗原　それはちょっと嫌かも（笑）。就職予備校で15分くらいこの話してたら女子学生から「気持ち悪い」と言われました。

植本　性的な話って嫌がられそうですね。野枝はどれくらいやりまくってたんですか？

栗原　毎年産んでますからね。

植本　相手は栄だけ？　その辺の貞操観念はあったんですか。

栗原　貞操観念はないけど、好きになったらその人だけ、君ひとりを愛していくと。だから大杉が浮気するとブチ切れたりします。

恋愛は破滅。だから結婚してしばるんでしょ？
栗原さんはどうなっちゃうんですか？

植本　どうですか、栗原さんはお付き合い始まったばかりで楽しそうですが。

栗原　はい。楽しいですね。

植本　それって終わるんですか？　結局恋愛って破滅じゃないですか。だから結婚してしばるんでしょ？栗原さんはどうなっちゃうんですか？

栗原　「恋愛は終わってしまうかもしれないが、その恋に友情の実が結べば恋は常に生き返ります。実を結ばないあだ花の恋は別です。実が結ばれれば恋は不朽です。不断の生命を持っております。」

植本　野枝の言葉ですよね。

栗原　なんでしたっけ。あ、結婚。今しませんか、と言われてます。

植本　言われてそう（笑）

神田　でも籍は入れないんでしょ？　結婚制度はくそくらえなのでは？

栗原　結婚制度はくそくらえだし、籍はいれないんですけど、一緒に住んだら事実婚ですからね。あと籍については、『かなわない』で石田さんもいってるんですが、よく貧乏人こそ入れてしまった方がいいといいますよね、税金とか、扶養に入ったりとか。使えるものは使っちゃえというのは、そうなんじゃないかと。まあでも、籍はいれずにお子さんもいて、という友人がいるんですけど、金銭面もふくめて、何か支障があったという話しを聞いたことがないので、だったらと。

植本　恋愛始まっちゃって、栗原はもう枯れたのかな、おもしろいもの書けないんじゃないかとかないですか。

栗原　今燃え上がっていますから。

植本　楽しみですね、これから何書くのか。アナキストの恋愛と事実婚。

（おしまい）