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『バイトやめる学校』『あたらしい無職』刊行記念トークイベントツアー【広島編】 

(2017/8/21)

シリーズ3/4、『バイトやめる学校』は早くも2刷!『あたらしい無職』も書評で取り上げていただき、ありがとうございます。

さて刊行記念トークツアー、第一弾の福岡編に続き、広島編をお送りします。2日連続のトークとはいえ、街、人が違えばまた別の発見が。本を出すことで見えてきたことなどを、『あたらしい無職』の丹野未雪さんが語ります!

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バイトやめる無職のふたり

 

『バイトやめる学校』『あたらしい無職』刊行記念トークイベントツアー
【広島編】

仁義なきトーク、ドサ回りの夜

 旅支度をした陽光さん、書店回りを終えた宮川さん、観光案内所で涼んだわたしたち3人は、JR博多駅ひかり広場改札口で14時に待ち合わせた。昨日のトークイベントの稼ぎが広島までの切符代。宮川さんが封筒からカネを出し、自由席大人3名分を買う。あざっす、親分!

「ちょっと寄りませんか?」。陽光さんが連れて行ったのは「絶滅危惧種」。広島駅近くのバーや飲食店が集まった一角にあり、自作や他のデザイナーの服飾作品を置いているショップだ。店番をしていた井戸口さん、川本さんも今日のイベントに来てくれるそう。じゃあ後で。

「いい飲み屋があるんすよねー。なんならイベント行かなくても成り立つんじゃないすかね!」と陽光さんが言う。広島への親しさが伝わってくるなあ。

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 JR横川駅から徒歩5分、ギャラリー「横川創苑」にはすでに「途中でやめる」の服、タバブックスの本が並べられていた。というか、もうお客さんが座っていた。到着したのは開始時間30分前。「来ないから並べちゃいました!」と笑う担当のモモさんは生まれも育ちも東京だが、東日本大震災がきっかけで広島に移住したのだそうだ。

 雑談しているうちに会場は人で埋まり椅子を追加。およそ50名全員が着席したところでトークは始まった。もちろん打ち合わせはなし。
実は移動中、どうしたら「トーク」が成り立つのか、わたしはうんうん唸っていた。「自己紹介するのもいいんじゃない」と宮川さんはアドバイスした。そうですね。陽光さんのトークが本格的に高速化する前が勝負だ。

「あたらしい無職です」「バイトやめるです」。やるなら今しかねえ。すぐさま「この本がどういう本かというと、会社を辞めて無職になって、就活してもう一回会社に勤めたけれど、再び辞めて無職になる話です」と、本の説明をした。これは武田砂鉄さんによる拙著書評の冒頭で、簡潔なこの一文を気に入っていたわたしは引用したのだった。

 それから、陽光さんと初めて出会ったのは10年ほど前で、当時在籍していた月刊誌で座談会に出てもらったこと、ここ数年は「仕事文脈」で取材していることを話した。態勢は整った。

 ところが陽光さんの様子は昨日と違っていた。「イベントの2回目はいつもテンションダダ下がりで。同じことはしたくないんすよ」。そうは言ってもさー、今日集まった人には同じことじゃないよ? とテレパシーを送ってみたが、陽光さんは「昨日ほとんど喋っちゃったんで話すことがない」と言い、同意を求めるかのようにこちらを見た。

 IMG_2010 わたしは陽光さんをバッサリ斬り捨てた。「忘れちゃったんで、話してください」。わしも格好つけにゃあならんですけえ。陽光さんは動揺した。しかし、ムッとすることもキレることもなく、陽光さんは話すことを選んだ。ありがとう。飛び込むタイミングをわたしは追い続けた。弾はまだ残っとるがよう。超高速で見えなかった大縄跳びの縄が、瞬間、見えた。

 質問コーナーを経て、陽光さんのiPhone録音アーカイヴから、高円寺キタコレビル店長が酒に酔ってぼやいた「ファッション雑誌で紹介されても売上につながらない」という悩みの音声を流したのち、ギターを抱えた男性が登場した。「どこから声が出てるのかわかんない」と陽光さんが評すミュージシャンのミカカさん。全身で吠えるような声で3曲披露してくれた。

  終演後、みんな陽光さんと喋る機会を待っていたという感じで、館内にも外にも陽光さんを囲む輪ができた。わたしは真っ先にダダオのお茶を買いに向かった。彼は『バイトやめる学校』に登場する人物だ。お茶には手ぬぐいと「てづみ てもみ まきび ふかむし むかしのつくりかた」と書かれたリーフレットが付いている。農業をやっているのかとたずねると、ダダオは首を横に振り「大家さんのお手伝いをしているという感じ」と申し訳なさそうな顔で言った。お茶を飲んだ感想を伝えると、ふわりと笑った。

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 「がんばってた!」と宮川さんに労われ、努力が目に見えたことを喜びビールを飲む。
 男性がサインを求めて来た。お、おう。やはり戸惑いと嬉しさが混じり合った気持ちで、昨日と同様地名を入れサインする。「これから読んで、必ず感想を送ります!」。励まされるなあ。

 ビールを飲み終えた頃、女性にサインを求められた。こちらこそありがとうございましたと本を渡すと彼女は言った。「握手してください」。うおおう。これ普通の生活をしてきた手ですよ? 心の声を飲み込み出した右手を、彼女は両手で包んだ。

 編集とライターの仕事を始めて15年以上になるけれど、自分の名前のもの(本)を作ってみてわかることがありすぎる。何が書き手を、作り手を、本を支えているのか。今さらかもしれないけど、直面できたことは幸福だ。

 人をかき分けるようにおかっぱ頭の女性がこちらに向かって来た。「広島、初めて?」「横川に来るのは初めて。もしかして、きらみさ?」「うん」。きらみさも『バイトやめる学校』に登場するバイトやめた人だ。彼女の考えにいたく親近感を持っていたので、会えたことがうれしかった。

 そろそろ24時というとき、1人の男性がやって来た。「のっこん!」。陽光さんが叫んだ。ミカカさんの歌に出てくる場所なのか何なのかわからない「名」、それがのっこんなのだと陽光さんは紹介した。

平和公園で買い太郎と飲もうか
榎町(えのまち)公園でバチ山と飲もうか
大芝公園でりょうすけと飲もうか
空鞘(そらざや)公園でのっこんと飲もうか
ひとりで家で飲もうか

「できん」ミカカ

IMG_0349 深夜2時、みんな三々五々別れる。旅館に戻る前、3人で何か軽く食べようと近くの小さな居酒屋に入る。カウンターに座り中ビンを頼む。コップに注ぎ乾杯する。「おつかれーす」。ドサまわり感、ここに極まれり。ツアーが終わるさみしさと、長い時間一緒にいて湧いた親密さが、疲れと混じりあう。親分も相棒もぽつぽつと喋る。店の主人は後期高齢者に差し掛かったと思われるおじいさんで耳が遠かったが、焼きめしを作る姿勢は若い頃のままのようで、ぴしっとしていた。

 

 翌朝、喫茶店でモーニングを食べ、3人で書店まわりをした。ヲルガン座1階のカフェでランチを食べ、広島市内にもう少し滞在するという陽光さんと別れ、わたしと宮川さんは福山市にあるアートスペース「クシノテラス」に寄った。キュレーターの櫛野さんは「陽光さんとのトーク大変だったんじゃないですか」と言った。わたしは「大縄跳びみたいでした」と答えた。櫛野さんは不思議そうな顔をした。

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(丹野未雪)

 

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