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『生活考察』復活記念! 編集人・辻本力さんインタビュー 【前編】 

(2018/12/4)

『生活考察』復活記念!編集人・辻本力さんインタビュー
【前編】「生活」というとエモい方にいくか、ほっこりにいくか。どっちも行きたくないんですよね


4年半の沈黙を破って、このたびタバブックスより第6号を刊行した『生活考察』。「おかえりなさい」「待ってました」とあたたかいことばをいただき、好調なスタートを切りました。

それにしても豪華執筆陣やフレッシュな書き手起用は相変わらず、さらに第6回とかさらっと連載も継続しているし、こんなに間が空いていたと思えない内容です。編集しているのは、辻本力さんただひとり。いったいどうやって? 気になる制作の裏側と、今回掲載した作品全てについて語ってもらいました。なかなかに深い話になったので、前後編に分けてお届けします。

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編集をしたかったけど出版社経験もなく
どうしたらいいかわからなくて、とりあえず雑誌を作った


ー 『生活考察』を知らない方もいると思うので、ちょっと説明していただきましょうか。

辻本 ぼくは以前、茨城県にある文化施設・水戸芸術館の演劇部門に勤めていて、そこで『WALK』という演劇関係の機関誌の編集をしていたんです。新人で入って「お前やれ」とまかされたんですが、演劇のことわからないし、雑誌もマンネリ化していたしで、だんだん自由に自分の好きな人に原稿を頼むようになっていきました。そしたら、ボスである芸術監督も面白がってくれて。


ー 辻本さんは何号くらい作ったんですか?

辻本 好きなようにやるようになって7号くらいですかね。だんだん演劇誌っぽくなくなり、特集も「表現」全般を扱うようになっていきました。「ドキュメンタリー」「物語」「エッセイ」みたいなテーマで作っていく中で、ある時「日記」という表現形態が気になってきた。で、実験的にいろんな人の日記を並列する特集は面白くないか? と、日記特集を企画しました。この頃から予算の問題もあって雑誌が継続できないことになり、最後なら好きなことやらせてくれって採算度外視でカラーも入れて分厚くして作ったんです。これで編集の方に興味が向かったので辞めて、上京して。でも出版社勤めもしたこともないのでどうしたらいいかわかんなくて、とりあえず雑誌作ったという。それが『生活考察』です。

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ー それもすごいですよね。2009年に勤めを辞めて、2010年にもう1人で発行って。

辻本 前身の日記特集が、いろんな人の生活のショーケースみたいになったのが面白くて、そこから「生活」っていうテーマに引っ張られて『生活考察』につながったんですね。だから執筆者もつながってるんですよ。書いてくれる人が全くゼロから始めたんじゃなくて。円城塔さん、福永信さんもその前身誌からです。


ー それで錚々たる書き手が揃ってるわけですね。でも今回「4年半ぶりに再開します」と言って、みなさんすぐOKという感じだったんですか?

辻本 一応やめるとか休刊する、とは言ってなかったんですよね。これまで書いてくれた人みんなに書いてもらいたかったんですけど、それだと多すぎるので、まずは第何回と連載番号が振られている人にお願いしました。4年半ブランクがあるので、続けるか、またあらたに始めてもいいですって、ご自身の希望でといったんですけど、結果続ける人のほうが多かったですね。


普段書いてないことを
書いてもらう場であってほしい

 

ー 連載タイトルが変わったのは、春日武彦さん「文章秘宝館」と栗原裕一郎さん「おまえはベイビー」ですね。


辻本 
春日さんは、以前から本の話題は少なくなかったですが、より自身の体験や心情を本に接続していくような内容になっていると思います。面白いのは、誰もが認める名作・傑作とかではなくて、作品としては若干失敗してるんだけど、なんか書いちゃった気持ちもわかるし、ある意味味わい深い、みたいな作品を取り上げているところですね。栗原さんは、「おまえはベイビー」というタイトル通り、ご自分の子どもの話なんですけど、安倍・トランプ以降の世界のありようとか言論空間とか、いわゆるポストトゥルース、オルタナティブファクト時代の話を、ご自身の子育てと結びつけて語られています。実は『生活考察』の裏テーマの一つに、栗原さんのキュートな面を広めたい、というのがありまして(笑)。


ー 辻本さん、めちゃ栗原さん推しですよね!

辻本 毒舌家だしひねくれ者だし、というか、ある意味正直者すぎるというか歯に衣を着せなさすぎな人なんですけど、好きなんですよ。思い返してみれば、栗原さんに紹介してもらった書き手も少なくなくて、すごく感謝しているんです。栗原さんのはテーマが生活とは言っても、その時の関心ごととか仕事のモードとかが反映されてるところが大きな特徴ですね。身辺雑記だけど、評論家的な視点が自然と入ってくるところが面白いです。


ー 他の方は連載継続ですね。


辻本 
ただ4年半もブランクがあるとみんな生活が変わってくるんですよね。結婚して子供ができたっていう人も何人もいたし。小澤英実さんもお子さんが生まれてからの話です。春日さんとはちょっとかんじが違うけど、やっぱり自身の生活の話から文学作品について言及していくスタイル。


ー 「あたし、この戦争が終わったら……」が連載タイトル。何かの引用ですか?


辻本 
いわゆるネット用語ですね。登場人物が、諸々の状況を抜け出したら幸せになろうねっていうとだいたいその直後に死ぬっていう。死亡フラグってやつですね。ちょっと今あまり使わなくなった表現だから、やめようかと思ったらしいんですけど、一回りしてこれもいいかなとそのままになったんです。
佐々木敦さん「普段の生活」は、シンプルに普段の生活の話。でも、なんか妙な味わい深さがあっていいんですよね。佐々木さんは何か作品について文章を書いていることがほとんどなので、ちょっとレアな内容かもしれないですね。これも雑誌の裏テーマの一つですが、著者が普段あまり書いてないことを書いてもらう場であってもいいな、って。「あ、普段こんなことを考えてるのか」と知ることが、その人の作品を読むときの新たな視点へとつながることもあるんじゃないかな、と。
円城塔さんの連載「かきものぐらし」は、あの円城さんなので、最初もっと空想的というかSF的な展開をする内容になるものと思っていたら、意外にもど真ん中の生活エッセイだったので驚きました。今回は料理の話。円城さんはもともと食に関心なかったけど、結婚していろいろ作るようになったそうです。読んで、僕もいい包丁と砥石が欲しくなりました。
「好きなことだけして暮らしたい」の林哲夫さんも、前身誌からのメンバーで、本職は画家ですが物書きとしてもベテランです。これからの課題として若い人をもっと入れていきたいというのがあって、今回も何人か20代の方がいますけど、でもどっちもいて欲しいんですよ。紙媒体を読む人は上の世代が多いとはいえ、そっちで固めてしまうのもまた違うと思うし。林さんがすばらしいのは、昔の回想もするけどそれだけじゃなくて、あくまで「現在の生活」がベースになってるところ。すごく充実してて、楽しそうなんですよ。昔はよかった的な感じにならないところが、いいなって。

 

勝手にうっとりしてるのが苦手

 

ー 創刊号から続いている人、多いですね。


辻本 
海猫沢めろんさんの「めんどくさいしどうでもいい」も、創刊号からですね。思い返せば、初回は抜け毛がひどいって話でしたし、基本的にその時の怒りとか不満とか悩みとかについて書いてますが、ベタッとしたかんじはしないですよね。これはめろんさんに限らず、全体的にそうかもしれなくて。たぶん、僕があんまりウェットな感じにしたくないんですよね。みんな視点としてはちょい引き気味というか、どっぷり自分語りではない。「生活」について書くと、大きく何パターンかに分かれると思うんですけど、最近のことばで言うと「エモい」って方にいくか、いわゆるほっこりにいくか。でも、僕はどっちにも行きたくないんですよ。あまり理由は分からないんですけど、前者に関しては勝手に気持ちよくなられるのがなんか苦手で。もしかすると、無意識的に、そういうふうじゃない人にお願いしているのかも。


ー そういう意味では、福永信さんの「日付と時間のある文章」なんかは、自分のことを語っていながらウェットさがまったくないですね。

辻本 福永さんは、前身誌の日記特集以来、形式縛りを貫いてくれていて。


ー 毎回別の形式を設定するのがすごいですね。



辻本 作家さんなので、「生活と想像力」というテーマでどうでしょうねってお願いしたら、初回は「生活費と想像力」というテーマの原稿がやってきた(笑)。日記の時にもそうでしたけど、福永さん、書かなくてもいいのに年収とか書いちゃうんですよね。確定申告行った話とか。今の連載もわりと赤裸々なんだけど、形式を軸にして書くから、ベタッとしない。一貫して、すごく客観的。福永さんは『WALK』日記特集から『生活考察』に移行したときの重要な人なんですよ。日記も、決して豊かな生活について書いてるわけじゃないのに貧乏くさくならなくて、これってなんなんだろう? と思って。本人の心持ちもあるだろうけど、作家の手腕というか切り取り方次第で、「金がない」みたいな話ひとつが、妙に豊かに見えてくる。お金がなくても「なんかいい生活されてるな」って思えてくる。そこから作家の想像力のあり方、切り取り方によって生活の違う位相が見えてくるような気がしたんです。
けどどうなんだろう、最近の若い人は「エモい」ものが好きな気はするし、今のモードはそっちなのかもとは思うんです。でも、あんまり主観べったりより……どう思います?


ー 主観べったりで売れる人もいますけどね。想像しちゃった、今。でも色々あっていいし、『生活考察』は違っていいし。


辻本 
勝手にうっとりされるとなんか気持ち悪くって。もちろん超主観的でエモくても、いいと思えるものはあるし、好きな作品もあります。でもそういうのって、人が気持ちを重ねたりできる余白や余地のあるものが多い気がします。もっとも、別に「共感」がベストだとも思ってません。淡々と好き勝手やってて共感不可能でも、面白ければぜんぜんいいですし、むしろウェルカムです。


ー それから音楽系の連載、速水健朗さんの「都市生活者のためのアーバン・ミュージック・ガイド」と大谷能生さんの「ディファレント・ミュージックス」。

辻本 速水さんは「歌」を軸にして、社会の世相を考える連載ですね。「音楽と都市」「音楽と時代」の関係を、流行歌やCMソング、それにまつわる言説などを交えて考察されています。今回は先日交通事故を起こして逮捕・執行猶予付きの実刑判決を受けた吉澤ひとみの話。彼女がいた頃の「モー娘。」は、まさに一時代を築きましたからね。有名人と交通事故、エンタメの関係が、J.G.バラードやさだまさし(!)などを援用して考察されます。
大谷さんのは説明が難しいんですけど、とにかくいろんなものがぶっこまれていて、でもひじょうに読み心地が良くて。彼は演奏家、文筆家、はたまた役者としていろんな場所に出没していますが、そこでの多彩なエピソードと普段の生活の話、読んだ本の引用などがシームレスにつながって、まるでひとつの曲のように編まれているんです。不思議なグルーヴ感のある文章ですね。

後編へ続く

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