本日発売!『はたらかないで、たらふく食べたい』刊行記念・栗原康インタビュー 後編
(2015/4/21)
いよいよ本日発売となりました!『はたらかないで、たらふく食べたい 「生の負債」からの解放宣言』。ピンクのブタと、青いカメが目印です!書店で見かけたら、ぜひお手にとってみてください。
著者・栗原康インタビュー後編です。「はたらかないで、たらふく食べたい」は、高等遊民とつながる—定職につかず、実家住まい、研究にいそしむ著者はまさに月9ドラマでも話題となった高等遊民。このドラマを「ひとごとではなくて、テレビにむかってもうれつに拍手をおくりながら」見ていたという栗原氏。リアル高等遊民の恋愛、生活、そこから生まれた本書について聞きました。
1979年埼玉県生まれ。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。 著書に『G8 サミット体制とはなにか』(以文社)、『大杉栄伝—永遠のアナキズム』(夜光社)、『学生に賃金を』(新評論)がある。趣味は、ビール、ドラマ観賞、詩 吟。あと、錦糸町の河内音頭が大好きだ。「踊ること野馬のごとく、騒がしきこと山猿に異ならず」。それが人生の目標だ。
できるかぎり努力しますと言ってみるんだけど
全然やりたいことやめてないし、働こうともしていない
ー 本書に収録している「豚小屋に火を放て」は、『現代思想』(注1)に掲載されて評判を呼んだんですよね。研究テーマと自分の恋愛体験、全部ひっくるめてというところに説得力があるんじゃないかなと思います。なかなかそういうのは……
栗原 ないと思います。研究者として論文を書くとき、絶対に今やってることはやってはいけないから。研究論文は客観的に書かなければいけないので、「自分の意見は」と前置きして、すこし書くくらいならいいんですけど、あくまで科学的に、客観的に、なんです。でも、そういう文章って、人の心になにも伝えられないなと思って。だから、もうちょっと違う書き方をしたいなと思ったときに、研究していた大杉栄や伊藤野枝を読むと、すごく直球で自分を出している。伊藤野枝は、僕より悪いこと書いてますね、ただの人の悪口じゃないかみたいな(笑)。自分たちの日常を語りながら、社会批判でもなんでも、論じたいことをじゃんじゃん書いている。これ、すごいなと思って。それで、おなじようなことをやってみたいと思ったんです。自分のことが一番好きに言えますし。
ー よくここまで書くなと(笑)。合コンで会って、惹かれてつきあいはじめて、そのうちやりたいことをやっていたら、彼女が怒る、という顛末ですが。
栗原 結婚したいと言ったら、好きだし、いいよって言うんですよ。自分の中でもできるかぎり努力しますと言ってみるんだけど、全然やりたいことやめてないし、働こうともしていない。自分の中ではめいいっぱい努力しますと、口でも日々精進しますと言ってるんですけど、向うからすると、こいつ何もやってないぞと。できないのにできると言って、努力するていだけ見せて、だんだん見透かされていく。
ー 努力する目標が違う。
栗原 違いますね。努力すると言って、アルバイトだけ見つけてきたりするから(笑)。そういうのが色々積み重なったのかなというのはある。
ー 彼女が最後キレるところが、ものすごい……
栗原 最初はすごく丁寧なかんじで。最後に怒る時以外は丁寧なんです。
ー(苦笑)。女性はどこでスイッチが切り替わっちゃうんでしょうね。
栗原 いざとなったら働くだろうと思ってるところに、どうもこいつは働かないぞと。話せばわかると思ってたんですよ。
消費社会でスタバ行くなとか言い始めると
逆に倫理主義になっちゃって、自分を縛ってしまう
ー この本には他にも恋愛、というか失恋話が出てきますが、わりと対象が普通の感覚の女の子ですよね。考え方が合う、というかんじではなく。
栗原 そうなんですよ、そうなんですよ。なぜかそういう子を好きになってしまう。
ー 経済社会のゆがみをものすごくきれいに論理として組み立てているけど、好きになる女の子は、消費社会の申し子的な。
栗原 確かに、よく考えてみると、僕の友だちで活動家は活動家の女子と付き合っていたりとか、編集者だったら編集者とか、研究者だったら研究者とか、似たようなことをやったり、考えたりしているひと同士で付き合っていたりしますね。じつは、僕はそういう恋愛をしたことがありません。
消費社会とか、労働と消費の仕組みに、違うよって思ってるけど、うまいものを食べたいとか、できればいい服も着たいし。お金をかけないでできることはあるとは思うんですけど、お金をかけた方がよかったりもして、それはそれで楽しかったりもするわけです。たまにそういうのにむちゃくちゃ惹かれちゃうときも、あるっちゃある……
ー それは否定しないと。
栗原 うーん、そうなんですけどね。でも、楽しいときは楽しいので。そういうのはストイックに削らなくてもいいのかなって。キリがなくなるというか。消費社会の象徴だからスタバ行くなとか言い 始めると多分逆に倫理主義になっちゃって、自分を縛ってしまうというか。お金を使わないでたのしく生きるというのは理想的だとおもうんですけど、お金を使わないで生きなくてはいけないというふうになってしまうと、それはそれで息苦しいかなと。
ー それで「はたらかないで、たらふく食べたい」と言ってみると。たらふく…食べてます?
栗原 今実家なんで。最近は「いける本大賞」(注2)とかとったので、親の機嫌がよくなって。
ー ご機嫌もよくなっておいしいものも。まさにタイトルどおり(笑)。でも、はたらかないと言いつつ、文章をたくさん書いています。この本の原稿もしばらく間があいたと思ったらいきなりたくさん送られてきて。いつこんなに書いてたのかと。
栗原 夏休みに書いてました。意外と働いてるんじゃないかっていう(笑)
ー これだけのものを書くにはすごく調べないといけない。時間があるからできるわけだから、そういう人がいてもいいのでは、と思いました。
栗原 専任の先生になったらできないですよね。ちょっとバイトしながら、くらいで。
ー 数年間は直接給料として入ってくるお金はないかもしれないけれども、研究や書いてたり調べたり、考えたりする時間を使って、それが結果的に仕事になるのであれば、はたらいていることになるのかもしれませんね。
栗原 そういうことが言いたいんですよ!とはいえ、いまお金になることをやらないでいると、率直にあまえているとか、遊んでいるとか言われたり、いい歳をしてお金もかせげていないのに恋愛とかをすると、無責任なやつとか言われるのが現状だとおもいます。だからこそ、あえてわがままになりきって、おもうぞんぶん遊びたい、モテたい、楽しみたい、うまいものが食いたいって、声をあらげてみたいなと。たぶん、いまおなじような境遇にいる人たちって、けっこうたくさんいますよね。そのうち、一人でも二人でもいいんです。この本をつうじて、だれかがすこしでも生きやすくなってくれたら、自分ももっともっとわがままに生きてやるんだって、そうおもってもらえたらいいなとおもっています。
敬愛する一遍上人が鎌倉入りした際に通ったとされる岩塊を眺める写真は「一生の宝物になりそうです」という栗原氏、現代に一遍さんのような自由な風を起こす、かもしれません。
(注1) 『現代思想』2013年9月号 「豚小屋に火を放てー伊藤野枝の矛盾恋愛論」
(注2)『大杉栄伝ー永遠のアナキズム』で2014年第5回いける本大賞
撮影 渡邊聖子
2月19日/神奈川県立近代美術館にて
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