今日も盆踊り

【新連載】今日も盆踊り 2014夏 第1回 プロローグ 

(2014/7/15)

bondancetop

 
 まさか人前で踊ることになるとは思わなかった。

 29歳。独身男子。中学校まではどちらかというとクラスのお調子者キャラ。とにかくおどけて周りの人を笑わすことが好きだった。中学生の一時期、最も笑いの波長が合った友達と漫才コンビを結成して、本当にお笑いの道を志そうと思ったこともある。それぐらい「陽」の性格だった自分が、高校に上がると同時に正反対のネクラキャラに転身。目立つのが好きなのに実は性来の人見知り、このアベコベに共存する性格の後者が途端に猛威を振るいはじめ、以来ネクラ街道まっしぐら。高校時代は休み時間を寝たフリで乗り切り、大学時代は家と大学とバイト先の魔のトライアングルを描き、遊びを知らず、社会人になってからは関東育ちの自分には縁もゆかりもない名古屋に配属され、友達も、ましてや彼女もいないので休みの日は一人で動物園や美術館に通う寂しい生活だった。特に動物が好きというわけでもない独身男性が、休日の動物園でボンヤリと象がウンコをするのを眺めている光景、想像してみて欲しい。

 そんな僕が盆踊りというオールドスクールなダンスカルチャーと出会ったのが、ここ2〜3年のこと。人前で踊るなんて、そんなチャラそうな(偏見)遊びはもってのほかだったのであるが、人に誘われてたまたまトライしてみた佃島の念仏踊り(月島)がなぜか自分の性にガッチリ合ってしまった。おそるおそる輪の中に入って、見よう見まねで身体を動かす。ギャラリーもたくさんいる、失敗したら恥ずかしい、そんな不安が時間が経つごとに少しずつ打ち消されていく。段々と周りの光景が薄れていき、心と身体が一体化していく。気づくと一心不乱にビートに合わせて踊る自分に気づく。な、なんだコレは! 踊りが終わったあとは、不思議な高揚感、そして予感があった。盆踊りってめちゃくちゃ楽しいんじゃないか? それからポツポツとであるが、各地の盆踊りに参加するようになって、その予感は「確信」へと変わっていった。

 人に盆踊りの楽しさを(やや興奮気味に)すると、「そういえば、子どもの頃は盆踊りやりましたねー」なんて回答が返ってくる。そういう話を聞くと、ちょっと羨ましい。実は大人になるまでまともに盆踊りに参加した経験がなかった。幼少の頃、地域の夏祭りのようなものはあったが、なぜか盆踊りだけがなかった。だもんだから、いまだに盆踊りのスタンダードナンバーである「東京音頭」「炭坑節」がまともに踊れない。高校生ぐらいになると、実家の目の前に位置する小さな公園で、毎年地元の青年団(といっても構成員は中年ばかり)による夏祭りが開催されるようになった。焼きそば、フランクフルト、綿菓子なんてお馴染みの屋台と一緒に、公園の中央に櫓が設置される。5日間ほど続く祭の期間は深夜10時まで盆踊り大会。ややノイズ混じりのテープ音源が大音量で流されるとともに、ドンドコと元気のいい太鼓のリズム。人生でもっともひねくれていた僕が近所の夏祭りになんて参加するはずもなく、毎晩夜遅くまで続く景気のいい祭り囃子に毎年イライラさせられていたのを覚えている。情緒なんてあったもんじゃない。特に神経のとがっていた受験シーズンの頃は、部屋のなかで参考書に向かいながら怒りの沸点を超えて「わー!」と叫びそうになったこと多々知れず。まあ、盆踊りにはあまりいい思い出がないのだ。

  それなのに、ひょんなことからこうして盆踊りにハマってしまったわけで、人生というものは分からない。ダイイチ、恥ずかしながら30歳を間近にして、まだ僕の人見知り、ネクラ性というのはティーンエイジャーの頃とあまり変わっていない。人前で踊ることに、抵抗がないわけではない。というか、やっぱり一人で未知の盆踊りに参加するのはいまだに気が引ける。一方で、好奇心はふくれあがり、もっといろいろな盆踊りに参加してみたいという気持ちが日に日に大きくなっていく。調べてみると、「東京音頭」や「炭坑節」、また佃島の念仏踊りだけでなく、全国には様々な形態の盆踊りが存在するらしい。というわけで一念発起した僕はひとつの試みに挑戦することにした。この夏をひたすら盆踊りに費やそう。未知の体験を通じて、何かブレイクスルーをするきっかけになるかもしれない。ならないかもしれない。よく分からないけど、まあ楽しいからいいではないか。

 というわけで楽しい盆踊りの日々のはじまりはじまり。

(小野和哉)


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小野和哉
1985年生、千葉県出身。制作会社勤務。ミニコミ誌『恋と童貞』編集長。好きなアイスは「チョコかけちゃったスイカバー」。盆踊りはまだビギナー。
「恋と童貞」公式サイト:http://ameblo.jp/koi-dou/

かとうちあき
人生をより低迷させる旅コミ誌『野宿野郎』の編集長(仮)。著書に『野宿入門』『野宿もん』『あたらしい野宿(上)』があって、野宿だらけ。神奈川県横浜市に生まれ、隣の町内に混ざって神輿を担ぎ、炭坑節と南区音頭を踊って育ちました。あと、アラレちゃん音頭が好きだった記憶あり。

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