第6回「坊さんが熱狂ダンスで客を煽る! 曹洞宗大本山總持寺御霊祭り」(神奈川・横浜市鶴見区)
(2014/8/25)
とんちんかんちんな盆踊りを発見
一休さんのテーマで大盛り上がりする盆踊りがある。
その噂は以前より耳にしており、ぜひとも行きたいと思っていた。だって一休さんっておかしいじゃないのさ。
昔からアニメ作品をテーマとした音頭はあった。オバキュー音頭、アラレちゃん音頭、ドラえもん音頭、新しいところではポケモン音頭。夏になるとエンディングテーマが音頭調になるというのは、一昔前のアニメでは恒例行事。しかし、一休さんのオープニングテーマ『とんちんかんちん一休さん』は盆踊り唄では決してない。でも、踊っちゃうらしい。なんでやねん。また話によると盆踊りでは、お寺の若いお坊さんがやぐらの上に立って、チャラいノリで踊る客をあおるらしい。かなり気になる。どんなもんなのか、実際に見てみたい。踊ってみたい。
さっそく踊りの先輩、かとうさんを誘うと二つ返事でOK。さすが、話が分かる方だ。
場所は横浜市鶴見区にある曹洞宗大本山總持寺。ちなみに一休さん本人は臨済宗だとか。どういうことなんだ。南無三だ。そこら辺の宗派の関係については疎いのであまり深堀りしないが、まぁあまり細かいことは気にしないようにしよう。
ヤングな坊さんがお客さんを誘導
鶴見の駅で待ち合わせをして、さっそく總持寺へと向かう。ちょっと遅刻してしまったので早歩き。道すがら、意外にも祭り会場へ向かうようの風体の人はいない。え、この祭り、そんなに盛り上がってないの? が、そのハテナは会場の入り口にたどり着いた時、あっさりと破壊される。月並みの表現で申し訳ないが、人、人、人。人の海だ。なんじゃこら!と、かとうさんと驚愕。
おそるおそる中に入ってみると、本堂へと続く道がこれまた大混雑。クロールするように人をかき分けないと前に進めないくらいだ。立ち並ぶ屋台に意識を引かれつつも、盆踊り見たさにグイグイと前に進んだ。
しばらくすると、目の前に立派な門があらわれた。近づくと視界からあふれてしまうような大きな門。そのデカさに圧倒される。そして、いやが上にもテンションが高まる。總持寺總持寺の規模についてまったく予備知識がなかったのであるが、相当に大きなお寺であるようだ。
門をくぐると2度びっくり。急に視界が開けて、広大な空間があらわれた。え、こんなに広いの? 遠くから聞こてくる祭囃子。どうやら本当にここが会場らしい。そして、この場所にもやっぱり人、人、人。そして、道を行き交うたくさんのお客さんを誘導しているのは正真正銘のお坊さんだ。でたー、お坊さん! みなさん、甚平を着て、坊主頭に手ぬぐいを巻いている。
「わたし、坊主頭フェチなんですよねえ」と出し抜けにかとうさん。そ、そうなのか。続けざまに「でも、手ぬぐいを巻いているのでガッカリです。坊主頭を見せて欲しい!」と主張。本気で残念がられているようなので、坊主頭への相当なこだわりがうかがえる。しかし、今はそんなことより、盆踊りなのだ。
いきなりポンコツ花火の洗礼
なおも人ごみのなかを進んで行くと、ようやく盆踊りにやぐらが見えてきた。が、肝心の音頭が聞こえてこない。というか、人はいるけど、みんな踊ってない。どういうことだ?といぶかしがっていると、やぐらの上の坊主たちが絶叫しはじめた。
「さー、皆さんもっと下がってー。これから花火をやるから危ないですよー。皆さん花火を見たいですよねー、さあ下がって下がってー!」
どうやら、盆踊りの中休みに花火をするプログラムのようだ。盆踊り+花火なんて、なんちゅう贅沢。それにしても、イメージを覆すお坊さんたちのラフな喋り方にビックリする。
「これから雨が降りますよ。その前に花火みたいですよね!? 一休さん踊りたいですよねー!?」
え、雨降るの?なんて目を丸くしていると、空からさっそくパラパラと小雨。うわー、せっかく来たのにマジか。中止なのか。そんな状況でもやぐらの上のヤング坊主たちは「もうちょっと下がってー、もうちょっと!」と必死にアナウンス。まあ、花火はたいして興味ないけど、盆踊りはやって欲しい。遅れてしまったから自業自得とはいえ、どうしても一休さんは見なくては、踊らなくてはいけない!
お坊さんたちの指示に従ってじりじり後ろに下がっていると、ようやく花火大会がスタートした。ボカーンボカーンと空に打ち上げられ夜空を染める火の花。不意打ちだったけど、今年初めて見る花火なので少し感慨深いものがある。大規模な花火大会にはもちろん劣るが、間近で見ているとなかなか迫力があっていい。
なんというか荒削り。洗練されていないが、野生の力強さを感じるような不思議な花火である。
人ごみの向こうがぼおっと赤くなる。少し離れていて見えないが、どうやらナイアガラをやっているらしい。まるでちょっとしたぼや騒ぎでも起こっているかのように、煙がもうもうと立ちのぼっている。花火というより、火事。このワイルドさもたまらない。隅田川の花火大会が「メジャー」なら、總持寺の花火大会は「インディーズ」、と例えてみる。
ひとしきり花火が炸裂すると、再びワイルド坊主たちが喋り出す。「よーし、それじゃあ最後に一休さんを一曲踊るかあ!」。え、最後なの? もう、終わりなの? スマホの時間表時を見ると、まだ20:30。事前に調べたところ終了時間は21:00とあったため、遅刻したことも原因だが、これから予想される雨の本降りに備えて早めに切り上げるつもりらしい。ヒャー残念と思いつつも、もうどうしようもないので、その一回を全力で楽しむしかない。かとうさんとダッシュで踊りの輪、最前線に加わる。
一休さんで爆発、熱狂する盆おどラーたち
花火が終わって出口に向かう客と逆行して走り、やぐら付近に到着すると、あれまあビックリ。若者しかいません。何度目をこすっても、二度見をしても、やぐらのまわりにいるのは若者たちばかり。
「盆踊りといえばおじいちゃんおばあちゃんが主役でしょ?」
この考えはあながち偏見というわけでもなく、実際に僕がこれまで参加した限りだと一般的な盆踊りはある一定以上の年齢の人が大半を占めるというのは実感としてある。若くてせいぜい20代か大学生くらい。ところが總持寺の盆踊り会場ときたら、高校生と見受けられる子がゴロゴロといる。いやがる。圧倒的に平均年齢が他の会場より低い。おいおい、一体どんな盆踊りなんだよ! 期待の気持ちが溶岩となって大噴火する。
「それじゃあ、一休さん!」
かけ声とともに、オーディエンスがドッ。本当に「ドッ」という音が聞こえてきそうなくらいに、盛り上がる会場。そして、なだれ込むかのように一休さんのテーマソングが鳴り響く。「きた!」と思った瞬間、周りの人間が急に活力を取り戻したかのように一斉に動き出す。え、まだ心の準備ができてないんだけど!?
「イチ、二、サンシ、みーぎ! ひーだーり! イチ、二、サンシ、ひだり! みーぎ!」
坊さんたちの威勢のいいコールに呼応して、右に左忙しく動き回る人々。いままでの盆踊りと全っ然雰囲気が違う。足の華麗な運びとか、手先のしなやかさ、そういった技術は一切関係ない。ただ楽しいという情動に素直にしたがって動く。そういう踊りだ。
「ハイ! ハイ! ハイ! ハイ! ぅー、ハイ!」
「あいしてるー!」
「あー、あー、なむさんだー!」
「ほーっぺ! ほーっぺ!」
「オイオイ! オイオイ!」
ちなみに、最初の「ぅー、ハイ!」のところではお客さん全員でジャンプしています。なんじゃ、そのアグレッシブさは……。
およそ「通常」の盆踊りとはかけ離れた、コール&レスポンス、そしてシングアロング。だ、ダメだ、追いつけねえ!と右往左往する僕とかとうさん。しかし、この熱狂的な空気に慣れることができれば踊りは簡単だ。というのも、歌の途中でいちいち坊さんによってシャウトされる掛け声がそのまま踊りのガイドになっていて、例えば「みーぎ、ひーだーり」という掛け声では、その通り右と左に交互に動けばいいし、「ほーっぺ! ほーっぺ!」という謎の掛け声では、人差し指で両方のほっぺたを指して、一休さんのように愛嬌をふりまけばいいわけだ。実にビギナーに優しい踊り。覚えやすいので、すぐ踊りの輪に同化することができる。やぐらの上の坊さんの軽快な動きも面白い。そして繰り返すけど、踊ってるお客さん、みんな若い!
ショート&ファスト&ラウド
が、ここでひとつの罠が。通常の盆踊りだと10分以上曲が続くことはざらであるが、一休さんのフルコーラスはあまりにも短い。ようやく踊りの全貌がつかめたなー、というところで、曲が終了してしまったの。「え、もう終わりですか?」とかとうさん。踊りながらお坊さんの写真をバシバシ撮っていたけど、あまりにあっさりと終わってしまったので取り残されたかのようにキョトンとしている。
「まだ、明日もあるから来てくれよなー」というシメの言葉も飛び出してしまっているので、いよいよ本当に今日の盆踊りは終わりらしい! なんということでしょうか。狙い澄ましたかのように、先ほどからぽつぽつと来ていた雨が本降りとなっていく。潮が引くようにサーッと出口に向かって動き出す観客。あれよあれよという間に雨脚は土砂降りの様相を呈してきたので、僕とかとうさんもやや消化不良を抱えながら、駆け足で会場を後にした。まだ時間も浅いので、取りあえず駅前の定食屋に二人で駆け込みビール。「踊り足りねえなー」を連発しながらほどよく酔ったところで解散となった。
雨が残念だったが、それにしても面白かったことは間違いない。帰りの電車のなかで先ほどの熱狂を思い出す。「盆踊りってこういう形であってもいいんだ」という発見。形式とか伝統ではなく、ただ輪の中に入ればいい。そして楽しめばいいのだ。
ここでいきなり昔話がはじまる
高校時代のことをふと思い出した。僕のいた高校は伝統的に学園祭にやたらみんな力を入れており、手を抜くクラスはひとつもない。ビバ青春!という雰囲気が蔓延しており、その手のノリが苦手な者は自然にあぶれものとなっていく運命だ。
後夜祭では、生徒がオリジナルダンスを踊るのも名物のひとつとなっている。もちろん盆踊りではなく、当時流行していたユーロビートにのせた現代風のダンス。全校生徒が体育館が揺れるほどに激しく踊る。それがティーンエイジャーたちには無性に楽しいらしい。とにかく生徒たちは踊ることが楽しみで、学園祭の準備期間中はこぞって教室の隅でダンスの自主練をしていた。体育館のステージで踊る選抜メンバーは、女子たちの憧れの的だった。
そんな妙なダンス文化が根付く高校だったのだ。總持寺の盆踊りはまさに「文化祭」といったエネルギッシュでヤングな雰囲気で、あの高校時代のダンスをつい思い出してしまったのである。
当時の話に戻ると、ご多分に漏れずあぶれものチームに属していた僕は、その他のぼんくらメンバーたちと一緒に体育館の隅に寝っころがってみんなが熱狂してダンスする様子を毎年ボンヤリと眺めていた。ダンス参加は強制ではないので、特に文句を言われることもない。ただ自分たちで腐っていくだけだ。
しかし実のところ、あの熱狂の渦のなかに入ってみたい、という気持ちがどこか自分の心の中にあったのも確かだ。盆踊りに目覚めたのはつい最近だし、踊りに対してなにか特別な思い入れがあったわけではない。この連載のプロローグで高校時代に自分がネクラだったことについて述べた。しかし、自ら望んで暗くなっていったわけではもちろんない。由来不明のなんだかよく分からないプライドとか意地とかが斜に構えた態度として表出して、意に反して「ダメ」な方向に自分を走らせたようだ。勇気を持って一歩踏み出し、あのダンスのなかにジョインしていたら、自分の人生も大分変わったものになったかもしれない。
何の因果か、大人になって僕は各地のダンスの輪の中で踊り狂っている。一体、どうしてしまったというのだ。別にそんな意図はないはずなのだけれど、日々踊りながらあの高校時代に抱いていた自分の気持ちを回収しているのかもしれない。そんな思いに駆られた總持寺の盆踊りであった。
(小野和哉)
小野和哉
1985年生、千葉県出身。制作会社勤務。ミニコミ誌『恋と童貞』編集長。好きなアイスは「チョコかけちゃったスイカバー」。盆踊りはまだビギナー。
「恋と童貞」公式サイト:http://ameblo.jp/koi-dou/
かとうちあき
人 生をより低迷させる旅コミ誌『野宿野郎』の編集長(仮)。著書に『野宿入門』『野宿もん』『あたらしい野宿(上)』があって、野宿だらけ。神奈川県横浜市 に生まれ、隣の町内に混ざって神輿を担ぎ、炭坑節と南区音頭を踊って育ちました。あと、アラレちゃん音頭が好きだった記憶あり。
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