今日も盆踊り

第13回「現代に誕生した肉食系音頭! 池袋のにゅ〜盆踊り 」(東京・豊島区) 

(2015/6/2)

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池袋に盆踊りの新定番が爆誕!

 古くから伝承される盆踊りもあれば、新しく生まれる盆踊りもある。というわけで池袋で『にゅ〜盆踊り』というイベントがあると聞いて、気になっていたのだ。「にゅ〜」というのは、もちろん「NEW」ってことだ。おニューな盆踊りってどんな感じ? 調べてみると、著名なダンサーさんが振り付けを考えた音頭で踊るらしい。ふむふむ。

 場所は池袋西口公園。いわゆる池袋ウエストゲートパーク。東京芸術劇場の真ん前だ。隣駅の目白で勤めていた経験もあるが、なぜか池袋には疎い私。スマホの地図とにらめっこしながら、会場にたどり着いた。少し遅れたせいか、既に多くの人が公園の広場に集まって、何やら踊っている。広場の中央にはやぐらがあり、その前方には中規模のステージが設置されている。お囃子はステージで、ダンサーはやぐらの上、という配置のようだ。さあて、自分も混ざろうかしらとおもっていたら、雨。しかも、けっこう大降りの。

 イベント参加者らしき人々が芸術劇場に避難している。あれまこれまと、自分も着いて早々に退避。後から野宿野郎のかとうさん、本連載の担当編集者の宮川さんも来るらしい。よーし、適当に合流しようと、取りあえず雨が止むのを待つ。

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 チロチロと小雨になったところで、スタッフが「はじまりますー!」とアナウンスしはじめた。待ってましたとばかりに、そこかしこから人々が広場に集まってくる。

 公式ホープページを見ると、今回の『にゅ〜盆踊り』を作ったのはダンスカンパニー”コンドルズ“を主宰するダンサー・振付家の近藤良平さんという方。このイベント自体は、文字通り近藤さんが“音頭”をとって2008年から続いているらしい。新しいけれど、既に池袋の夏の定番イベントとなりつつありようだ。ダンサーの人がつくった盆踊り、果たしてどのようなものだろうか。期待が高まる。



合いの手は「あひ〜」「あふ〜」「しゃー!」

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 一般的な盆踊りイベントだと、他の人が踊っているのを見よう見まねで真似て踊りを覚えていくというのがほとんどだが、にゅ〜盆踊りはオリジナルの盆踊りということもあり、初めての人に向けてイチから踊り方をレクチャーしてくれる。僕が来る前にも一回講習があったようだが、仕切り直しということで、もう一度レクチャーがはじまる。が、この振り付けがぶっ飛んでいる。

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 まず掛け声が「あひ〜」だ「あふ〜」だ「しゃー!」と、ともかくケモノチック。動きもそれに乗じて、ダイナミック。マグロの一本釣りのような仕草、蟷螂拳(とうろうけん)のように両手を鎌状にして左右に揺れる仕草、これまた両手をグワシと掴む様な形で前に突き出して咆哮する仕草、かと思えば腰と指をくねらせるセクシーなポーズもありで、ともかくアグレッシブで楽しい。求められるのは細やかな所作の美しさではなく、とにかく楽しさ重視の大胆ダンス。まさに肉食系盆踊りだ。

 また特徴的なのが、踊りの輪が二重になっていて、常にパートナーが存在するというところ。なにで基本がペアの人と向き合って踊ることになる。これが小心者の自分にはちょっと、いや大分気恥ずかしかったりする。ただ向き合っているだけでなくて、踊りながらクロスをしたり、ハイタッチをしたりと絡みもある。もちろんセクシーダンスも向き合ってやるのだから、端から見れば求愛ダンスな感じ。なんつー羞恥プレイ! たまに盆踊りで隣同士で手をつなぐやつがあるけど、あれ苦手なんだよー、と不安がつのる。ちなみに踊りが一巡すると列がずれて、ペアが交替する。これをずっと繰り返していくのだ。


阿呆ダンスが“もうどうにもとまらない”!

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 講習が終わり、いよいよ本番。いまだかとうさんと宮川さんが来ない様子なので、当然まったく知らない人たちとペアになって踊る。ただでさえ向き合ってるのに、さらに踊りの振り付けがユニークなので、思いっきり照れてしまう。が、こうなったら弾けるしかない!と腹を決めて「あふー!」「しゃー!」と踊る。で、これが続けているとだんだん恥ずかしさがなくなって、不思議と楽しくなってくるのだ。くそ、これ完全に主催者の罠にハマってないか!?

 参加者の中には老いも若きも男も女も、そして外国人の方もいたりする。池袋という大都市が会場のせいか、やっぱりいろいろな人が飛び込んでくるようだ。が、おかまいなしに向き合って「しゃー!」。わはは、これは楽しいぞ。と、興に乗ってくる。うーん、楽しいな。

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 イベントではにゅ〜盆踊り以外の曲もかかる。盛り上がったのは美空ひばりの『お祭りマンボ』。お祭りマンボで踊るのははじめてだが、心揺さぶるマンボのリズムと、高速テンポが盆踊りにピッタリで気分が上がる。

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写真提供:プロジェクト大山

 突如、正面のステージにセクシー美女たちが殺到。なにごとか?と注目すると、会場に流れた曲は山本リンダの『どうにもとまらない』。曲はお馴染みだが、振り付けは完全オリジナルのようだ。こちらも、にゅ〜盆踊り同様に(いい意味で)やりたい放題。肩を挑発的にくねらせたり、足を蹴り上げて生足をチラ見せたり、歌詞に合わせて蝶蝶の様に腕を広げたり閉じたり、挙げ句の果てに大股おっぴろげの振り付けもあって、会場からは「おお〜」と感嘆の声が。め、めちゃくちゃカッコいい! カッコよすぎる! もはや一般的な「盆踊り」を超越した動きであるが、そんなの関係ない!ってくらいにすごい。

 と、興奮しながら見物していたら、これをみんなで踊るのだという。え、これを踊るのかい!? ということで美女たちはやぐらに移動。問答無用で山本リンダ、スタートである。はっきり言って、踊りはにゅ〜盆踊りよりも断然に難しい。うぎゃーと心の中で叫びながらなんとかついていくが、やはりこれも踊っているとちょっとずつ楽しくなってくる。周りを見渡すと、男も女も大股おっぴろげて楽しそうに踊っている。マジか。曲が間奏部分に入るとダンサーさんたちの独壇場。シロウトでは到底真似できないようなスーパーダンスを繰り広げて場を盛り上げる! 拍手喝采。そしてまた歌がはじまると全員で踊り出すのだ。うわ〜、これは盛り上がる!

 そして再び、にゅ〜盆踊り。もうこの時点だと何の恥じらいもなく踊れる。「あひ〜!」「あふ〜!」を連呼しながらダンス。次々と踊りのパートナーが変わって行くのも楽しい。気づくと輪は二重、三重、四重にもなって広場いっぱいに広がっている。自分のように浴衣を着ている人はむしろ少なく、普段着の、いかにも通りがかりで飛び入り参加したという感じの方々ばかり。一般の人たちを踊りに巻き込むにゅ〜盆踊りの力、すごいなあと思う。


「盆踊り」と聞けば、みんなが踊り出す

 祭り終了。結局、宮川さんは別用があるということで先に帰ってしまっていたようで、合流したかとうさんと公園近くの「やるき茶屋」で打ち上げ。スイカバーサワーなどワケのわからない酒を飲みながら「にゅ〜盆踊り、動きがすごい」「どうにもとまらない、カッコいい。また踊りたい」と、興奮を共有。ひとしきり感想を述べ合った後に解散した。

 帰りの電車の中、まだ「あひ〜!」と「あふ〜!」がぐわんぐわんと鳴り響く頭で、先ほどの盆踊りを振り返っていた。冷静に考えると、池袋西口公園の広場を埋め尽くすほどの多くの人が、奇声を上げながら一緒に踊っている光景ってすごくないだろうか。しかも会場にいる人たちは、いかにも盆踊り好きって感じではない。普通の人たちがちょっとハメを外して、純粋に楽しみからダンスに興じる光景を実現させている。あらためて「盆踊り」というカルチャーのすごさ、もっと言っちゃえば「異様」さに驚く。

 にゅ〜盆踊りは、そんな日本独自の踊り文化に現代的なダンスの要素を取り入れたミクスチャーという感じ。池袋の地に新たに芽生えたこのおニューなダンスカルチャーは、これからも地域に根付いて人々を阿呆で愉快な踊りの世界に誘ってゆくのだろう。

(小野和哉)

小野和哉
1985年生、千葉県出身。制作会社勤務。ミニコミ誌『恋と童貞』編集長。好きなアイスは「チョコかけちゃったスイカバー」。盆踊りはまだビギナー。
「恋と童貞」公式サイト:http://ameblo.jp/koi-dou/

かとうちあき
人 生をより低迷させる旅コミ誌『野宿野郎』の編集長(仮)。著書に『野宿入門』『野宿もん』『あたらしい野宿(上)』があって、野宿だらけ。神奈川県横浜市 に生まれ、隣の町内に混ざって神輿を担ぎ、炭坑節と南区音頭を踊って育ちました。あと、アラレちゃん音頭が好きだった記憶あり。

 

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