今日も盆踊り

第8回「踊りも祭りもアメリカンサイズ! 米軍基地キャンプ座間の盆踊り」(神奈川・座間市) 

(2014/11/4)

bondancetop

 

日本で海外の盆踊りを体感する

 ボン・ダンス。

 盆踊りを英語でいうとつまりはそういうことである。なんというか、嗚呼、果てしなくカッコわるい。盆踊りは「盆踊り」のままでいてほしいのであるが、実際『Bon Odori Festival』というイベントがあるのだからしょうがない。何かというと、座間の米軍基地で夏に開催される盆踊り大会の名称である。日本語では『日米親善 盆踊り大会』と表記される。

 最初に米軍基地で盆踊り大会をやるらしいという話を人から聞いた時、私は色めき立った。以前から、海外でも盆踊り大会が行われていることを聞いており、特にハワイやブラジルなどの日系人コミュニティのある場所では盛んだということは知っていた。ハワイの盆踊り、ぜひいつか行ってみたいという思いはあったのだけれど、いかんせん海を渡るのはややハードルが高い。っていうか、29歳にしていまだ海外旅行ドーテーでパスポートも持っていない私である。ハードルはバベルの塔のごとく天井知らずに高くなっていく……。

 しかし、米軍基地なら海外に行かずとも、お手軽に異文化盆踊りの空気感を楽しめるのではないか! さっそく、米軍基地の盆踊り大会について詳しく調べることにした。

 

身分証明書が必要な盆踊り大会

 イベントの詳細について確認してみると、いきなり大きな壁が立ちはだかった。なんと、米軍基地のゲートをくぐるには顔写真付きの身分証明書が必要だというのだ。先にパスポードを持っていないと述べたが、まさか日本の敷地内でも立ち入りにパスポートが必要な場所があるとは思わなかった。いや、パスポートでなくとも免許証でもOKなのだが、免許証も持ってない「若者の車離れまっしぐら」の自分。うーん、これは困った。

 まず考えたのが、これを機に免許所を取得してしまおうか、という素直な発送。まあ、ゆくゆくはハワイの盆踊りに行くかもしれないし、ここで免許証をとっておけば、念願の顔写真入り身分証明書が手に入るわけだ(それまでは健康保険証が身分証明書だった)。がしかし、取得には一万円とかそこそこのお金がかかるらしい。そしていろいろ手続きで一週間はかかるらしい。実はパスポートについて考えている時点で、盆踊り大会まで一週間を切っていた。どうしても間に合わない。詰んだ。

 いや、まだだ。ひとつ可能性が残されている。住民基本台帳カードだ。住んでいる自治体で発行されるあのカード。顔写真付きで、しかも手続きはめちゃくちゃ簡単らしい。すぐに手に入るということも分かったので、さっそく近所の役場に直行した。簡単な説明を受け、書類にホニャララと書いて、あとは郵送で送られて来る書類を待つのみだ。それにしても手続きの時に聞いた「まあ、この自治体では住基カードでできることって何もないんですけど」という説明はしびれた。いまのところ、本当にただの身分証明書としてしか機能しないようだ。というわけで、首尾よく米軍基地へ入場する夢のチケット(住基カード)をゲットしたのであった。

 

浴衣姿でボディチェック

 米軍基地の盆踊りを人に話すと「座間って沖縄?」とか「埼玉だっけ?」といろいろ間違われる。正解は神奈川県だ。いまいち人から理解されていない座間(自分の周りだけか?)。正直、自分もよく分かっていない。

 最寄り駅は小田急小田原線「相武台前」駅。そこからバスで数分の場所に米軍基地はある。到着して門の前で待っていると、一人の男性が駆け寄って来た。デイリーポータルZなどのWebサイトで記事を書いている大北栄人さんだ。僕がTwitterで「米軍基地の盆踊りってあるんだー!」などとギャーギャー騒いでいたのが目に留まり、記事のネタとして興味を持たれたらしく、「一緒に行ってもいいですか?」と声をかけていただいたのだ。「米軍基地」「盆踊り」というマジックフレーズの組み合わせは、かくも人を魅了するのだ。

 会場の入り口はゲートになっていて、荷物検査やボディチェックが行われている。史上最強に物騒な盆踊りだ。駅のトイレですでに着替えてきていた僕は浴衣の状態でボディチェックを受ける。なんというか我ながら珍妙な光景だ。僕の後に続いて入ってくる浴衣姿の人たちも次々とボディチェックをされていく。写真を撮らなかったことが悔やまれる。

 

遊具もオモチャもアメリカン

 

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 敷地に入るとまず見えてきたのがバルーンでできた巨大なアトラクションだ。キャラクターを模したバルーンので中で飛び跳ねる子どもの遊具をたまにイベント会場で見かけるだろう。あんな感じの巨大バルーンが5つほど広場に並んでいる。大きな滑り台や丸太小屋のようなバルーンもあって、そのバリエーションの豊富さとスケールのデカさに驚く。ここにジェットコースターとか観覧車もラインナップに加えて、全部バルーンの遊園地なんてあったら面白そうだ。

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 さらにグイグイと敷地内に進むと、道なりにズラーッと屋台が並ぶ祭りらしい光景が見えて来た。さすがアメリカというだけあって、出展される屋台も大陸級。何だか得体の知れない肉塊がいろいろと売られている。隣の大北さんは七面鳥の脚に興奮。「あれ、七面鳥ですよね?」と、しきりに口にしている。そして本当に買ってしまった。どう考えても一人じゃ食いきれない量。巨大な肉は人の判断力を狂わせる。スイーツも米軍基地の祭りはひと味違う。だってチーズケーキが売ってるんだもん。りんご飴とかチョコバナナとか、そんなしけたもんじゃない。チーズケーキだ。「日本の祭りでチーズケーキ、まず見ないですよね」と再び大北さん大興奮。そして、これも買ってしまう。ヤバい、完全にトランス状態だ。とある屋台では、キッズたちがワイワイ言いながらお菓子を作っている。そしてなぜか屋台の前には長蛇の列。なにか?と観察してみると、巨大なパンのようなものに粉砂糖をバッカバッカかけたカロリーの親玉みたいなものを売っている。これが日本なら綿菓子やポン菓子というのが関の山だが、米国流は粉砂糖をバッカバッカかけた「何か」だ。スケールが違う。

 売っているのは食べ物だけではない。例えば衣類品を売っているお店。通常の店だと目ん玉ひんむくような値段で売られているアウトドア系のジャケットなどが、かなりの格安価格で売られていたりする。これはけっこうすごい。子ども向けのオモチャも充実している。場所柄なのか、多いのはミリタリー系のオモチャ。素人目に見ても本格的な雰囲気のエアガンなどが並ぶ。ボタンを押すと七色の愉快な音がでるレーザー銃は男子たちに大好評で、あちこちで「ピュルルルル」「ビカビカ!」とサイバーな音が鳴り響いている。個人的には、いかにもアメリカ人が好みそうな忍者の武器セットが一番気になった。

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緑のなかにぽつんと立つやぐら

 

 お店を一通り冷やかした後は、いよいよ盆踊りの会場へと向かう。途中で手に入れたパンフレットを見ながら案内に従って屋台の中を歩いて行くと、急に視界が開ける。辺り一面、緑の芝生に覆われたその敷地は、どうやら野球のフィールドらしい。その真ん中に、ポツンと白い建造物が見える。

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 やぐらである。真っ白な骨組みに、カラフルな提灯。そして芝生。青空。普通の盆踊りでは、なかなか見ない色調だ。これだ。これぞ、アメリカだ! フィールド・オブ・ドリームスだ! よく分からない興奮がこみ上げてくる。アメリカ行ったことないけど。やぐらの前にはこれまた白い台座と、無数のパイプ椅子が並んでいる。VIP席だ。すごい、盆踊りのVIP席があるぞ! これもまたアメリカである!と感動が襲いかかる。

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 ひとしきり感動したところで、些細ながら大事なことに気がつく。現在、16時。パンフレットを見ると、盆踊りの開始時刻は18:40だ(ちなみにパンフでは盆踊りのことを『Bon Tower Event』と表記している)。おい、盆踊りまで2時間以上あるじゃないか! 「早く来すぎましたね」と、僕と一緒にアメリカ式やぐらに興奮していた大北さんがつぶやく。そうだ。それまでどうしよう。仕方なく、盆踊り会場近くの音楽ステージで何か食べながら時間をつぶすことにした。大北さんは買って来た七面鳥とチーズケーキにパクつく。僕は僕でマンゴーシロップと果肉がたっぷりかかったバカでかいかき氷を食べる。ステージに立つのはブラスバンド風のオッサンたち。

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 それに続くのは、「Samurai of Rock」というコピーバンド。全般的にゆるい雰囲気が漂うが、総じてやたら演奏レベルが高いのが特徴だ。

 

かけ声は「ワン・ツウ・スリー・フォッ……

 ぼんやりしていると、いよいよその時間がやってきた。ヨイショと腰を上げて、先ほどの盆踊りステージに向かう。さすがに開始直後となると、周辺にパラパラと人が集まってきている。VIP席には関係者たちが座って、いまかいまかと祭りの開始を待っている。やぐらの近くでは、着物で着飾ったアメリカ人の方々が輪をつくって盆踊りの練習をしていた。

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「ワン・ツウ・スリー・フォッ……」という掛け声はまさに米軍基地ならでは。ちなみに、盆踊りはチーム制となっており、やぐらの上では20ほどのチームが入れ替わり立ち代わり交替で踊るらしい。そのやぐらを囲むようにして一般参加者が踊れるようになっている。というわけで、さっそくやぐらの近くに駆け寄る。

 まだ初っ端ということもあり、踊りの輪を囲む人はまばら。そのくせ、輪の大きさは妙にデカイ。前後に並ぶ人の間隔が広めで、やや心細い思いをしながら盆踊りスタート。

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 曲目は少なく東京音頭、炭坑節といったスタンダードナンバーから、ソーラン節やご当地の相模原音頭というラインナップで、それらの曲が順繰りに流れるという感じ。やぐらの上では、一曲ごとにチームが交代して踊る。アメリカ人ばかりのチームもあれば、日本人のチームもあり、割とごった煮だ。踊りながらあたりを見回すと、輪の中にも浴衣を着たアメリカンが多数。しかも、全然オレよりうまいじゃないか! 踊り好きの間に囲まれて踊るのもアウェーだが、ここでは別のアウェー感がある。特にソーラン節やら相模原音頭はほとんど初めて踊る音頭なので、勝手が分からない。例によって踊りのうまそうな人を見つけて、その方の後ろで見よう見まねで踊る。そのぎこちない姿を、取材でやって来ている大北さんがバシャバシャと写真に撮るので恥ずかしい。

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 時間が経つにつれ、どんどんと人が増えてくる。アメリカ人の参加者の年齢層は小さい子から、フレッシュ感あふれるティーンエイジャー、踊りに慣れた感じの年配の方まで幅広い。熟練風の日本のおばちゃんが、アメリカ人に踊りを教えている光景もチラホラ見かけて、何だか微笑ましい。服装は普段着の人が多いが、浴衣を着ている方もけっこういる。女性は言うまでもなくキレイだし、男性もなかなか渋く決まっている。特にオッサン外国人が浴衣を着崩しているのは妙にセクシーだ。YUKATA、海外でも流行るんじゃないか。

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 踊りの輪の中ではあまり分からなかったのだが(自分のことでいっぱいいっぱいになってしまった)、大北さんによるとアメリカの方々もかなりノリノリで踊っていたらしい。日常にパーティーが浸透している彼ら/彼女らの目には日本のダンスパーティーがどのように写るのだろうか。そんな懸念もあったが、踊ってしまえばみんな同じである。盛り上がるしかない。

 たっぷり2時間ほど踊って盆踊りフェスは終了。イェー!という歓声とともに踊りが締めくくられる。ベリーお疲れ様でした。

 

花火に背を向けて

 さあ帰ろうと会場から離れると、すぐ近くにものすごい人だかり。のぞいてみると、DJブースを囲んで人々がガンガン踊っているのだ。このリア充感、盆踊りの比ではない。日本の祭りで、こんな光景見たことないぞ……。しばし呆気にとられる大北さんと僕。

 再び歩き出すと、周辺の灯りがふと消える。どうした⁉︎と思った瞬間に、ドカーンと空中で炸裂音。花火だ。余興程度に二三発ぶっ放すだけかと思ったら、会場を出て駅に向かって歩いてる最中も、ずっと背中で花火がどんぱち鳴り響いている。振り返ると大きな大輪が何度も夜空に咲く。無駄にスケールがデカいのだ。花火もアメリカンサイズ。途中、さしかかった陸橋に人がずらりと並んで、呆けた顔で空を眺めていた。この無防備な感じが好きだ。花火は人をアホにさせる。踊りも人をアホにさせる。アホに国境はないのである。

(小野和哉)

小野和哉

1985年生、千葉県出身。制作会社勤務。ミニコミ誌『恋と童貞』編集長。好きなアイスは「チョコかけちゃったスイカバー」。盆踊りはまだビギナー。
「恋と童貞」公式サイト:http://ameblo.jp/koi-dou/

かとうちあき
人 生をより低迷させる旅コミ誌『野宿野郎』の編集長(仮)。著書に『野宿入門』『野宿もん』『あたらしい野宿(上)』があって、野宿だらけ。神奈川県横浜市 に生まれ、隣の町内に混ざって神輿を担ぎ、炭坑節と南区音頭を踊って育ちました。あと、アラレちゃん音頭が好きだった記憶あり。

 

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