第7回「縦横無尽に会場を飛び跳ねる! 会津のかんしょ踊り」 (福島・会津若松市)
(2014/9/24)
あの盆踊りに、また会いたくて
一目惚れした盆踊りに再会するため、一人旅へと出かけた。福島に。
数年前、まだ盆踊りにハマりたての頃にふらっと参加した東京の盆踊り大会がきっかけだった。そこで披露された踊りが、福島の「かんしょ踊り」だ。当時まだ僕は盆踊りビギナーだったので、踊りの輪に入るだけでビクビク。しかも付き添いもなく、一人で盆踊りに参加するのはほぼ初めてだった。そんな状態で勇気を出して一歩踏み出し、踊ってみたらこれが妙に楽しかった。
後で調べてみると、そのかんしょ踊りというものが、最近になって有志の手によって普及活動が行なわれている昔ながらの盆踊りだということが分かった。踊り普及の担い手となっているのが、「かんしょ踊り保存会」という団体。公式ホームページをのぞくと、以下のように書かれている。
かんしょ踊り保存会は、2012年の6月に設立しました。会津の伝統芸能「民謡」の代表格「会津磐梯山踊り」の起源と云われる「かんしょ踊り」を、もっと多くの方に知ってもらい、踊り継いでもらえるようにと、会を発足しました。
会津磐梯山踊りというのはどこかで聞いたことがある。その起源となるのが「かんしょ踊り」なのだという。さらに、保存会のホームページに気になる一節があった。
「かんしょ」とは会津弁で「一心不乱、無我夢中になる様」を意味し、まさに言葉通り、当時は若者を中心に朝まで踊り明かしたそうです。
もうこの文面だけでワクワクしてくるのは、盆踊り好き特有の症状だろうか。一心不乱で無我夢中になる盆踊り。ああ〜、踊ってみたい。参加してみたい。が、このかんしょ踊りを体験できるのは、目下のところ保存会が主催や参加するイベントのみにほぼ限られるようで、しかも会津若松を拠点としているので、なかなか参加できるチャンスはないようだ。いつかきっと……そんな想いを抱いたまま月日は流れていった。
いよいよその時は来た
ある日、Facebookをぼんやりと眺めていたら、かんしょ踊り保存会の投稿が流れて来た。そういえば、保存会のFacebookページをフォローしていたのだった。投稿はイベントの告知で、しかしてテキストによる説明はほぼなく、ただイベントのポスターを撮影した画像が大きく掲載されるのみである。
かんしょ祭り。そのものずばりの名前だ。こんな祭りがあったのか!と、あわてて主催のかんしょ踊り保存会の公式HPをチェックするも、なんとイベントの詳細情報が見当たらない。え、どうすればいいの? どうしようもない。手がかりとなるのは、先ほどFacebookで投稿されていたポスターの画像のみ。しかも、ポスターそのものの画像ではなく、ポスターを近くから撮影した画像だ。画像ちょっと粗い。でもなんとか画像から開催場所と日時を確認する。よし、大丈夫。これを逃したらいつ参加できるか分からない。スケジュールを確認して、かんしょ踊りのために会津若松行きを決定したのだった。
さて、この夏はかんしょ踊り以外にも色々遠征をする予定なので、費用はなるべくおさえたい。ということで、会津若松まで鈍行列車で行って、その日のうちに夜行バスで東京に帰る計画を立てた。一日泊まって観光すればいいじゃんという声も聞こえてきそうだが、宿代だってケチりたいという貧乏根性。ちょっと町まで出かけて映画を観るくらいのフランクさで盆踊り遠征に行こうとしている自分に、われながらあきれかえる。
会津若松には郡山を経由して向かう。鈍行だと東京からの所要時間は7時間くらい。祭りは夜からだから、朝っぱらからでかければ、午後の早い時間には向こうに着くことができる。余裕があれば途中で猪苗代湖に立ち寄ることもできるだろうが、とにかく頭の中には踊りのことしかないため、バカみたいに真っすぐ会津若松駅に着いてしまった。
八重、野口英世、ソースカツ丼
駅から出ると若干の曇り空。実際、少し小雨もぱらついたりして、夏真っ盛りなのに、ちょいと肌寒いくらい。
実は前日から台風の到来が懸念されていて、四国あたりが大雨で大変なことになっていたため、今回のかんしょ踊りも中止の懸念があった。せっかく遠征したのに、雨天中止では残念だ。そこで、念のためFacebookを通じて保存会のページに「雨でもやりますか?」と問い合わせてみたところ、「朝から土砂降りでないかぎり、決行したいと思います」という大変心強いお返事がきたのだった。素晴らしい。
空を見上げながら、まあこの程度の雨なら確実に祭りは開催されるだろう、とひとまず安心。祭りまで時間があるので、周辺を散策してみることにした。
駅前のメインストリートを少し歩くと、ほどなくしてアーケードの商店街が現れる。お店が多くてなかなかしっかりした商店街。僕の地元のシャッター通りとは大違いだ。ところどころで見かけるのは、2013年に『八重の桜』として大河ドラマの主人公にもなった新島八重である。
まだまだ放送終了から一年しか経ってないということで、その余韻が町のあちこちに残っている。
そして、野口英世。
ものすごい勢いで野口英世推しである。あとから調べてみると、野口英世の出身は会津若松市の隣である現・猪苗代町の出身であるらしい。さらに10代の頃に医師を目指した英世は会津若松の会陽医院という病院に入門し書生として医学を学んだのだとか。幼い頃に火傷を負った英世が治療を受けたのも、この会陽医院だという。
やたらパーマを連呼する店。だんだん「パーマン」に見えてくる。知らない町を訪れると、こういう面白い風景でに出くわすのが嬉しい。
ソースカツ丼を売りにする店もよく見かけた。では会津若松がソースカツ丼発祥の地かというと、これまた調べてみると諸説あるらしく、東京の早稲田とか、群馬の桐生市とか、その他いろいろ自称「発祥地」はあるらしい。食べ物の「元祖」「発祥地」問題ってけっこうめんどくさそうだ。
当日で帰るにしても、なにか旅行らしいことはしておきたかったので、適当な洋食屋に入ってソースカツ丼を注文してみた。会津の郷土料理をまとめて味わえる「会津くいしん坊定食」。ソースカツ丼にさくら刺し、にしんの山椒漬けと盛りだくさん。丼の上でカツがはみ出るほどの存在感を放つのが会津のソースカツ丼なのだろうか。ともかくボリューミーで、食べた後お尻からそのままカツが出そうになった。
近くにお城もあったので行ってみることにした。鶴ヶ城である。「〜である」とエラそうに言ってみたが、お城の知識はまったくない。
案内板などを読んでみると、若松城とも言われ、江戸時代末期の戊辰戦争では新政府軍の攻撃に一ヶ月も耐えたそうだ。それにしても城っていうのは、まじまじと近くで見てみると、変な気持ちになってくる。これは家なのか、基地なのか、もっと別なものなのか。この現象を「城ゲシュタルト崩壊」と呼びたい。
やぐらが存在しない盆踊り会場
会津の町を堪能したところで、祭りの時間がきた。さっそく会場へと向かってみることにした。場所は銀行の駐車場を開放したスペースだ。
屋台が建ち並び、さらに会場の中心にはステージが用意されている。到着した時点ではダンスグループがパフォーマンスをしていたが、このステージに太鼓を持ち込んで演奏をするのだろう。それにしても、盆踊りになくてはならないアレが見当たらない。そう、やぐらだ。東京で初体験したかんしょ踊りではやぐらのまわりを回って踊ったのだが、これはどういうことだろうか。頭にハテナを浮かべているとステージのダンスが終わり、法被や着物姿のそれらしき人たちが登場した。いよいよかんしょ踊りのスタートらしい。
まずは練習コーナーからスタート。自分も踊ったのは数年前なので、ほとんどを覚えていない。これはありがたい。スタッフの人の動きを見よう見まねで真似する。
かんしょ踊りの動きはかなりシンプルだ。まず左足と左手を同時に突き出す。今度は右足と右手を同時出し。また左足と左手。続いては、これまでとは逆に左手足を後ろに引く、次に右手足を後ろに引く。最後は、素早く2歩前進して、前にピョンと跳んで手を叩く。これの繰り返しである。他の一般的な盆踊りに比べると、振りは少ない。なんだ簡単じゃないか。
ただ違うのは、テンポが速いのだ。最初こそゆっくりであるが、段々と動きが速くなっていく。シンプルな踊りであっても、スピードが増すと運動量も増す。ちょっと踊っただけで汗が浮かぶが「一心不乱、無我夢中になる」というキャッチフレーズもうなずける楽しさだ。
踊りの輪を無視して、むちゃくちゃに動き出す
練習が終わり、いよいよ本番スタート。ステージ上の囃し手が笛と太鼓の演奏をはじめる。
もちろん一般人も参加できるイベントであるが、最初ということでまだ様子見のお客さんが多いらしく、ステージ前に出て来たのは保存会らしき衣装を着た人が多い。自分は、というと当然ガマンすることができず、最初から踊りに参加する。
さて、やぐらがないけどどうやって踊るの?というのが気になっていたのだが、最初なんとなくみな反時計回りに輪を描いて踊っている。と、思いきや、輪の流れを無視して明後日の方向から、ぴょーんと飛び出してくる人も。な、なんだ?と思っていると、意外にも多くの人が輪の流れを無視して踊っている。か、カオスだ! 踊りと演奏が熱を帯びるごとに、フライパンの上で跳ねるポップコーンのごとく四方八方に動き出す。これは完全に「攻め」の盆踊り。た、楽しい!
動きがシンプルとはいえ、やはり踊りの醜美というものはある。上手い人を見ていると、手の振り上げ方、地面のキックの仕方が様になっている。どれが正解というのはない。上品なナリの年配女性は空気を優しくかき混ぜるように優雅に舞う。若い人は逆にアグレッシブな動きで魅せる。しばらく観察していると、腰をかがめて腕と腰をダイナミックに動かすのが一番カッコよく見えることが分かってきた。さっそく、自分の踊りにその型を取り入れる。
踊りが終盤になると、いよいよ囃子のテンポは加速度を増してくる。踊りながら、肩をぶつけないように人の合間をぬって駆け抜ける爽快感。夢中になって汗を流していると、盛り上がりが最高潮に達したところで踊りの終了。正味15分くらいの踊り時間であったが、汗びっしょりだ。いやあ、楽しい!
盆踊りの幕間にダンスステージ
ところで、だ。まだ踊りがはじまって30分も経っていない。一体このあとどうなるのか、と思っていたら、先ほどまで盆踊りをしていた場所におソロ衣装のギャルたちが乱入してきた。なにごと?と思っていると、先ほどのお囃子とは打って変わってあげあげアッパーなダウンチューンとともに、女子たちが踊り出す!
さっきとまったく違う世界観が展開される会場。もう、いろいろカオスだ。いろいろカオスだ! でも、カッコいい。悔しいくらいに。「ダンス」と「盆踊り」、なんだか両者縁遠い存在にも思えるけど、やっぱり同じ「踊り」なんだなってことを実感する。まあ、俺はこんなアグレッシブな動きは絶対にできないけど。
ダンスが踊ると再び「かんしょ踊り」の時間。
今度はおっさんおばちゃんがアグレッシブになる時間です。盆踊りとダンスコーナーを交互に繰り返すというプログラムらしい。踊りで疲れて、ダンスを見ながら休んで……なんかのエクササイズか。
よく見ると、さっきダンスしてた子も踊っている。もう何でもありだ。
踊りながら、かんしょ踊りは「ねぶた」に通じてるところがあるな、と思った。ねぶたとは、言わずもがな青森のねぶた祭りである。過去に数回ほど参加した経験があるのだが、ねぶたの踊り手は「跳人(はねと)」と呼ばれており、その名の通り「踊る」というより「跳ねる」。足を右左とケンケンするだけなのだが、体力も使うし、動きは単純でも人によって全然見え方が違う。優れた跳人はまるで宙に浮いているかのような躍動感のある動きをする。
かんしょ踊りも同様で、ミニマムな動きのなかに奥深さがあり、踊りを重ねるごとに工夫のポイントが見つかり「もっと良く踊れる!」という謎の向上心が心の底から湧いてくる。
再びダンスのコーナー。今度は男子ソロ。これまたカッコいい。かんしょ踊り、かなり体力を消耗するため、他の盆踊りのように何時間も続けて踊ることはできない。踊りの合間に、こういった異なるメニューを挟み込んでいくのは、たしかに名案である、と気づく。
4セットぐらいこなしてくると、さすがに息があがってくる。こんなに疲れているのは俺だけじゃないはず。なのに、踊ってる人たち、みんな笑顔。楽しくて仕方がないのである。ええい、それではこっちも何時間だって付き合ってやる! 負けん気根性を発揮して、さらに力強く踊ってみる。
踊りに夢中になるあまり、時間を忘れそうになる。いけね! 夜行バスで翌日の朝に東京に帰る予定になっているため、バスの出発時間までに郡山駅まで戻らなければいけないのだ。終わりの時間を待たずして、泣く泣く会場を後にする。さらば、かんしょ踊りよ。また、いつどこで会えるものか。
踊りでコミュニケーション
ひたすら激しく、夢中になれるかんしょ踊りはとても楽しかった。やぐらがない、という驚きはあったが、むしろ「中心」がないことで、思うがままに自由に踊り回ることができた。
それにしても、と思う。わざわざ盆踊りに参加するために一人で遠征するなんて少々やり過ぎかなと思ったのだが、実際に足を伸ばして踊ってみると、コレが良かった。その土地の空気、食べ物、人々の息づかい、文化を感じながら踊りで汗をかく。言葉はなくとも、一緒に踊っているとコミュニケーションをしているような気分になってくる。どんな人見知りでも、踊りがあれば世界中の人とつながれるのかもしれない、そんなバカみたいな壮大な気分にすらなってくる。
まだまだ、日本には様々な盆踊りがある。これからの人生をかけて、たくさんの盆通りに参加していきたいと思った「かんしょ踊り」旅行であった。
(小野和哉)
小野和哉
1985年生、千葉県出身。制作会社勤務。ミニコミ誌『恋と童貞』編集長。好きなアイスは「チョコかけちゃったスイカバー」。盆踊りはまだビギナー。
「恋と童貞」公式サイト:http://ameblo.jp/koi-dou/
かとうちあき
人 生をより低迷させる旅コミ誌『野宿野郎』の編集長(仮)。著書に『野宿入門』『野宿もん』『あたらしい野宿(上)』があって、野宿だらけ。神奈川県横浜市 に生まれ、隣の町内に混ざって神輿を担ぎ、炭坑節と南区音頭を踊って育ちました。あと、アラレちゃん音頭が好きだった記憶あり。
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