へんしん不要

へんしん不要〈第30通〉「転ばない自信」ではなく「転んでもいい自信」を 

(2020/2/28)

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イラスト・題字 のむらあい

封筒_もちい


こんにちは、冬の気配が遠ざかり、春らしい空気が鼻を掠めるようになってきましたね。体調はいかがですか? そろそろ明るい色の服を着て遊びに出かけたい、と思うものの、コロナウイルスのことを考えるとそうも言っていられない。対応するニュースを見ても思わず脱力してしまいそうになるものばかりで、今年の春はちょっと(だいぶ)暗い始まりになりそうです。

さて、私の近況ですが、実は今月になって新しいアルバイトを始めています。大学の後輩が働いている会社で週に3日ほど。お昼からの出社で夜もそんなに遅くなく、電車で通うのがそれほど苦ではない距離にあるので、しばらくの間お世話になってみることにしました。自分用の机とパソコンをもらったので、今は仕事を一つ一つ教わりながら、少しずつ居心地のよい環境を整えているところ。これまでも本屋さんでのアルバイトなどはしていましたが、このように「自分の場所」が与えられる働き方はずいぶん久しぶりです。

 数年ぶりに外でお勤めっぽいことをしてみる、と知り合いに報告すると、ちょくちょく「向いてないんじゃないの」と心配をされます。まあ、それはごもっともでしょう。私だって、自分が他人だったらちょっと心配になります。ただこの数年間で少しずつ心と体の運転方法がつかめてきたこともあり、もうちょっと自分を信用してみてもいいような気にもなっているのです。この「信用」とは、「何があっても失敗しない」というものではなく、「何かあってもそこそこ持ち直せる」というのもの。転ばない自信ではなく、転んでもいいやと思える自信です。

 時間や場所などの条件もあるのですが、私がそこで働いてみようと思った大きな理由に、後輩がぼろっとこぼした「ここの人たちは本当に他人に対する興味がないんですよ」という言葉があります。それはとてもありがたいことです。興味を持たれながら慣れない仕事をするのは、大変な緊張と不安を招きますから。実際、その性質のおかげで比較的肩の力を抜いて通えているような気がします。

働き始めて2週間経ったころ、会社の人たちが仕事の後に歓迎会を開いてくれました。ちなみにメニューは鍋。みんなで一つの鍋をつつき合うというのは、親交を深めるのには適した行為です。「コロナ」の3文字が頭をよぎりましたが、もうどうしようもありません。私は会を楽しみ、翌日から熱を出して会社を10日間休みました。一緒に鍋を囲んだ人たちがみんな元気だったので、それは本当によかったなと思います。

もちい

餅井アンナ(もちい・あんな)

1993年宮城県生まれ。ライター。食と性、ジェンダーについての文章を中心に書いています。「wezzy」にて書評・コラムなどを執筆中。食と性のミニコミ『食に淫する』制作。

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