へんしん不要

へんしん不要〈第8通〉別々のためらいを思い出す 

(2017/12/5)

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イラスト・題字 のむらあい

封筒_住本

餅井さん、こんにちは。前回は待っててくれてありがとう。心配をおかけしましたが、寒さも定まってきて、わたしはうそのように調子がよくなりました。いまだに調子がよくなる理由も悪くなる理由もわかりません。調子がいいときのわたしは悪いときのわたしが不可解で、調子が悪いときのわたしはいいときの自分が想像できない。自分同士がわかりあえないまま、日々が通りすぎていきます。

でもこの連載では、いろんなことがわかりつつある。そんな気がします。この連載というより、すべての餅井さんとの関わりのなかで、といった方がいいかもしれません。餅井さんと接していると、自分のことが思い起こされます。何にひっかかるかや何にためらうかが、程度の差はあれ近いものがあるような気がするのです。どうためらうかではなく、何にためらうか。ためらったものにどう対応するかは案外ちがうから、性格が似ているのとはちょっとちがうのかもしれない。

餅井さんがわたしが調子を崩していたときに「大丈夫だよ」というのをためらったように、わたしも餅井さんが勇気を出して打ち明けてくれたつらさに、なんて反応したらいいかわからないときがたまにありました。理由はふたつあって、「わかる」というのは簡単だけど、本当にわかっているんだろうか、と思う場合がひとつ。そして餅井さんの言っていることが本当に想像の範囲外のときがひとつです。どちらの場合も、そんなの考えすぎなんじゃないのとか、おもしろい考え方だね! と返すのはなんだか違う。どうしたらいいかわからないけれど、餅井さんが苦しそうなことはわかる。

たとえば『仕事文脈』の編集部で合宿をしたとき、餅井さんは『ちびまる子ちゃん』を見るのがつらい、といっていましたね。まる子が何かやらかして最悪の結末になるのを見てまる子に感情移入してしまうから、と。正直ちょっと虚をつかれました。でもそのときわたしは、うまいこといって励ましてやろうと思って「でもまる子は大人になって立派な漫画家になったよ、最終的にはいい話じゃない?」といったら、餅井さんは「それもつらい。だめなやつだと思っていたのに、どうしてそんなに遠くへ行ってしまったの……」と息を詰まらせていっていました。そのときの餅井さんにこれ以上何かいったら、泣いてしまうんじゃないかと思った。たぶん合宿の初日で、疲れていたときだったと思います。

そのときわたしは何もいいませんでした。どうしたらいいかわからなくなると、ためらいなく黙るわたし。まる子の話はあんまり共感できなかったけれど、落ち込んでいるときなんかに想像力がついついたくましくなって、悲観的なことを口走ってしまう、そして誰にも理解されないという瞬間には覚えがあります。餅井さんがそういう状態だったのかはわからないけれど、そういう気分は知っているかもしれない。でもそれってそのときの気持ちは、その人だけのものじゃないですか。つらいことでもうれしい感情でもそうだけど、誰にも渡したくない感覚がある。誰かがわたしのこと、わかるわけない。わたしはそんなふうに意固地に思うことが、いまだにあるのです。

餅井さんがわたしの体調を気遣ってくれて「大丈夫ですよ」っていってくれたのに、その気遣いをうまく受け取れなかったのは、こういうことなのかもしれません。餅井さんと接していると、餅井さんではなくわたし自身のことがよくわかるような気がします。餅井さんの切実な言動が、わたしの切実さを思い出させるような気がするのです。わたしが切実に考えていることの断片の輪郭が、少しだけわかってくるような気がする。

餅井さん自身のことは、まだわからないことが多いです。会う機会は増えたけど、見えることがたくさんあるのと深くわかることは違うと思うから。でも見えたものも多いです。丁寧なところ、突飛なところ、感情が強いところ、爆笑すると眉毛がふわっと上がるところ(これが出ると、お、心から笑ってるなと思ってます)。そのどれもがわたしにはまぶしい餅井さんの魅力です。

餅井さんにとってのわたしがどうあっても、餅井さんにとってのこの連載が私の認識と違うものでもいい。そう思っていたんだけど、少しだけ、わたしの書くことが餅井さんに影響したらうれしいなあとは思いはじめています。でもやっぱり、違うことは大前提で大事にしたい。わたしとの関わりのなかで餅井さんが全然別のこと思いついたり、思い出したりするようなことがあれば、きっと楽しいんじゃないかなあと思ったりするのです。

住本

住本麻子(すみもと・あさこ)
1989年福岡県生まれ。フリーランスライター。文学や演劇などの文化系の記事やジェンダー関連の記事を中心に取材記事やコラム・エッセイなどを執筆している。
餅井アンナ(もちい・あんな)
1993年宮城県生まれ。ライター。食と性、ジェンダーについての文章を中心に書いています。「wezzy」にて書評・コラムなどを執筆中。食と性のミニコミ『食に淫する』制作。

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