へんしん不要

へんしん不要〈第7通〉 「大丈夫だよ」って言いたい、でも言えない 

(2017/11/22)

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イラスト・題字 のむらあい

メールもちい

 こんにちは。住本さんの更新、待っていました。「待っていた」って、言われると嬉しいような、微妙にプレッシャーを感じるような、不思議な言葉ですよね。私は友達と遊ぶとしょっちゅう遅刻をするのですが「すみません遅れます! ダッシュで行きます!」と連絡をすると、だいたい「急がなくていいから気をつけてゆっくりおいで」と返ってきます。私も人が遅れてくるときは、いつもそう言うようにしています。そんな感じで待っていたと言ったら、伝わるでしょうか。

 住本さんが辛そうだなというのを察知してから、私はずっと住本さんに何か言葉をかけるべきか迷っていました。結果として、ツイッターのダイレクトメッセージで「その時期はいつか過ぎ去るから大丈夫」みたいな要領を得ない文面を送りつけてしまった。送った瞬間に、自分でも「これは違う」と思いました。住本さんからも「そういうのじゃないんや……」という返信が来て、かなりやっちまったぜという気持ちになりました。人を気遣うのはむずかしい。誰かを労りたい、慰めたいという気持ちは身勝手で傲慢なものです。

 「大丈夫だよ」って言いたくて、でも言うことができない。言ってしまいたくなかったのに、つい口にしてしまう。毎日が辛くてたまらなくて、心も身体もまったく思い通りに動かない。いっそどうにかなってしまいたいと思うのに、辛い自分から逃げ出すこともできない。数年前、私にもそういう時期がありました。ありました、と過去の出来事として切り離して語ることもまだできないし、今の「不調が普通」の状態もそれと地続きなのですが、当時とても嫌だったことの一つに、周囲の人たちから「大丈夫だよ」という言葉をかけられることがありました。「そんなこと大したことじゃない」と言われているようで。だけど当時の私にとって、その辛さは絶対的なものだったのです。

 あるいは、似たような経験を乗り越えた人からの言葉。「私もすごく辛かったけど、今はもう大丈夫。だからあなたもいつか大丈夫になるよ」。自分にその「いつか」が来るなんて、到底信じられませんでした。私とあなたの置かれている環境は違う。辛い状況を抜け出すには、自分一人の力では足りないこと、多少なりとも支えになってくれる人や物、出来事などが必要なのだということはなんとなく分かっていました。立ち直るには色々な条件が必要なのです。その条件が揃わなかったとき、私は一体どうしたらいいのか。すごく惨めな想像でした。

 またこれは自分にも言えることですが、一度どん底を知ってしまうと、たとえば「三年前は寝たきりだったけど、今は外にも出られて、食事もお風呂もこなせている。それに比べたら今はまだ大丈夫じゃん」というふうに考えることが多くなります。辛さを相対評価してしまうわけですね。辛い気持ちに振り回されているけれど、それでも生活はできている。だから「大丈夫」。他人から、自分から囁かれるその言葉は、支えになるときもあれば重石になるときもあります。大丈夫なんだけど、大丈夫じゃない。「人生と生活と日常は別軸だから」と言うのは、私のお友達の言葉です。生活はできているけど人生が真っ暗、日常がうまくいっていない。そういうことがあるから、自分にも他人にも、大きな声で「大丈夫」と言うことをためらってしまう。

 だけど、それでも「大丈夫だよ」と言いたいと思ってしまう。それは他人の状況を判断した結果というよりは、私自身の願望のようなものです。「この人はきっと大丈夫になる、大丈夫であってほしい」。祈るように「あなたは大丈夫」と言ってくれる人もいます。だけどその「大丈夫」がしっくりこないときだってあるだろうし、言われた相手を傷つけたり苦しめたりすることだってあるかもしれない。だから言いたくて言えない。なのにうっかり言ってしまって後悔したりする。たった一言、それも使い古された言葉だからこそ、ついつい口をついて出てきてしまうのかもしれません。

 住本さんはトンチンカンな「大丈夫」を送りつけてきた私に「違うけど、気遣いは違くないから」と言ってくれましたね。人を気遣うのはむずかしいことだし、100点満点の言葉なんて絶対出せない、一言でビシッとも決められない。誰かを励ましたり労ったり慰めたりしたいという願望も、やっぱりただのエゴかもしれません。私にできるのは、たくさん考えて言葉を尽くすことくらいです。しかしそれも、的外れなことを書いていたらどうしよう……。正直なところ不安ですが、住本さんの「気遣いは違くない」に身を委ねて筆を置きます。来月は忘年会しましょうね。

 もちい

餅井アンナ(もちい・あんな)
1993年宮城県生まれ。ライター。食と性、ジェンダーについての文章を中心に書いています。「wezzy」にて書評・コラムなどを執筆中。食と性のミニコミ『食に淫する』制作。
住本麻子(すみもと・あさこ)
1989年福岡県生まれ。フリーランスライター。文学や演劇などの文化系の記事やジェンダー関連の記事を中心に取材記事やコラム・エッセイなどを執筆している。

 

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