へんしん不要

へんしん不要〈第12通〉就活を頑張る人はえらい、就活を頑張らなかった私もえらい 

(2018/4/18)

バナー_へんしん不要++イラスト・題字 のむらあい

メールもちい

 住本さん、お久しぶりです。調子はどうですか。私は実はそこそこ元気です。仕事がなぜかめちゃめちゃに忙しく疲れぎみではありますが、銭湯に行ったり散歩をしたりして息抜きをしています。ちょっとだけ自分の機嫌をとるのがうまくなった気がします。


 春になり、街にリクルートスーツを着た学生さんの姿が現れるようになりました。先日、所用で一時帰省をしていたのですが、地元に向かう新幹線の車内にもスーツ姿で居眠りをする男の子などがおり、偉いなぁ、あんなにぴっしりジャケットまで着ていたら肩が凝るだろうなぁ、移動中だけでもだらしなくしてていいのに、と尊敬といたましさが半々くらいの気持ちに襲われました。ちょっと涙も出そうだった。もしも私が大富豪だったら、「これでおいしいものでも食べな」と道ゆく就活生全員の手のひらに一万円札を握らせることでしょう。


 就活を頑張っている人たちは偉い。ものすごく偉い。異常に心を揺さぶられてしまうのは、自分が就活を投げ出した人間だからかもしれません。ちょうどそのとき私は精神的に不安定で、電車に乗ったり、人混みに出て行こうとするたびにパニックの発作を起こしていました。そんな状態では自信など持てるはずもなく、面接で「自分の長所をアピールしてください」と言われても、ますますパニックになるだけです。結局正統派の方法で就職するのは諦め、今の不安定な暮らしに至るのですが、そのことについてはやや引け目を感じています。


 大学の後輩たちが就活をしているとき、彼女たちの悩みや不安に対して、私は有益な助言というものが何一つできませんでした。早々にドロップアウトした私は「就活なんかしなくたっていいよ」「やばいと思ったらすぐに逃げちゃえ」などと無責任なことしか言えません。ちゃんと就活をこなしてきた人だったら、少しは彼女たちの助けになれただろうか。そんなことを考えては若干情けない気持ちになっていました。


 だけど最近、そんな自分宛に進路の相談がちらほらと舞い込むようになってきました。メンタルや体調面に不安があり、正社員として働くことに不安を感じている。フリーで文章を書く仕事につくにはどうしたらいいのか……。自分と似たような境遇で悩んでいる人に向けて返事を書いていると、就活がうまくいかなかったことも、散々悩んだりもがいたりしたことも、どこかで人の役に立つんだなと思えてくるのでした。就活をしたい人には就活がうまくいった人の経験が、就活をしたくない人には就活ができなかった人の経験が、それぞれしっくりくるのかもしれません。「就活から逃げたっていい」という言葉が役に立つ人だっているはずです。

 
 「就活なんかしなくていい」。赤の他人に対してこう言ってしまうのは、無責任なことかもしれません。きっと周囲の良識のある大人たちは、そんなことは言わないでしょう。でもみんなが「ちゃんとしよう」という言葉をかけるのであれば、一人くらい「ちゃんとしようとしなくていいよ」と言う人間がいたっていいんじゃないか。私自身、そう言ってくれる人の存在に救われた経験があります。


  それに、就活を頑張ってやり遂げた人たちもえらいけど、就活をさっさと諦めて、他の道に逃げ込んだ自分だってえらいのではないだろうか。あのまま惰性の「ちゃんとしなきゃ」で就活を続けていたら、今頃もっとひどいことになっていたでしょう。


  数日前、初めて仕事の依頼を受けた会社に挨拶に行きました。そのときに、就活中にあんなに苦手だった「自分の長所をアピールすること」が、ごく自然にできていることに気がつきました。場所に合わせた文体で文章が書けます。エッセイやコラムだけではなく、書評やインタビューの構成もできます。インタビュアーの仕事は、話し上手な人より、口下手な人と一緒に考えながら話を聴いていく方が向いていると思います。テープ起こしの作業は苦手なのでお任せしたいです……。長所だけではなく、短所だと思っているところも構えることなく伝えることができて、とても驚きました。リクルートスーツを着てしどろもどろになっていた面接をやり直したような気分です。「これが2年前にできてたら、内定もひとつくらい取れてたんじゃないかなぁ」と調子に乗ったことも考えましたが、内定が取れず、それでもこの2年どうにかやってこれたことでついた自信のような気もします。きっとそうでしょう。帰り道はとても晴れやかな気持ちでした。

もちい

餅井アンナ(もちい・あんな)
1993年宮城県生まれ。ライター。食と性、ジェンダーについての文章を中心に書いています。「wezzy」にて書評・コラムなどを執筆中。食と性のミニコミ『食に淫する』制作。


住本麻子(すみもと・あさこ)
1989年福岡県生まれ。フリーランスライター。文学や演劇などの文化系の記事やジェンダー関連の記事を中心に取材記事やコラム・エッセイなどを執筆している。

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